カスハラ【ケース判断編②】繰り返し要求・居座り・長時間拘束をどう判断するか

2026.05.07
目次

繰り返し要求・居座り・長時間拘束はどこから問題になるのか

指針でも「継続的・執拗な言動」と「拘束的な言動」は典型例とされている

厚生労働省の指針は、継続的・執拗な言動として、同様の質問の執拗な繰り返し、当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な責め立て、同様の電子メール等の執拗な反復を挙げています。
また、拘束的な言動として、長時間の居座りや電話による拘束を挙げています。
つまり、単に「しつこいお客様」で済ませてはいけない場面があるということです。

手段・態様全体の考え方を先に整理したい方は、
「カスハラ【手段・態様編】正当な要望でもカスハラになるのはどんな場合か」
もあわせてご覧ください。

苦情に理由があっても、反復・継続・拘束が行き過ぎれば別問題になる

最初の苦情自体には理由がある場合もあります。
しかし、回答後も終わらない、何度も同じ要求を続ける、現場を拘束し続けるとなれば、別問題になる可能性があります。

会社に非があることと、いつまでも拘束されてよいことは別です。
この切り分けができないと、現場では「こちらに落ち度があるから仕方がない」と考えてしまい、不必要に抱え込むことになります。

現場では「まだ苦情対応の範囲か」「すでに拘束や妨害に変わっていないか」を見る

  • 退去要求に応じない
  • 電話や対面で長時間拘束する
  • 業務を止める

このような事情が出てくると、お客様の言動が本当に要求なのか、それとも嫌がらせや拘束に変わっているのかを見極める必要があります。
現場では罪名を決めるより先に、拘束業務妨害の要素を見ることが大切です。

真摯なお客様対応 → カスハラ対応 → 法令違反対応

  • まずは真摯なお客様対応を尽くす
  • それでも終わらず反復・拘束が続く場合はカスハラ対応に切り替える
  • さらに悪質であれば法令違反としての対応が必要になる

この順番を現場で共有しておくことが重要です。
1回の暴言で直ちに警察を呼んでいたら、その会社のお客様対応自体が疑われることもあります。
逆に、いつまでも通常のお客様対応として抱え込んでいれば、従業員保護が遅れます。
だからこそ、この順番は非常に重要です。

カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いを先に整理したい方は、
「カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント」
を先にご覧ください。

暴言や侮辱、威圧的な言動については、前回の記事で整理しています。
「カスハラ【ケース判断編①】暴言・侮辱・威圧はどこから許されなくなるのか」

なお、要求内容そのものが不当な場合については、
「【言動の内容編】『要求内容』が社会通念上許容される範囲を超えるのはどんな場合か」
で整理しています。

ケース1 同じ要求の繰り返しはどこから問題になるのか

一度の質問や再確認自体は当然あり得る

  • 説明が分かりにくいことはある
  • 納得できず、再度確認することもあり得る

つまり、ここまでは直ちにカスハラとはいえないということです。
従業員の態度や説明が、必ずしも常に正しいとは限りません。会社側としても、身内に対して甘くならず、客観的に俯瞰する必要があります。

問題になるのは、回答後も終わらず、執拗に反復する場合である

  • 同じ質問を何度も繰り返す
  • 回答しても話を戻す
  • 当初の話から、すり替えや揚げ足取りを繰り返す

ここでは、相手が理解しようとしているのか、それとも責め続けることが目的なのかを見る必要があります。
回答後に、角度も内容もほとんど変えずに同じ質問を繰り返すのは、時間稼ぎ、あるいは相手を拘束する行為だと受け取られても仕方がない場面があります。

現場で見るべきポイント

  • 会社として回答済みか
  • 同じ質問か、別論点か
  • 相手に解決意思があるか
  • 反復継続によって通常業務に影響が出ていないか

上記4点が論点となります。
私は、現場では「まだ確認なのか、もう責め立てに変わっているのか」を意識して見るべきだと思っています。

ケース2 繰り返し連絡はどこから問題になるのか

電話・メール・SNSでの再連絡それ自体は直ちに問題ではない

  • 苦情が残っていれば再連絡はあり得る
  • 一度のメール送信や電話それ自体は問題とは限らない

ここでも「回数」と「内容」が重要です。
回答に納得していない場合は、複数回の連絡が来ることもあるでしょう。ですから、会社としての最終的な回答を明確に示すことが重要です。

回答をした後に、「まだ他の対応があるかもしれない」とお客様に思われると、再度連絡が来る可能性があります。
しかし、「これ以上の対応は致しかねます」と会社として最終回答を示すことで、線引きがしやすくなります。
もちろん、その前提として、どのような場合に最終回答とするか、会社でルールを作っておく必要があります。

