「言った言わない」の供述が食い違う時の解決策|元刑事が教える、嘘を見抜き真実を導く評価技術

ハラスメントや不祥事の社内調査を進めていくと、必ず突き当たる場面があります。
それは、証拠が十分にそろわない中で、関係者の供述が食い違う場面です。
一方は「そのような行為はあった」と主張し、もう一方は「事実ではない」と否定する。
周囲に明確な目撃者もおらず、決定的な証拠も存在しない。
このような状況は、実務では決して例外ではありません。
むしろ、多くの事案がこの状態に行き着きます。
そのとき企業の中では、次のような声が上がります。
「どちらを信じればいいのか」
「証拠がない以上、判断はできないのではないか」
しかし、この問いの立て方自体が、すでに誤っています。
企業の調査において求められているのは、「どちらが正しいかを決めること」ではありません。
限られた情報の中で、供述や状況を整理し、合理的な根拠に基づいて判断を組み立てることです。
言い換えれば、問題は「信じるかどうか」ではなく、「どのように評価するか」にあります。
供述の評価は、経験や勘に頼るものではありません。
一貫性、具体性、合理性といった視点をもとに整理することで、証拠が十分でない場合でも、判断の精度を高めることができます。
そして、この供述評価の精度こそが、その後の事実認定、処分判断、さらには企業の説明責任の質を左右します。
本記事では、供述が食い違う場面で企業がどのように考えるべきか、そして、実務において供述をどのように評価し、判断につなげていくのかを整理します。
「証拠がないから判断できない」と立ち止まるのではなく、限られた情報の中で判断を組み立てるための実務的な視点を解説します。
供述が食い違うのは「例外」ではない
多くの事案で供述は一致しない
被害者・行為者で真逆になることは珍しくありません。
関係者からの供述でも、それぞれが真実を供述していたとしても、内容まで同じになるとは限りません。
同じ場所からの目撃情報であっても、それぞれの位置関係などによって見え方が異なることもあります。
また、記憶の曖昧さや認識の違いから、供述内容が異なる場合もあります。
「どちらが正しいか」という発想の危険性
両者や関係者が真実を語っていた場合、どちらか一方の供述のみを採用することは危険です。
片方が70%、もう片方が30%、真実を語っている可能性もあるからです。
あくまで実務上は「全体評価」を行うべきです。
つまり、どちらか一方を採用するのではなく、双方の供述を総合して事実を判断していくことが求められます。
企業は刑事裁判と同じ判断をする必要はない
企業内判断と刑事責任の違い
企業内判断は、
職場環境の維持や組織運営を目的として、会社が行う私的な判断です。
供述や状況証拠を含めた合理的な根拠に基づく総合判断で足ります。
一方、刑事責任は、
法律に基づき国家が人を処罰する公的な判断です。
身体の自由を制限する刑罰が伴うため、厳格な証拠と高い立証水準が求められます。
「合理的根拠に基づく判断」で足りる
企業内判断の方がハードルが低いため判断しやすい、という意味ではありません。
ただし、公的判断ほど高い立証水準は求められないという点は重要です。
判断に至るまでの調査については最大限行うべきです。
そして、その調査に基づいた合理的判断が必要となります。
私は、合理的判断の目安として「説明ができるかどうか」が重要であると考えています。
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① 一貫性(話がブレていないか)
時系列に矛盾がないか。
供述の変遷がないか。変遷があった場合には、その変遷に至る合理的な理由が必要となります。
例えば、「動揺していたため、1日目の夜と2日目の夜の出来事を取り違えていた」といった事情です。
小さなズレがあったとしても、客観的に違和感のない内容であれば問題はありません。
② 具体性(内容が具体的か)
供述内容が具体的であるかどうかは重要です。
実際に見聞きしたことや体験したことは、通常、具体的に語られるものです。
逆に、抽象的な内容の供述しか得られない場合は、信ぴょう性に乏しい可能性があります。
③ 合理性(不自然ではないか)
行動の流れが不自然ではないか。
