カスハラで暴言・侮辱・威圧を受けた場合の会社対応|現場判断と記録のポイント

2026.05.05

カスハラ対応では、相手の要求内容だけでなく、言い方、態度、場所、繰り返しの有無を分けて判断する必要があります。

会社側に商品やサービス上の不備があったとしても、従業員に対する暴言、人格否定、威圧、土下座の要求、SNSでの晒し行為まで許されるわけではありません。

会社としては、まず苦情の内容を確認し、必要な説明や謝罪を行います。そのうえで、攻撃的な言動をやめるよう求め、改善されなければ上席対応、対応の打切り、警察への相談などに切り替える必要があります。

この記事では、暴言・侮辱・威圧を受けたときに、会社がどこを見て判断し、何を記録すべきかを整理します。

手段・態様全体の考え方を先に確認したい方は、

正当なクレームがカスハラになる場合とは|暴言・威圧・長時間拘束への会社対応

をご覧ください。

暴言・侮辱・威圧への対応で会社が見るべきこと

カスハラに当たるかを判断するときは、顧客の要求に理由があるかだけでなく、その要求を伝える手段や態様が社会通念上相当かを確認します。

厚生労働省の資料でも、暴力的、威圧的、中傷的、侮辱的な言動などは、要求内容にかかわらずカスハラに該当し得るものとして整理されています。

会社側にミスがあった場合でも、次の二つは分けて考えなければなりません。

  • 商品やサービスに関する苦情や要求
  • 従業員に対する暴言、侮辱、脅しなどの攻撃的な言動

苦情に対応する必要があることと、従業員が攻撃的な言動に耐え続けなければならないことは別問題です。

カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いについては、
「カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント」
もご覧ください。

対応は三つの段階で考える

暴言や威圧を受けたときは、次の順序で対応します。

  1. 通常のお客様対応
  2. カスハラとしての対応
  3. 法令違反を想定した対応

最初から犯罪行為と決めつけて強く対応すると、会社側の正当性を損なうことがあります。

一方で、いつまでも通常のお客様対応として抱え込めば、従業員の安全確保が遅れます。説明や注意を行っても言動が続く場合は、上席対応や対応打切りへ切り替えることが重要です。

言動別の判断基準

言動 判断するときのポイント 対応の方向性
暴言・侮辱 対応への不満か、従業員個人への攻撃か 発言を記録し、攻撃的な言動をやめるよう求める
人格否定 行為ではなく、人間性そのものを攻撃していないか 対応者の交代や上席対応を検討する
脅しに近い言葉 恐怖を与えて要求を通そうとしていないか 複数名対応、証拠保全、警察相談を検討する
土下座要求 謝罪を超えて屈辱的な行為を求めていないか 応じず、対応打切りや退去要請を検討する
SNSへの投稿・晒し 個人名、顔写真、虚偽情報などが含まれていないか 証拠を保存し、削除依頼や専門家への相談を検討する
大声・威圧・取り囲み 通常業務や従業員の安全に支障が出ていないか 対応を中断し、警備員や警察への連絡を検討する