問題になるのは、反復により現場を消耗させる場合である

  • 同じ内容の電話を何度もかける
  • 同じメールを執拗に送りつける
  • 夜間や営業時間外にも繰り返す
  • 担当者や部署を変えても同じ要求を続ける

この段階では、もはや問題解決ではなく、拘束や圧迫が主目的になっている可能性があります。
「連絡しているだけ」と見える場合でも、その回数や時間帯、反復の態様によっては、現場に与える負担は非常に大きくなります。

内容や態様によっては、威力業務妨害罪の問題になり得る

  • 連絡が執拗で通常業務が回らない
  • 対応に人員を奪われる
  • 他の顧客対応が止まる

ここまで来ると、単なる問い合わせでは済まなくなります。
威力業務妨害罪は、威力を用いて、人の業務を妨害することで成立し得る犯罪です。ここでいう威力とは、暴力そのものに限られず、大声で怒鳴る、取り囲む、執拗な電話を繰り返すなど、相手の業務遂行を困難にする勢力も含みます。
たとえば、窓口で騒ぎ続けて他の顧客対応を止める、電話で長時間拘束して通常業務を回らなくするといった場面は、内容や状況によっては威力業務妨害罪の問題になり得ます。

実務上の見方としては、次の3点を押さえると分かりやすいです。

  • 威圧や混乱を生じさせる態様があるか
  • 相手方の業務が対象になっているか
  • 実際に業務が止まる、又は相当程度妨げられているか

現場で見るべきポイント

  • 回数
  • 時間帯
  • 同一内容か
  • 回答済みか
  • 業務への支障はどの程度か

このあたりを判断材料にするとよいでしょう。
単に「連絡が多い」だけでなく、どれだけ業務を圧迫しているかを見ることが大切です。

ケース3 居座りはどこから問題になるのか

納得できずその場に残ること自体は直ちに違法とは限らない

お客様がすぐに帰らないことが、常に違法とは限りません。
ただし、それが長時間に及び、通常営業や他の顧客対応を妨げる場合は別問題となります。

退去を求めても応じない場合は、不退去の問題になり得る

  • 店舗側が退去を求めている
  • それでも居座り続ける
  • 業務や他の顧客に支障が出る

このような場合は、不退去罪の問題になり得る場面があります。
不退去罪は、店舗や施設の管理者から退去を求められたにもかかわらず、その場に居座り続ける場合に成立し得る犯罪です。
たとえば、退去を求めても店内や窓口に長時間居座り、営業や他の顧客対応に支障を生じさせるような場面では、不退去罪の問題になり得ます。

ここで問題になるのは、お客様に退去を求める根拠があるかどうかです。
考えられるのは、大声を出す、机を叩くなど明らかな迷惑行為がある場合です。前回の記事でもお話ししましたが、すべての行為が別々に存在し、対応も別というわけではありません。現実には、暴言、威圧、居座りが重なっていることも多いです。

現場で見るべきポイント

  • 退去を求めたか
  • その求め方は明確だったか
  • どのくらいの時間居座ったか
  • 周囲の営業や他の客に影響が出ていたか

この4点は最低限押さえておきたいところです。

ケース4 長時間拘束はどこから許容範囲を超えるのか

一定時間の説明対応は業務としてあり得る

苦情対応には時間がかかることがあります。何もかも5分や10分で終わるわけではありません。
ある程度の説明時間は必要ですし、複数回にわたって対応を提案することもあるでしょう。
したがって、長いから即カスハラというわけではありません。

問題になるのは、説明を超えて拘束そのものが目的化している場合である

  • 何時間も同じ話を続ける
  • 回答済みでも終わらせない
  • 相手をその場に縛りつけている
  • 担当者を交代させても続く

こうなると、説明要求ではなく、拘束的言動として評価すべき場面となります。
以後の対応は、本当にお客様対応として必要なのか、という視点が重要になります。

内容や状況によっては、威力業務妨害や監禁の問題も視野に入る

  • 物理的に帰れない状況にしている
  • 退路をふさいでいる
  • 圧迫的に留め置いている

ここまで来ると、接客問題ではなく、安全の問題に近づくことがあります。
監禁罪は、相手の行動の自由を奪い、その場から離れられない状態にする場合に成立し得る犯罪です。
たとえば、従業員を取り囲んで退路をふさぐ、部屋や車内から出さない、帰ろうとする相手を物理的・威圧的に留め置くような場面では、監禁罪の問題になり得ます。

現場で見るべきポイント

  • 時間の長さ
  • 同じ要求の反復か
  • 帰らせない態様があったか
  • 通常業務や従業員の心身にどの程度影響が出たか

このあたりを押さえて、単なる長話と拘束を分けて考える必要があります。

ケース5 電話を切らせないのはどこから問題になるのか

苦情の電話対応自体は当然あり得る

一度の苦情電話であったり、説明を求める電話などは通常業務の範囲となります。
複数回にわたることもあるでしょう。

問題になるのは、電話による拘束が長時間続く場合である

  • 同じ苦情を延々と続ける
  • 説明しても終わらない
  • 「切るな」と強く迫る
  • 切るとまたすぐかけ直す

このような場合、電話という形で現場にいる従業員を拘束していると評価し得る場合があります。
ここでは、通話かどうかではなく、拘束になっているかどうかを見る必要があります。

