ハラスメント調査で「隠れた加害者」が見つかる瞬間。元刑事が教える、組織の膿を出し切るヒアリングの技術

なぜ、社内のヒアリングは「表面的な報告」で終わってしまうのか
加害者も被害者も「自分を守る嘘」をつく。ヒアリングを阻む心理的障壁
「人は必ず嘘をつく。」これは決して世の中の人が悪人だと言いたいわけではありません。しかし、人間には自分を良く見せたい、自分を守りたいという防衛本能が働くため、無意識に事実を歪めたり話を大袈裟に語ったりする習性があります。これは人間として自然な反応ですが、ヒアリングを行う側はこの「習性」を前提に臨まなければなりません。もし適当な気持ちで聞き取りを行えば、こうした心理的な壁に阻まれて嘘を見抜けず、真実が闇に葬られたまま調査が終了してしまうことになります。
「言った・言わない」の泥沼。事実認定を誤ると、会社が不当解雇リスクを背負う恐怖
供述の信憑性を正確に見抜けなければ、客観的な事実にたどり着くことはできません。つまり、事実認定を誤るということです。その結果、事実に基づかない不適切な処分を下してしまい、会社側が訴訟を提起されるといった最悪のケースも珍しくありません。初動のヒアリングでのつまずきが、会社を巨大なリーガルリスクにさらす入り口となるのです。
形式的な聞き取りでは、組織の「真の病根」にはたどり着けない
申告内容を単なる形式的な聞き取りだけで済ませてしまうと、誤った事実認定を招くだけでなく、問題の根底にある組織的な病理を放置することになります。真実にたどり着けない調査は、原因となる事象の根治には至りません。対症療法的な対応では、また同じような不祥事が形を変えて繰り返されることになります。
元刑事の眼で見抜く。新事実にたどり着く「信頼獲得」のプロセス
取り調べではない。相手が「この人になら話せる」と心を開く「共感と規律」のバランス
ヒアリングには事実を確認するという「取り調べ的側面」があるのは否定できません。しかし、最も重要なのは「この人なら私の話を聞いてくれるのではないか」という信頼を相手に抱かせることです。ヒアリングを受ける側も、自分の置かれた厳しい立場を十分に理解しています。だからこそ、相手の心理に寄り添い、頑なな心を解きほぐすアプローチが不可欠なのです。
供述の「矛盾」を突くタイミング。問い詰めるのではなく、相手に気づかせる技術
証拠収集の過程で供述の矛盾が明らかになった際、どう解明していくかが腕の見せ所です。問い詰める手法も一つですが、それは調査側と対象者が激しく対峙する形になります。喧嘩をしている相手とは誰も進んで話をしたいとは思わないでしょう。大事なのは、相手に自ら真実を語らせることです。一度ついた嘘の辻褄が合わなくなると、人はなかなか訂正できないものです。「君の言っていることはおかしい」と突き放すか、「記憶違いではないか、よく思い出してほしい」と促すか。どちらが本当のことを話したくなるかは明白です。
些細な違和感を見逃さない。別の行為者(第2の加害者)の存在があぶり出される瞬間
以前、パワハラ被害者へのヒアリング中に、周囲の関係者の証言から「もう一人の行為者」の影が浮かび上がったことがありました。しかし被害者はなぜかそのことを口にせず、会社に対して「対応が遅い」と早期処分ばかりを強く求めるようになりました。私はこの「焦り」に違和感を抱き、関係者からさらに徹底した聞き取りを行って隠れた行為者を特定しました。被害者が沈黙していた理由は、一人は憎いがもう一人は仲が良いので守りたかったという個人的な感情でした。しかし、会社は客観的な事実を認定し、公平な処分を下さなければなりません。被害者の申告さえも感情によって左右される場合がある、という実例です。
【実例】一つの相談から「組織ぐるみのハラスメント」が発覚したケース
当初は「上司Aのパワハラ」だった相談内容