言動別の判断と対応

「アホ」「無能」「辞めろ」などの暴言

「説明が分かりにくい」という発言は、従業員の対応に対する不満です。

これに対し、

「お前は無能だ」
「辞めてしまえ」
「こんな人間を雇っている会社も駄目だ」

といった発言は、従業員個人に対する攻撃です。

現場では、批判の対象が「商品や対応」なのか、「担当者の人格や能力」なのかを分けて確認します。

周囲の客や他の従業員に聞こえるように大声で繰り返すなど、発言内容と状況によっては、侮辱罪などの問題が生じる可能性もあります。

刑法では、公然と人を侮辱した行為が侮辱罪として規定されています。ただし、実際に犯罪が成立するかは、発言内容や場所、周囲の状況などを踏まえて判断されます。

現場で罪名を判断する必要はありません。

まずは、

「ご意見は伺いますが、担当者に対する侮辱的な発言はおやめください」

などと明確に伝え、発言内容を記録します。

人格を否定する発言

「そんな人間だから駄目なんだ」
「社会人失格だ」
「生きている価値がない」

といった発言は、個別の対応への批判ではなく、人間性そのものを攻撃するものです。

このような場合、会社は従業員個人に我慢させるのではなく、言動をやめるよう顧客に求めなければなりません。

また、次の違いも確認します。

  • 「無能だ」「最低の人間だ」など、具体的な事実を示さない罵倒
  • 「この店員は金を盗んでいる」など、具体的な事実を示す発言

刑法上、具体的な事実を公然と示して人の名誉を傷つけた場合は、名誉毀損罪が問題になることがあります。事実を示さない侮辱的な表現とは、法的な整理が異なります。

ただし、会社がその場で侮辱罪か名誉毀損罪かを確定する必要はありません。重要なのは、実際に使われた言葉を要約せず、そのまま記録することです。

「ただで済むと思うな」などの脅し

「ただで済むと思うな」
「どうなっても知らないぞ」
「家族に知られてもいいのか」
「SNSに全部書いてやる」

といった発言を受けた場合は、単に怒っているのか、恐怖を与えて要求に従わせようとしているのかを確認します。

特に、危害を加える対象や方法が具体的である場合、従業員が恐怖を感じて対応を続けられない場合は、通常のお客様対応を続けるべきではありません。

刑法では、生命、身体、自由、名誉または財産に害を加える旨を告知して脅迫した場合について、脅迫罪が規定されています。また、脅迫などを用いて義務のない行為をさせた場合は、強要罪が問題になることがあります。

この段階では、一人で対応を続けず、上司や責任者へ引き継ぎます。危険が迫っている場合や退去に応じない場合は、警察への連絡も検討します。

土下座や過度な謝罪の要求

会社に不備があれば、説明や謝罪が必要になることはあります。

しかし、謝罪を求めることと、土下座をさせることは同じではありません。

土下座は、相手に屈辱的な行為をさせるものです。問題解決ではなく、相手を屈服させることや制裁を加えることが目的になっている可能性があります。

暴行や脅迫を背景に、土下座、謝罪文の作成その他の義務のない行為を強いる場合は、強要罪が問題になる可能性があります。

従業員保護の観点からも、土下座の要求には応じるべきではありません。

「会社として必要な説明と謝罪は行いますが、土下座の要求には応じられません」

と伝え、要求が続く場合は対応の終了を検討します。

会社側に不備がある場合の謝罪範囲や、責任を認める前に確認すべき点については、
カスハラ対応で謝罪すべき場面・避けるべき謝罪|会社を守る判断基準
で詳しく解説しています。

SNSへの投稿や晒し行為

顧客が自らの体験や意見をSNSや口コミサイトに投稿すること自体と、投稿を使って会社や従業員に圧力をかけることは分けて考える必要があります。

特に、次のような場合は注意が必要です。

  • 従業員の氏名や顔写真を公開する
  • 虚偽の情報を投稿する
  • 侮辱的な投稿を繰り返す
  • 投稿や拡散を持ち出して、特別対応を迫る
  • 電話番号や住所などの個人情報を公開する

投稿を確認した場合は、URL、投稿日時、アカウント名、投稿内容が分かる形で保存します。削除される可能性があるため、スクリーンショットだけでなく、可能であれば画面全体や投稿前後の流れも残します。

投稿内容によっては、名誉毀損、侮辱、信用毀損、業務妨害などが問題になる可能性があります。刑法では、虚偽の風説を流布して信用を毀損した行為や、威力を用いて業務を妨害した行為についても規定されています。

従業員個人が特定されている場合や、業務への影響が広がっている場合は、サイト管理者、警察、弁護士などへの相談を検討します。

大声・威圧・取り囲み

大声で怒鳴る行為だけでなく、次のような行動も威圧的な言動に当たる可能性があります。

  • 相手をにらみつける
  • 顔を近づけて詰め寄る
  • 机に身を乗り出す
  • 複数人で取り囲む
  • 出入口や退路をふさぐ
  • 机やカウンターをたたく

厚生労働省の資料でも、大きな声を上げて労働者や周囲を威圧する行為などが、威圧的な言動の例として示されています。

通常業務が止まる、他の顧客が退店する、担当者が業務を続けられなくなるなどの影響が出ている場合は、「怖かった」という感想だけで終わらせず、具体的な支障を記録します。