内容や状況によっては、威力業務妨害罪の問題になり得る

  • 窓口業務や他の業務に支障が出る
  • 人員が固定される
  • 組織としての通常業務が止まる

ここでは「通話」ではなく「拘束」として見る視点が必要です。
そのため、頻度、時間、内容を把握しておく必要があります。

現場で見るべきポイント

  • 通話時間
  • 同内容の反復か
  • 回答後も終わらないか
  • 切れない状況にされていないか
  • 業務への影響がどの程度か

電話は形が見えにくいぶん、拘束の実態が曖昧になりやすいので注意が必要です。

ケース6 威圧を伴う拘束はどこから危険になるのか

反復・拘束に威圧が加わると、現場の負担は一気に重くなる

  • 大声を出しながら居座る
  • 詰め寄りながら電話を切らせない
  • 取り囲んで説明を続けさせる

これは単なる継続ではなく、圧力を伴う拘束になり得ます。
この段階になると、従業員の心理的負担は一気に重くなります。

この段階では、単なる苦情対応ではなく危機対応に近づく

  • 担当者の萎縮
  • 業務停止
  • 他の顧客への影響
  • 現場の安全への影響

こうした要素が出ている場合は、上席判断や複数対応への切替が必要になります。
このような場合に、単独で対応させることは避けるべきです。もし単独で対応しているとすれば、早急に複数対応に切り替えるべきです。現場に一人しかいない場合は、他のお客様対応もありますので、関連部署等へ連絡し、組織対応に移る必要があります。

現場で見るべきポイント

  • 反復だけか、威圧もあるか
  • 拘束だけか、退路妨害もあるか
  • 通常業務がどの程度止まっているか
  • その場で従業員保護を優先すべき段階か

ここは、苦情対応と危機対応の分岐点になりやすいです。

刑法上の問題になり得るかを現場で考えるときの視点

① 単なる再確認か、執拗な反復か

  • 同じ質問を繰り返していないか
  • 回答済みでも終わらないか
  • 目的が解決から責め立てに変わっていないか

② 一時的滞在か、拘束か

  • その場から離れない理由は何か
  • 退去要求に応じたか
  • 長時間の拘束になっていないか
  • 帰らせない態様があったか

③ 現場や就業環境にどの程度の影響が出ているか

  • 従業員が萎縮していないか
  • 他の顧客対応が止まっていないか
  • 通常業務が妨げられていないか
  • 記録に残すべき程度の支障が出ていないか

いずれにしても、ケースごとの線引きと、その知識を知っているかが重要です。
知らなければ、現場はいつまでも「苦情対応」として抱え込んでしまいます。

現場対応のポイント

① まずはお客様対応を尽くしたか

  • まずは真摯に説明する
  • 話を整理する
  • 必要なら担当変更や上席対応を検討する
  • 会社として、いきなり対立に入らないことが大切

ここは非常に大切です。
最初から対立姿勢で入るのではなく、まずはお客様対応を尽くすことが必要です。その過程自体が、後に会社の正当性を支えることにもつながります。

② 終了の基準を持っているか

  • どこで「回答済み」と判断するか
  • どこで電話を終了するか
  • どこで退去を求めるか
  • この基準を決めておかないと現場が抱え込む

この基準を示すのは、いうまでもなく会社です。
判断基準を示したマニュアルを各現場に周知することをお勧めします。
現場の感覚任せでは、対応にばらつきが出てしまいます。

③ 記録と複数対応ができているか

  • いつから始まったか
  • 何を何回言われたか
  • どれくらい続いたか
  • 誰が対応したか
  • 録音・録画・目撃者確保はできているか(防犯カメラ等の位置)

指針も、録音・録画、複数対応、管理監督者への報告を対処例として示しています。
記録がなければ、後で組織として判断することも、必要な措置をとることも難しくなります。

反復や拘束の場面では、後から事実を振り返れるように記録を残すことが重要です。

証拠の見方については、

ハラスメントで「証拠がない」と諦める前に。元刑事が教える、事実を積み上げ立証するための調査設計
も参考になります。

まとめ|反復と拘束の度合いで線を引く

この記事のまとめ

  • 最初の苦情に理由があっても、反復・継続・拘束が行き過ぎれば別問題になる
  • 継続的・執拗な言動、拘束的な言動は、厚労省指針でも典型例とされている
  • 内容や状況によっては、不退去罪、監禁罪、威力業務妨害罪の問題になり得る
  • 現場では「まだ苦情対応の範囲か」「すでに拘束や妨害に変わっていないか」を見ていく必要がある

これらの事項をチェックポイントとして、基準を作成してみましょう。
基準があるだけで、現場判断はかなり安定します。

次回予告

次回は、身体的な攻撃や有形力に近い行為が、どこから危機対応になるのかを整理します。

カスハラ対策に不安がある場合

カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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