供述が食い違うときの事実認定|社内調査で会社が確認すべき判断軸

2026.03.26
管理職が判断と責任を担う場面を象徴するイメージ

ハラスメント、不祥事、服務規律違反、社内トラブル。

社内調査を進めていくと、必ずと言ってよいほど突き当たる場面があります。

それが、関係者の供述が食い違う場面です。

一方は「その発言はあった」と話している。
もう一方は「そのようなことは言っていない」と否定している。

一方は「周囲にも聞こえていた」と話している。
もう一方は「二人だけの会話だった」と説明している。

目撃者の話も、完全には一致しない。

このような場面で、会社は迷います。

「どちらを信じればよいのか」
「証拠がない以上、判断できないのではないか」
「供述が割れているなら、処分はできないのではないか」

しかし、この問いの立て方自体に注意が必要です。

社内調査で大切なのは、単にどちらを信じるかではありません。

大切なのは、どの供述の、どの部分を、どの根拠で評価するかです。

私の言い方でいえば、供述評価は、好き嫌いや印象で決めるものではありません。

供述の強さではなく、供述の構造を見る。

これが重要です。

声が大きい人が正しいとは限りません。
落ち着いて話す人が真実を話しているとも限りません。
強く訴えている人の話が、すべて事実とも限りません。
否定している人の話を、そのまま受け入れてよいわけでもありません。

供述が食い違う場面では、一貫性、具体性、合理性、利害関係を整理し、補強資料と照合しながら、会社として説明できる判断に近づけていく必要があります。

この記事では、供述が食い違う社内調査で、会社がどのように供述を評価し、事実認定につなげるべきかを整理します。

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この記事で扱う問題

この記事で扱うのは、次のような場面です。

ハラスメント申告で、申告者と相手方の話が食い違っている。
服務規律違反について、本人と管理職の説明が違っている。
社内不正の疑いで、関係者の供述が一致しない。
「言った・言わない」の状態になっている。
証拠が少なく、供述評価が中心になる。
目撃者はいるが、目撃者同士の話も一致しない。
どこまで事実認定できるか判断に迷っている。

このようなケースでは、会社が感覚で判断すると危険です。

「この人は普段から真面目だから」
「この人は感情的だから」
「態度が悪いから信用できない」
「泣いているから本当だろう」

こうした印象は、事実認定の根拠としては不安定です。

会社が行うべきなのは、供述を分解し、共通部分と相違部分を整理し、補強資料と照合することです。

「どちらを信じるか」で考えない

供述が食い違うと、会社はどうしても「どちらを信じるか」と考えたくなります。

しかし、実務では、片方が100%正しく、もう片方が100%間違っているとは限りません。

一方の供述の一部は正しい。
もう一方の供述にも正しい部分がある。
目撃者の供述も、見ていた範囲に限れば正しい。
ただし、重要部分については記憶違いや認識のズレがある。

このようなことはよくあります。

私が現場で見てきた感覚でも、供述は「採用するか、排除するか」の二択で考えると危険です。

片方が70%、もう片方が30%、事実に近いことを話している場合もあります。

だからこそ、供述は人単位で判断するのではなく、項目ごとに評価する必要があります。

「この人を信じる」ではなく、
「この人のこの部分は、他の資料と整合している」
「この部分は、前後の経緯と合わない」
「この部分は、追加確認が必要である」

このように整理します。

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供述が食い違うのは珍しいことではない

見た位置や聞こえた範囲で話は変わる

同じ場面を見ていても、供述は一致しないことがあります。

立っていた位置が違う。
聞こえた範囲が違う。
その場で注目していた点が違う。
一部だけ見ていて、前後を見ていない。

このような場合、それぞれが見聞きした範囲では正しい話をしていても、全体として供述が食い違うことがあります。

そのため、目撃者がいる場合でも、

どこにいたのか。
どの範囲を見ていたのか。
どの発言を直接聞いたのか。
後から誰かに聞いた話が混ざっていないか。

を確認する必要があります。

記憶違いや認識の違いも起きる

人の記憶は、録画データではありません。

時間が経つと、記憶があいまいになります。

強く印象に残った部分だけが大きく残ることもあります。
自分に不利な部分を小さく記憶することもあります。
言葉そのものではなく、受け止めた印象だけが残ることもあります。

