カスハラ【ケース判断編①】暴言・侮辱・威圧はどこから許されなくなるのか

暴言・侮辱・威圧は、どこから別問題になるのか
厚生労働省指針でも「精神的な攻撃」と「威圧的な言動」は典型例とされている
厚生労働省の指針では、精神的な攻撃として、脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等が挙げられています。また、威圧的な言動も別類型として示されています。
手段・態様全体の考え方を先に確認したい方は、
「カスハラ【手段・態様編】正当な要望でもカスハラになるのはどんな場合か」
をご覧ください。
つまり、単なる接客上の不快な言動として片付けてはいけない場面があるということです。ここでは、その線引きがどこにあるのかを検証していきたいと思います。
苦情に理由があっても、手段・態様が相当性を欠けば別問題になる
会社側にミスがあることと、暴言や威圧が許されることは別です。
正当な苦情と、許されない攻撃的言動は分けて考える必要があります。ここを切り分けないと、現場は必要以上に疲弊し、従業員保護の視点も抜け落ちてしまいます。
悪質な場合は、侮辱罪、名誉毀損罪、脅迫罪、強要罪、威力業務妨害罪などの問題になり得る
ただの不満表明ではなく、刑法上の問題に近づく場合があります。
もっとも、ここで言いたいのは、いきなり「犯罪だ」と決めつけることではありません。これは最悪の事態を想定した整理です。あくまで、お客様対応として真摯に向き合い、それでもなお一線を越える場合には、カスハラとなり、さらに行き過ぎた行為は法令に該当する可能性がある、ということです。
現場では、罪名を決めるより先に、どの要素が危険なのかを見ることが重要です。私は、現場ではまずここを見落とさないことが大切だと思っています。
真摯なお客様対応 → カスハラ対応 → 法令違反対応
この順番を間違えないでください。
まず必要なのは、真摯なお客様対応です。それでも一線を越える場合に、カスハラ対応、さらに法令違反としての対応が必要になってくるということです。
この順番を飛ばして最初から強く出ると、会社側の正当性を失いやすくなります。
逆に、いつまでもお客様対応の延長で抱え込むと、従業員保護が遅れます。
だからこそ、この順番は非常に重要です。
カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いを先に整理したい方は、
「カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント」
を先にご覧ください。
ケース1 「アホ」「無能」「辞めろ」は、侮辱になるのか
対応への不満と、従業員個人への侮辱は別である
- 「説明が分かりにくい」は対応への不満
- 「お前は無能だ」「辞めてしまえ」は個人攻撃
要求ではなく、相手を傷つけること自体が前面に出ている場合、それは対応への不満ではなく個人攻撃になります。
この違いは非常に重要です。なぜなら、会社が受け止めるべき苦情なのか、従業員を守るべき場面なのかの分かれ目になるからです。
公然と人格や評価を傷つける場合は、侮辱罪の問題になり得る
- 周囲の客や他の従業員の前で言う
- 大声で繰り返す
- 接客現場で相手の社会的評価を下げる態様がある
このような場合は、単なる語気の強さではなく、内容と状況を見ていく必要があります。
たとえば、抽象的な悪口や人格攻撃を人前で繰り返す場合には、侮辱罪の問題になり得る場面があります。ここでは、単に「怒っている」というだけで済ませないことが大切です。
現場で見るべきポイント
- 批判対象が「対応」か「人間性」か
- 周囲に聞こえる状況か
- 一回限りか、反復継続か
- 従業員が萎縮し、就業環境に影響が出ていないか
一回限りかどうかも、会社側で可能な限り担保しておく必要があります。
また、後ほど記載しますが、従業員が萎縮し、就業環境に影響が出ていないかも考慮したうえで、お客様の言動を止めるよう丁寧な注意が必要になります。
ケース2 人格否定はどこから問題になるのか
人格否定は、行為ではなく人間性そのものを攻撃している
- 「そんな人間だから駄目なんだ」
- 「生きている価値がない」
- 「社会人失格だ」
これは対応批判ではなく、人格そのものへの攻撃ですので、お客様への注意が必要となります。
あくまで会社側としては、お客様にカスハラ行為をしてほしくない、法令違反をしてほしくないというスタンスです。ここは感情的にぶつかるのではなく、冷静に線を引く必要があります。
内容や態様によっては、侮辱罪や名誉毀損罪の問題になり得る
抽象的な人格否定は、侮辱の方向になります。
また、具体的事実を示して評価を落とすなら、名誉毀損の方向になります。現場で重要なのは、相手の発言が抽象的な罵倒なのか、具体的事実を示した非難なのかを切り分けることです。