威力を用いて会社や店舗の業務を妨害する程度に至った場合は、威力業務妨害罪が問題になる可能性があります。

警察に相談するか迷う場合の判断基準については、
カスハラ対応で警察に相談するのはどんな場合か|通報判断の基準を整理する
も参考にしてください。

暴言・威圧を受けた現場での対応手順

1.苦情の内容を確認する

まずは、顧客が何に不満を持ち、何を求めているのかを確認します。

会社側に不備があれば、その点について説明や謝罪を行います。ただし、苦情を聞くことと、暴言や侮辱を受け入れることは別です。

2.攻撃的な言動をやめるよう求める

暴言や大声が続く場合は、具体的な言動を示して制止します。

例えば、次のように伝えます。

「ご意見は伺いますが、大声での発言はお控えください」

「担当者への人格を否定する発言はおやめください」

「そのような発言が続く場合は、これ以上の対応を継続できません」

一度注意して改善されるかどうかも、後の判断材料になります。暴言や威圧を受けた際の具体的な伝え方については、
カスハラ対応で現場が言ってはいけない言葉、言うべき言葉|初動対応で会社を守る伝え方
も参考にしてください。

3.一人で対応させない

暴言や威圧が始まった段階で、可能な限り上司や他の従業員が同席します。

複数名で対応することには、次の意味があります。

  • 対応者の安全を確保する
  • 発言や行動の目撃者を確保する
  • 一人の判断で対応を続けない
  • 必要な場合に警察や警備員へ連絡する

厚生労働省の資料でも、労働者を一人で対応させないことや、録音・録画、犯罪に該当し得る言動に対する警察への通報などが対処例として示されています。

4.改善されなければ対応を終了する

説明や注意を行っても暴言や威圧が続く場合は、通常のお客様対応を終える必要があります。

生命・身体への危険がある場合、退路をふさがれた場合、物を壊された場合などは、段階を踏むことにこだわらず、安全確保を優先します。

注意しても暴言や威圧が続く場合の対応終了基準については、
カスハラ対応を打ち切る判断基準|電話・面談・来店対応を終了する場面
で詳しく解説しています。

記録に残すべき事項

暴言や威圧への対応では、評価や感想だけでなく、後から状況を再現できる記録が必要です。

少なくとも、次の事項を残します。

記録項目 記載内容
日時・場所 発生日時、店舗名、窓口、電話など
相手の情報 氏名、連絡先、顧客番号など分かる範囲
苦情・要求 何について、何を求めていたか
発言内容 暴言や脅しを、可能な限りそのまま記載
行動 大声、接近、机をたたく、退路をふさぐなど
回数・時間 何回繰り返したか、何分続いたか
周囲への影響 他の顧客、従業員、通常業務への影響
会社の対応 説明、謝罪、注意、警告、退去要請など
証拠 録音、録画、防犯カメラ、メール、SNS画面
対応者の状態 恐怖、体調不良、業務継続の可否など

「相手が非常に怖かった」とだけ記録するのではなく、

「約1メートルの距離まで接近した」
「カウンターを3回たたいた」
「同じ発言を約10分間繰り返した」
「他の顧客2名が退店した」

というように、客観的な事実へ置き換えて残すことが重要です。

カスハラ対応の記録方法については、
「カスハラ対応時の記録の残し方|後から会社を守るために何を記録すべきか」
もご覧ください。

まとめ

暴言、侮辱、人格否定、脅し、土下座要求、威圧的な行動は、苦情の内容とは分けて判断する必要があります。

会社は、まず必要な説明や謝罪を行い、そのうえで攻撃的な言動をやめるよう求めます。改善されない場合は、一人で抱え込ませず、上席対応、対応打切り、証拠保全、警察相談などへ切り替えることが重要です。

現場で罪名を決める必要はありません。

「何を言われたか」
「どのような行動があったか」
「業務や従業員にどのような影響が出たか」

を具体的に記録し、会社として判断できる状態をつくることが、従業員を守ることにつながります。

カスハラ対応に不安がある方へ

カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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