だからといって、供述がずれている人が必ず嘘をついているとは限りません。

供述のズレは、虚偽の可能性を検討する材料にはなります。

しかし、最初から「嘘」と決めるのではなく、なぜズレが生じているのかを確認します。

片方が全部正しく、片方が全部間違いとは限らない

供述が対立している場合でも、一部は一致していることがあります。

同じ日に面談があった。
注意指導があった。
会議後に二人で話した。
その後、相談者が別の管理職に相談した。

このような一致点は、事実認定の土台になります。

一方で、発言の正確な文言、声の大きさ、態様、意図については食い違うことがあります。

会社は、全部かゼロかで考えず、認定できる部分と認定できない部分を分ける必要があります。

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供述評価で見る4つの視点

一貫性

一貫性とは、供述が大きく変わっていないか、時系列として矛盾していないかを見る視点です。

最初の相談内容。
正式なヒアリングでの説明。
追加確認での説明。
周囲に相談していた内容。
メールやチャットに残っている内容。

これらを比較します。

ただし、小さなズレがあるからといって、直ちに信用できないとは限りません。

動揺していて日時を取り違えた。
複数の出来事が重なって記憶が混ざった。
後から資料を見て正確な日付を思い出した。

このように、供述の変化に合理的な理由がある場合もあります。

重要なのは、中心部分が一貫しているかどうかです。

具体性

具体性とは、供述が確認可能な形になっているかを見る視点です。

「ひどいことを言われた」
「威圧的だった」
「嫌がらせを受けた」

このような表現だけでは、事実認定にはまだ粗い状態です。

一方で、

「〇月〇日、会議後に、会議室で、上司から〇〇と言われた」
「その場には〇〇さんがいた」
「その後、チャットで〇〇と相談した」

このように具体化されていれば、他の資料や関係者の話と照合できます。

私の言い方でいえば、抽象的な訴えを、確認できる事実にまで下ろすことが必要です。

ここを飛ばすと、供述評価はできません。

合理性

合理性とは、供述の内容が前後の流れや状況と自然につながっているかを見る視点です。

その時間にその場所にいることは自然か。
その後の行動と説明がつながっているか。
業務記録や勤怠記録と矛盾していないか。
周囲の状況と整合しているか。
一般的な行動として不自然さはないか。

たとえば、本人が「その時間は別の場所にいた」と説明しているのに、入退室記録やチャット履歴から同じ場所にいた可能性がある場合は、追加確認が必要です。

反対に、申告者の説明が周辺資料と合わない場合も、同じように確認が必要です。

合理性を見るときは、どちらか一方に都合のよい情報だけを拾わないことが大切です。

利害関係

利害関係とは、その人がどのような立場で供述しているかを見る視点です。

自分に不利益なことを話しているのか。
誰かをかばう可能性があるのか。
相手方と強い利害関係があるのか。
人間関係の対立があるのか。
処分や評価に影響する立場なのか。