たとえば、
「無能だ」「最低な人間だ」
という発言は、具体的事実を示さずに相手を貶めるものであり、侮辱罪の問題になり得ます。
これに対し、
「この店員は金を盗んでいる」「この社員は個人情報を漏らしている」
という発言は、具体的事実を示して社会的評価を下げるものですので、名誉毀損罪の問題になり得ます。
つまり、現場ではまず、悪口なのか、事実を示した攻撃なのかを分けて見る必要があります。
現場で見るべきポイント
- 具体的事実を言っているのか、抽象的に罵倒しているのか
- その場の人前で言われているか
- 会社への要求と結びついているか、それとも単なる攻撃か
- 反復継続していないか
この4点にフォーカスして検証する必要があります。
ここを整理できるかどうかで、現場の受け止め方がかなり変わります。
ケース3 脅しに近い言葉はどこから問題になるのか
不安や恐怖を与えて従わせようとする言動は要注意である
- 「ただで済むと思うな」
- 「どうなっても知らないぞ」
- 「SNSに全部書いてやる」
- 「家族に知られてもいいのか」
相手に不安を与え、要求を受け入れさせようとする態様が問題になります。
このような言動は、明らかにお客様の要求そのものとは異なりますので、お客様対応として、まずはこれらの言動を止める必要があります。
内容や状況によっては、脅迫罪の問題になり得る
- 単なる怒りの言葉なのか
- 害悪の告知に近いのか
- 相手を畏怖させる程度に達しているか
- 現場では、ここを事実として押さえる必要がある
脅迫罪は、生命、身体、自由、名誉又は財産に害を加える旨を告げて相手を脅す場合に成立し得る犯罪です。
たとえば、「ただで済むと思うな」「ネットにさらしてやる」といった発言は、内容や状況によっては脅迫罪の問題になり得ます。
現場で見るべきポイント
- 発言内容が具体的か
- 相手を怖がらせる意図が明確か
- 一回だけか、繰り返しているか
- その発言後に従業員が対応継続困難になっていないか
これら4点が注意点となります。
私は、この場面では「怒っている」ではなく、「怖がらせて従わせようとしているか」を見るべきだと考えています。
ケース4 土下座要求はどこから問題になるのか
謝罪要求と土下座要求は同じではない
- 謝罪を求めること自体は一定の場合あり得る
- しかし、土下座は相手に屈辱的行為を強いるものである
- 問題解決より、屈服や制裁が前面に出やすい
謝罪を求めることと、土下座を求めることは同じではありません。
土下座は、相手の尊厳に直接関わる行為であり、制裁的な意味合いが強くなります。
土下座の強要は、強要罪の問題になり得る
- 脅しや威圧を背景に土下座させる
- 周囲の前で屈服させる
- 相手の意思に反して屈辱的行為を強いる
- このような点があると、接客問題では済まなくなる
強要罪は、暴行や脅迫を用いて、相手に義務のないことを行わせる場合に成立し得る犯罪です。
たとえば、土下座を求める、謝罪文を書かせる、屈辱的な行為を強いるといった場面は、内容や状況によっては強要罪の問題になり得ます。
現場で見るべきポイント
- 単なる謝罪要求か、屈辱的行為の要求か
- 威圧や脅しを伴っていないか
- 相手の目的が説明や補償ではなく制裁に変わっていないか
- その場で従業員保護を優先すべき段階か
謝罪=土下座ではありません。
土下座は制裁的要素が強いです。また、基本的には従業員保護の観点からも応じるべきではありません。
ケース5 SNS投稿はどこから名誉毀損等の問題になるのか
体験共有と、攻撃や圧力を目的とした投稿は分けて考える
- 体験の共有それ自体はあり得る
- しかし、特別対応を迫るために投稿を使う場合は別問題
- 個人名や顔写真を出す行為は危険性が高い
個人の写真等が掲載される場合は、従業員の就業環境に大きな影響を与えますし、従業員保護の観点からも、サイト管理者や警察への相談を検討すべき場面があります。
内容や方法によっては、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、威力業務妨害罪の問題になり得る
- 具体的事実を摘示して評価を落とす
- 侮辱的投稿を行う
- 虚偽情報で信用を傷つける
- 投稿を手段に謝罪や特別対応を迫る
このような場合は、単なる口コミではありません。
先ほどと同様に、サイト管理者や警察への相談を検討すべきです。
現場で見るべきポイント
- 投稿内容は事実か、虚偽か
- 対象は会社か、従業員個人か
- 投稿の目的は共有か、圧力か
- 実際に業務や従業員の就業環境へ影響が出ているか
ここは「ネットだから仕方ない」で済ませないことが大切です。
