カスハラ【総論編】カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント

カスハラという言葉を見聞きする機会は、かなり増えてきました。
ただ、実際の現場では「どこからがカスハラなのか」がはっきりせず、対応に迷うことも多いのではないでしょうか。
正当な苦情まで過剰に恐れてしまう会社もあれば、明らかに行き過ぎた言動を「お客様対応だから仕方ない」と抱え込んでしまう会社もあります。
これから会社に求められるのは、担当者個人の感覚だけで対応することではなく、判断の基準を社内で共有しておくことです。
本記事では、カスハラの定義と、正当なクレームとの違い、そして現場で迷わないための判断基準について整理します。
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カスハラは「厳しいクレーム」すべてを指すものではない
クレームのすべてがカスハラではない
商品やサービスへの苦情や改善要望そのものは、当然あり得ます。苦情である以上、お客様の声が大きくなることもあるでしょう。また、会社側に落ち度がある場面では、謝罪や、場合によっては返金や補償など、誠実に対応すべき場合もあります。
ですから、苦情やクレームがあったというだけで、直ちにカスハラだと考えるべきではありません。
まずは、正当な申出と、行き過ぎた言動とを分けて考える必要があります。この整理をしないまま対応すると、本来受け止めるべき正当な声まで排除してしまったり、逆に対応すべき限度を超えた言動を受け入れてしまったりするおそれがあります。
会社に落ち度があっても、カスハラになる場合がある
一方で、たとえ最初の苦情に理由があったとしても、その後に苦情がエスカレートし、要求や態様が行き過ぎたものとなれば、それは別問題になります。
つまり、「会社に非があるかどうか」だけで終わるのではなく、「その要求や言動が相当な範囲にとどまっているか」という点まで見極める必要があるということです。
会社側に一定の落ち度がある場面では、対応する側も引け目を感じやすくなります。しかし、そのことと、相手方の言動が何でも許されるということとは別です。ここを切り分けて考えられるかどうかが、現場対応では非常に重要になります。
厚生労働省はカスハラをどのように考えているか
カスハラは3つの要素で考える
カスハラは、一般に次の3つの要素で整理されます。
- 顧客等の言動であること
- 社会通念上許容される範囲を超えること
- 労働者の就業環境を害すること
この3つを満たすかどうかを見ていくことが、基本的な出発点になります。単に「嫌な思いをした」「対応が大変だった」という感覚だけではなく、何が問題なのかを整理して考える必要があります。
「顧客等」には誰が含まれるのか
ここでいう「顧客等」は、一般消費者だけを指すわけではありません。取引先、委託先、施設利用者などが含まれる場合もあります。
つまり、カスハラはBtoCの場面だけで起こるものではなく、BtoBの関係でも起こり得るということです。例えば、取引先からの不当な叱責や執拗な要求なども、状況によっては問題になり得ます。
このように考えると、カスハラは一部の業種だけの問題ではなく、さまざまな会社に関係するテーマだとわかります。
社会通念上許容される範囲を超えることとは何か
後ほど詳しく触れますが、これは単なる苦情やクレームを超えて、社会一般の感覚から見ても度を超えていると評価されるものをいいます。
もちろん、現場では「度を超えている」といっても簡単に白黒がつくわけではありません。そのため、内容だけでなく、要求のしかたや、その結果として現場にどのような影響が出ているかも含めて考える必要があります。
「就業環境を害する」とはどういうことか
「就業環境を害する」とは、働く人が身体的、精神的な負担を受け、安心して働けなくなることや、通常業務に支障が出るような状況になることをいいます。
たとえば、特定の担当者が強いストレスを受けて対応を恐れるようになったり、通常業務が止まったり、職場全体が緊張状態になるような場合です。
この問題は、対外的なお客様対応の話に見えるかもしれません。しかし実際には、従業員が安心して働ける職場環境をどう守るかという、社内の労務管理の問題でもあります。だからこそ、会社として放置してよい問題ではなく、職場環境の問題として考える必要があります。
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「社会通念上許容される範囲を超えるか」は2つの視点で見る
1.要求の内容そのものが行き過ぎている場合
まず一つは、要求の内容そのものが行き過ぎている場合です。
例えば、次のようなものが考えられます。
- そもそも要求に理由がない
- 商品やサービスと関係のない要求である
- 通常の対応では到底応じられない要求である
- 過大な金銭要求や処分要求などに及ぶ
ここで着目しているのは、何を要求しているのかという点です。通常では対応できない、あるいは対応すべきでないことを求めている場合、それは内容面で問題があるということになります。
2.要求のしかたや態度が行き過ぎている場合
もう一つは、要求の内容ではなく、その要求のしかたや態度が行き過ぎている場合です。
例えば、次のようなものが考えられます。
- 暴言
- 威圧的な言動
- 長時間の拘束
- 居座り
- 何度も繰り返す執拗な要求
- SNS等での攻撃
- 土下座の強要
こちらは、何を求めているのかではなく、どのように求めているのかに着目しています。たとえ一定の理由がある苦情であっても、その伝え方や態度が相当性を失っていれば、それは別の問題として考えなければなりません。
内容だけでなく、やり方も重要である
要求内容に一定の理由があっても、やり方が相当でなければ、カスハラになる場合があります。
例えば、100円の商品に不備があり、その100円の返金を求めること自体は不自然ではありません。しかし、その要求をする際に、従業員の胸ぐらをつかみながら迫るような場合はどうでしょうか。
要求している内容だけ見れば返金請求ですが、その態様は明らかに許容される範囲を超えています。つまり、内容がもっともらしく見えても、それだけで正当だとはいえないということです。