自分に不利な事実を認めている場合、その部分は一定の信用性を持つことがあります。

一方で、自分を守るため、誰かを守るため、または相手を不利にするために、供述が偏る可能性もあります。

利害関係は、それだけで供述を排除する理由にはなりません。

ただし、供述の重みを考えるうえで確認すべき要素です。

よくある判断ミス

印象や好き嫌いで判断する

供述評価で最も避けたいのは、印象や好き嫌いで判断することです。

「あの人は普段から信用できる」
「あの人は反抗的だから信用できない」
「あの人は会社に貢献している」
「あの人はよく不満を言う」

このような人物評価は、今回の事実認定とは分ける必要があります。

普段は真面目な人でも、不適切な言動をすることはあります。
普段から不満を言う人でも、実際に被害を受けていることはあります。

見るべきなのは、その人の人格ではなく、供述の中身です。

声の大きさや態度に引きずられる

ヒアリングでは、相手の態度が気になります。

怒っている。
泣いている。
落ち着いている。
目を合わせない。
説明が細かい。
反応が薄い。

しかし、態度だけで信用性を判断することは危険です。

動揺しているから嘘とは限りません。
冷静だから真実とも限りません。

供述評価では、態度よりも、内容、一貫性、具体性、合理性、補強資料との整合性を重視します。

申告者が常に正しいと決めつける

申告者の話を軽く扱ってはいけません。

しかし、申告者の供述がすべて正しいと最初から決めつけることも避けるべきです。

申告者への配慮と、事実認定は分けて考えます。

相談を受け止めることは必要です。

一方で、会社として処分や配置転換を検討する場合は、事実確認が必要です。

相手方が否定しただけで終わらせる

相手方が否定しているからといって、それだけで調査を終えるのも適切とは限りません。

「本人が否定している」
「録音がない」
「目撃者がいない」

これだけで終了すると、会社として確認すべきことを確認していない可能性があります。

相手方が否定している場合でも、

否定の内容が具体的か。
前後の行動と整合しているか。
客観資料と矛盾していないか。
一部認めている事実はないか。

を確認します。

証拠がないから判断できないと考える

直接証拠がないからといって、直ちに判断不能になるわけではありません。

供述、間接資料、前後の行動、相談記録、業務ログなどを組み合わせることで、認定できる部分が見えてくることがあります。

ただし、疑いだけで認定してよいわけでもありません。

証拠が少ない場合ほど、調査過程と判断理由を丁寧に記録する必要があります。

会社が確認すべき事項

供述の共通部分

まず、供述の共通部分を整理します。

同じ日に面談があった。
会議後に二人で話した。
注意指導があった。
特定のメールやチャットが送られている。
相談者がその後、管理職に相談している。

共通部分は、事実認定の土台になります。

供述が食い違う場合でも、共通部分から整理すると、全体像が見えやすくなります。

供述の相違部分

次に、相違部分を整理します。

発言の有無。
発言の正確な文言。
声の大きさ。
同席者の有無。
前後の経緯。
相手方の意図。
その後の対応。

「話が違う」で終わらせるのではなく、どの点が違うのかを細かく分けます。

相違点が明確になれば、追加で確認すべき資料や関係者も見えてきます。

補強資料と照合できる部分

供述だけで判断せず、補強資料と照合します。

メール。
チャット。
勤怠記録。
入退室記録。
会議予定。
業務日報。
面談記録。
相談記録。
防犯カメラ映像。
システムログ。

これらは、直接の証拠でなくても、供述の信用性を支える資料になることがあります。

私の言い方でいえば、一点の証拠に飛びつかず、外堀を埋めるように確認するということです。

追加確認が必要な部分

供述と資料を照合すると、追加確認が必要な点が出てきます。

日付が違う。
場所が違う。
その場にいた人の説明が違う。
メールの時刻と供述が合わない。
相手方の説明が途中で変わった。
申告者の説明にあいまいな部分がある。

こうした点は、再ヒアリングや追加資料確認で整理します。

追加確認は、責めるためではありません。

判断の精度を上げるために行います。

認定できる部分と認定できない部分

最後に、認定できる部分と認定できない部分を分けます。

供述評価は、最終的な事実認定の前提です。

全部を認定できるとは限りません。

一部は認定できる。
一部は認定できない。