指針も、SNS等インターネット上で行われるものをカスハラに含めています。
ケース6 大声・威圧・取り囲みはどこから問題になるのか
大声や威圧的態度は、それ自体で現場を萎縮させる
- にらみつける
- 高圧的に詰め寄る
- 机に身を乗り出す
- 複数人で取り囲む
- 退路をふさぐ
こうした行為は、相手を支配しようとする態様として問題になります。
そもそも、この段階で通常業務ができなくなっていることがあります。この段階で、苦情ではなく、法令に抵触する可能性が出てきます。
業務が妨害される程度に至れば、威力業務妨害罪の問題になり得る
- 他の客対応が止まる
- レジや窓口が機能しない
- 担当者が通常業務を継続できない
- 周囲を威圧して現場全体を止めている
このような場合は、現場の感覚以上に重い問題になる場合があります。
威力業務妨害罪は、威力を用いて店舗や会社の通常業務を妨害する場合に成立し得る犯罪です。たとえば、大声で怒鳴り続けて営業を止める、窓口で騒ぎ続けて他の顧客対応を妨げる、執拗な電話で業務を回らなくするといった場面は、内容や状況によっては威力業務妨害罪の問題になり得ます。
現場で見るべきポイント
- 声量
- 距離感
- 立ち位置
- 周囲への影響
- 通常業務がどの程度止まったか
- 複数人での圧力かどうか
このあたりは、単に「怖かった」で終わらせず、できる限り事実として残す必要があります。
のちの判断材料になるからです。
刑法犯に該当し得るかを現場で考えるときの視点
①「不満表明」か「攻撃」かを分ける
- 問題解決のための発言か
- 相手を傷つけることが目的化していないか
- 攻撃と要求は違うという視点を持つ
②「恐怖・羞恥・威圧」で従わせようとしていないかを見る
- 脅しているか
- 屈辱を与えているか
- 威圧しているか
- 従わせるために手段が悪質化していないか
③「業務や就業環境への影響」を見る
- 従業員が萎縮していないか
- 通常業務が止まっていないか
- 他の客や他の従業員に影響していないか
- 記録に残すべき程度の支障が出ていないか
この3つの視点を持つだけでも、現場の判断はかなり整理されます。
現場対応のポイント
① お客様対応を尽くしたか
お客様から強い口調の苦情を受けた、個人攻撃的な内容の言葉を受けたとします。
それでも相手はお客様ですので、まずはお客様対応として、できる限りなだめるべきです。
たとえば、
「他のお客様もおられますので、もう少し声を小さくしてお話をお聞かせいただけませんか。」
というような声掛けです。
それは、お客様にカスハラの当事者、法令違反の当事者になってほしくないという思いがあるからです。
また、制止を試みること自体が、会社や従業員の正当性を担保することにもつながります。
② 証拠はあるのか
お話しする場所も、防犯カメラがある位置などを選びましょう。できれば音声が入っている方が望ましいです。
また、対応はできれば2名以上にしましょう。これは従業員保護にもなりますし、後に法令違反の案件となった場合には目撃者にもなります。
指針でも、可能な限り労働者を一人で対応させないこと、録音・録画を行うこと、犯罪に該当し得る言動については警察への通報を検討することが対処例として示されています。
記録や証拠の見方については、
ハラスメントで「証拠がない」と諦める前に。元刑事が教える、事実を積み上げ立証するための調査設計
も参考になります。
③ 現場でジャッジできるのか
さまざまなケースを見てきましたが、まずは、お客様の言っていること、やっていることが苦情なのか、それ以外の行為なのかを判断する必要があります。
それを知っているのと知らないのでは、現場判断では大違いです。ですので、従業員への教育は重要となります。
また、現場ですべてを判断しきるのではなく、どこから上司や本部に引き継ぐのかを決めておくことも重要です。
ここを曖昧にすると、現場に負担が集中します。
まとめ|暴言・侮辱・威圧は、カスハラにとどまらず刑法上の問題になり得る
この記事のまとめ
- 暴言、侮辱、人格否定、威圧は、要求内容とは別に問題になる
- 正当な苦情であっても、手段・態様が行き過ぎれば別問題になる
- 内容や状況によっては、侮辱罪、名誉毀損罪、脅迫罪、強要罪、威力業務妨害罪などの問題になり得る
- 現場では、攻撃か、不満表明か、就業環境への影響があるかを見ていく必要がある
次回予告
次回は、繰り返し要求・居座り・長時間拘束など、継続的・拘束的な言動を、カスハラと刑法上の問題の両面から整理します。
カスハラ対策に不安がある場合
カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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