現場では、「何を求めているか」だけでなく、「どう求めているか」も見なければいけません。むしろ、実務ではこちらを見落とすと判断を誤りやすいと感じます。
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現場で迷うのは、白黒がすぐにつかないケースである
明らかな暴力や脅迫だけが問題になるわけではない
カスハラというと、暴力や脅迫のような明らかな事案を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、実際には、もっと判断しづらい場面の方が多いのではないでしょうか。
例えば、強い口調で繰り返し電話をしてくる、何度も謝罪を求める、担当者を変えても同じ要求を続ける、といったケースです。こうした場面では、即座に白黒をつけにくく、現場が迷いやすいのが実際だと思います。
判断は一部分ではなく、全体を見て行う
このように判断に迷う場合には、一部分だけを切り取って見るのではなく、全体を見て考える必要があります。
例えば、次のような点です。
- 何がきっかけで始まったのか
- 会社側にどのような事情や落ち度があったのか
- 相手は何を求めているのか
- どのような態様で、どれくらい続いているのか
- 従業員にどのような影響が出ているのか
明らかな加害行為がない場合でも、これらを総合的に見ていくことで、単なる苦情対応の範囲にとどまるのか、それとも行き過ぎた言動として対応すべきかが見えてきます。
感覚ではなく、判断の基準を持つことが大切である
判断に迷うようなケースでは、担当者の受け止め方だけに任せない方がよいでしょう。
現場で起こった出来事を整理し、事実確認を行い、その結果として、何が起きていたのか、どこに問題があるのかをしっかり判断する必要があります。そのためには、社内で同じ基準を持てるようにしておくことが重要です。
担当者によって対応がぶれれば、相手方への対応も不安定になりますし、従業員保護の観点からも問題が生じます。だからこそ、あらかじめ判断の基準を持っておくことが大切だと考えています。
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カスハラ対策が必要なのは、従業員を守るためだけではない
放置すると現場が疲弊する
カスハラを放置すると、まず担当者が萎縮してしまいます。お客様対応そのものがトラウマになってしまうこともあるでしょう。
また、離職やメンタル不調につながれば、雇用や採用、人材育成にも影響が出てきます。配置転換などにより、他の業務に影響が及ぶことも考えられます。
さらに、カスハラ対応の様子を見ている他のお客様に悪影響が出る可能性もあります。店や会社の雰囲気が悪くなれば、通常のお客様対応や企業イメージにも影響が及びかねません。
このように、目の前のお客様とのやり取りだけの問題ではなく、さまざまなところに影響が広がっていくことを理解する必要があります。
「その場しのぎ」の対応では再発しやすい
その場しのぎで対応していると、次のようなことが起こりやすくなります。
- 現場だけで抱え込む
- 管理職につながらない
- 記録が残らない
- 後から検証できない
このような対応では、その場は何とかしのげたように見えても、次に同じような事案が発生したときに、また同じように時間と労力を要することになります。
つまり、問題を一度乗り切ったように見えても、実際には何も蓄積されておらず、会社としての対応力が上がっていないということです。
カスハラ対策は、接客の問題ではなく危機管理の問題である
カスハラ対策は、単なる接客の話ではありません。労務管理、職場環境、組織防衛の問題でもあります。
カスハラによって従業員が退職する、現場の士気が下がる、常連客が離れていく。そのようなことは、本当に起こり得ないと言い切れるでしょうか。
対応を誤れば、目の前のトラブルにとどまらず、会社の内部にも外部にも影響が広がっていきます。私は、だからこそ会社としての備えが必要なのだと思っています。
これから会社には、カスハラ対策がより強く求められる
現場任せでは足りない
今後は、多様な要求が想定されますし、従業員保護という目的を果たすためにも、担当者個人の我慢で乗り切る時代ではありません。
また、毅然とした組織対応を行うためには、会社として対応方針を明確にする必要があります。さらに、現場や管理職が判断に迷わないための基準も必要になります。
つまり、個人の経験や我慢に頼るのではなく、会社としてどう考え、どう動くのかをあらかじめ決めておくことが重要だということです。
必要になるのは「仕組み」と「役割分担」である
そのために必要になるのが、社内の仕組みと役割分担です。
- 相談を受ける窓口
- 現場責任者への報告
- 記録の残し方
- 対応方針の決定
- 必要時の外部専門家との連携
カスハラに関しても、会社の中で役割と対応フローを決めておくことで、対応に迷いが少なくなります。
誰が最初に受けるのか、どの段階で上司や本部につなぐのか、どのように記録するのか、どのような場合に外部へ相談するのか。こうしたことを決めておくだけでも、現場の負担はかなり変わってきます。
まとめ|カスハラは、感覚ではなく判断のポイントで見ていく
ここまで見てきたとおり、次の点は特に大切です。
- クレームのすべてがカスハラではない
- カスハラかどうかは、内容と態様の両面から見る
- 会社に落ち度があっても、要求や態様が行き過ぎれば別問題になる
- 現場で迷わないためには、判断のポイントを社内で共有する必要がある
この点を、まずはしっかり押さえておくことが大切です。
カスハラは、単に「嫌なお客様」の問題ではありません。現場の従業員を守り、会社として適切に対応するために、何を基準に判断するのかが問われる問題です。
次回は、「要求内容が社会通念上許容される範囲を超える」とはどういうことかを、具体例を交えながら整理します。
さらにその次に、「手段や態様が社会通念上許容される範囲を超える」とはどういうことかについて見ていきます。
カスハラ対策に不安がある場合
カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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