一部は追加確認が必要。
一部は職場環境上の課題として扱う。

このように分けることで、処分、指導、配置調整、再発防止の判断がしやすくなります。

実務対応の流れ

1. 争点を分解する

まず、何が争点なのかを分解します。

発言があったか。
発言の内容は何か。
場所はどこか。
誰が見聞きしたか。
業務上の必要性はあったか。
態様は相当だったか。
就業環境への影響はあったか。

争点によって、確認すべき資料や関係者は変わります。

2. 供述対照表を作る

申告者、相手方、目撃者、関係者、客観資料を横並びで整理します。

日時。
場所。
発言内容。
同席者。
前後の経緯。
その後の行動。
資料との整合性。

供述対照表を作ると、共通部分、相違部分、未確認部分が見えやすくなります。

3. 補強資料を当てはめる

次に、補強資料を当てはめます。

メールやチャットの時刻。
会議予定。
勤怠記録。
入退室記録。
業務日報。
相談記録。

供述だけで判断するのではなく、供述を支える資料があるかを確認します。

4. 供述の変遷を確認する

供述が途中で変わっている場合は、その理由を確認します。

記憶違いだったのか。
資料を見て思い出したのか。
前回は動揺して話せなかったのか。
説明に不自然な変更があるのか。

供述が変わったから直ちに信用できないとは限りません。

ただし、重要部分の変遷には合理的な理由が必要です。

5. 判断理由を記録する

最後に、判断理由を記録します。

どの供述を重視したのか。
どの資料と整合していたのか。
どの部分は認定できたのか。
どの部分は認定できなかったのか。
なぜその結論に至ったのか。

供述評価が甘いと、その後の事実認定、処分判断、再発防止がすべて不安定になります。

だからこそ、結論だけでなく、判断の過程を残す必要があります。

供述評価は判断の核心である

供述評価は、社内調査の一部分ではありません。

事実認定の前提です。

供述評価が曖昧なまま事実認定に進むと、会社の判断は不安定になります。

処分判断も、配置転換も、再発防止も、説明責任も揺らぎます。

私が特に大切だと考えているのは、信じるかではなく、説明できるかという視点です。

その供述を重視する理由を説明できるか。
その供述を採用しない理由を説明できるか。
補強資料との関係を説明できるか。
認定できない理由を説明できるか。

ここまで整理できて初めて、会社としての判断になります。

供述評価は、判断の核心です。

まとめ

社内調査で供述が食い違うことは珍しくありません。

ハラスメント、不祥事、服務規律違反、内部トラブルでは、むしろ供述が一致しないことを前提に考える必要があります。

大切なのは、「どちらを信じるか」で考えないことです。

供述は、人単位ではなく、項目ごとに評価します。

一貫性、具体性、合理性、利害関係を確認し、共通部分と相違部分を分け、補強資料と照合します。

直接証拠がない場合でも、間接資料や前後の行動から認定できる部分が見えてくることがあります。

一方で、認定できない部分を無理に埋める必要はありません。

供述評価で重要なのは、感覚ではなく構造です。

供述の強さではなく、供述の構造を見る。
信じるかではなく、説明できるかで考える。
結論だけでなく、判断の過程を記録する。

これが、供述が食い違う社内調査で会社が持つべき視点です。

社内調査の供述評価に迷う場合

供述が食い違う事案では、社内だけで判断しにくい場面があります。

特に、次のような場合は、早めに供述評価と事実認定の進め方を整理しておくことが重要です。

申告者と相手方の供述が大きく食い違っている場合。
目撃者の話も一致していない場合。
直接証拠が少なく、供述評価が中心になる場合。
懲戒処分や配置転換を検討している場合。
どこまで認定できるか判断に迷う場合。
判断理由の記録方法に不安がある場合。

当事務所では、ハラスメント事案を含む社内トラブルについて、初動対応、事実確認、ヒアリング、事実認定、処分判断の整理を支援しています。

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社内だけで判断しにくい場合や、供述が食い違う社内調査の進め方に不安がある場合は、早い段階でご相談ください。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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