例)体調が悪いにもかかわらず遊びに行っている
状況との整合性があるか。
例)繁華街で周囲が騒がしい状況にもかかわらず、会話内容を完全に記憶している
社会通念とのズレがないか。
例)一般常識から見て不自然な言動ではないか
④ 利害関係(動機の有無)
虚偽供述の可能性があるかどうか。
本来登場するはずの関係者が供述に出てこない場合は、その人物を庇っている可能性も考えられます。
また、自らに不利益となる供述をしている場合は、信ぴょう性が高いと評価されることがあります。
通常、自分に不利な内容を積極的に述べる合理的理由は乏しいためです。
証拠がなくても判断できる理由
直接証拠がないケースは多い
ハラスメントや密室事案では、直接的な証拠が乏しいケースが多く見られます。
したがって、直接証拠がないという理由だけで判断を放棄してしまうと、企業として何も判断できなくなります。
間接証拠とは、事実そのものを直接示すものではありませんが、他の事実と組み合わせることで結論を導く証拠を指します。
例)
・当該時間に同じ場所にいた記録(入退室ログ)
・直前・直後のやり取り(メール・LINE)
・周囲の目撃証言(行為そのものは見ていない)
単体では決定打とならない証拠であっても、積み重ねることで事実認定につながります。
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状況証拠と供述の組み合わせ
時間や場所が他の供述と一致しているかは重要なポイントです。
また、前後の行動を精査することも重要です。
例)前後の行動からA町にいるはずなのに、当該時間帯だけ遠方のB町にいるとする供述は不自然である
供述が割れたときの整理手順
① 争点を分解する
何が争点なのかを明確にする必要があります。
被害の程度なのか、行為者の人数なのかなど、争点により収集すべき証拠は異なります。
② 共通部分と相違部分を分ける
共通している部分については、信ぴょう性が確認できれば事実認定して差し支えありません。
例えば、関係者全員が行為場所をA町と供述している場合、その供述に信ぴょう性が認められれば、行為場所はA町であると認定できます。
③ 補強証拠を当てはめる
直接証拠がない場合は、メール、写真、チャットなどの間接的な補強証拠を収集します。
補強証拠とは、供述や他の証拠の信用性を支えるための証拠です。
例
・被害者の供述と一致するメール履歴
・行為後の行動(体調不良や配置変更の申告)
・第三者による間接的証言(様子の変化など)
主たる証拠ではなく、「その供述は信用できる」と裏付ける役割を果たします。
④ 判断可能性を検討する
収集した証拠を踏まえ、会社としてどのような判断・処分が可能かを検討します。
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供述評価と事実認定の関係
供述評価は事実認定の前提
供述評価を行った上で、事実認定を行います。
この順序を誤ってはいけません。
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供述評価が甘いとすべて崩れる
供述評価が不十分であると、誤認定や不当処分のリスクにつながります。
適切な供述評価のためには、直接証拠だけでなく、間接証拠や補強証拠の収集が不可欠です。
実務でやってはいけない供述評価
印象や好き嫌いで判断する
これは論外です。
客観性を欠いた判断は、企業の信用を損ないます。
声の大きさ・態度に引きずられる
性格や態度によって評価を変えてはいけません。
被害者=正しいと決めつける
被害者を疑うべきという意味ではありません。
しかし、実務上、すべてが100対0である事案ばかりではありません。
事実認定に至るまでは、広い視野でヒアリングを行う必要があります。
証拠がない=判断不能とする
直接証拠がなくても、調査により間接証拠が得られる可能性はあります。
また、間接証拠となり得るという視点で資料を精査することも重要です。
「どうせ証拠は出てこない」と考えて調査を行えば、証拠を発見することはできません。
まとめ|供述評価は「判断の核心」である
供述は必ず食い違う
評価はフレームで行う
判断は総合評価
以上の点を踏まえ、調査に臨むことが重要です。