この案件は、当初「上司1名によるパワハラ」という明確な申告から始まりました。過去にも同様の言動があったという背景もあり、社内調査は大きな違和感なく、Aへの聞き取りへと進んでいきました。
ヒアリングを重ねる中で見えてきた、黙認していた周囲と「真の主導者」
しかし、行為者Aからヒアリングを行った結果、背後に「行為者B」が存在することが判明しました。被害者や周囲の供述が及第点の具体性だったのに対し、Aの語る内容は圧倒的にリアルでした。そこでもう一度、関係者への再ヒアリングを実施したところ、Bが主導していた不適切な行為が次々と明らかになっていったのです。
新事実の発見が、組織全体の自浄作用を呼び起こしたプロセス
表面的な事実としては「社員Aによるパワハラ」でしたが、深く掘り下げると、Aよりも立場が上のBこそが真の元凶でした。被害者は感情的な理由でBを庇い、Aだけの処分を求めていたのです。これは「真相解明」ではなく「感情による私刑」に近い状態でした。隠れていた真の加害者を特定し適切に処分したことで、会社として第三者的な公平性を示し、組織全体に健全な規律を取り戻すことができました。
調査報告から懲罰委員会、再発防止までワンストップで対応する価値
刑事事件の捜査資料に匹敵する、客観的で隙のない「調査報告書」の重要性
ハラスメント調査の最悪の着地点は、訴訟や刑事事件への発展です。私は調査を、警察の捜査と同様に丁寧かつ徹底的に行うべきだと考えています。「報告のための捜査(調査)」ではなく、あくまで「真相解明のための調査」を行うべきです。そうして緻密に積み上げられた調査報告書であれば、あらゆる法的係争においても揺らぐことのない盾となります。
感情論を排除し、法的根拠に基づいた「懲罰委員会への提言」
懲罰委員会における処分の決定には、何よりも証拠が求められます。処分を下すだけの合理性と証拠がどれほど備わっているのか。そこを厳密に精査した上で提言を行う必要があります。感情的な判断を排除し、法的根拠に基づいた一貫性のある基準を示すことが重要です。
膿を出し切った後のフォロー。信頼を回復し、生産性を高める組織づくり
処分後の行為者へのフォローも忘れてはなりません。適切な処分を下した後は、その社員が再び活躍できるチャンスを与えるべきです。更生の機会を活かして信頼を回復できれば、それは会社への忠誠心にも繋がります。こうした信頼の好循環こそが、生産性の高い組織を作る礎となります。
「社内の不正は、時として金銭トラブルという形で表面化することもあります。ハラスメント調査と同様、客観的な証拠によって事実を積み上げるプロセスについては、こちらの『レジ横領の立証手順』の記事もあわせてご確認ください。組織の歪みを正すための共通の本質が見えてくるはずです。」
レジの現金が合わない…スーパーの横領をどう立証する? 元刑事が教える、在庫と伝票に潜む「犯行の足跡」
まとめ:ハラスメント対応は、会社を「再生」させるための手続き
「誰が悪いか」で終わらせず、「どうすれば健全な組織に戻れるか」を追求する
これは私が信念としている「責任追及ではなく、原因追及をすべきである」という考えそのものです。再発防止のために処分や指導は必要ですが、最終的なゴールは「二度と起きない組織作り」にあります。
勇気を持って声を上げた社員と、会社を守るためのプロの選択
ハラスメントの申告があった際、経営者がすべき「プロの選択」とは、単に加害者を罰することではありません。勇気を持って声を上げた社員の尊厳を守り、同時に、事実に基づいた正当な対処によって会社を法的リスクから守り抜くことです。組織の膿を出し切り、真面目に働く人々が報われる職場を取り戻す。そのために、私は元刑事としての経験と社労士としての専門性を尽くして、貴社に併走いたします。
本事例で用いた、頑なな対象者の心を開かせる「共感の聴取術」の具体的なステップを公開しました。
「取り調べ」ではない。元刑事が実践する、頑なな部下が自ら真実を語り出す「共感の聴取術」



