カスハラ対策が義務化へ。今のうちに企業が準備しておきたいこと

2026.04.21

「お客様対応だから、ある程度は仕方がない」
そのように考えられてきた場面の中にも、すでに会社として見過ごせない問題が含まれています。

暴言、過度な要求、執拗な電話、長時間の拘束、SNSでの誹謗中傷。
こうした対応が続けば、現場の従業員は疲弊し、判断もぶれやすくなります。
そして、現場の問題に見えていたものが、やがて会社全体の問題に変わっていきます。

厚生労働省は、こうしたカスタマーハラスメントについて、事業主が講ずべき措置を示した指針を公表しています。
そこでは、会社として方針を示し、相談体制を整え、事案発生時に適切に対応し、再発防止まで行うことが求められています。

つまり、これからのカスハラ対策は、現場の担当者の経験や我慢に任せるものではありません。
会社として備えておくべきテーマになったということです。

この記事では、厚労省指針をもとに、カスハラとは何か、どのような対応が求められるのか、そして企業が今のうちに何を準備しておくべきかを、できるだけ分かりやすく整理します。

目次

カスハラとは何か

カスハラは3つの要素で考える

厚労省指針では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。

  • 1つ目は、顧客等による言動であること
  • 2つ目は、その言動が、労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
  • 3つ目は、その結果として、労働者の就業環境が害されることです。

この3つがそろってはじめて、職場におけるカスハラとして問題になります。

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すべての苦情やクレームがカスハラになるわけではない

ここで大切なのは、苦情やクレームのすべてがカスハラではないという点です。

厚労省指針でも、客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われるものは、正当な申入れであり、カスハラには当たらないとされています。

つまり、企業として必要なのは、
「クレームは全部カスハラだ」と考えることではありません。
一方で、「お客様だから、どこまでも対応しなければならない」と考えることでもありません。

必要なのは、どこまでは正当な申入れで、どこからが許容範囲を超える言動なのかを整理し、会社として判断できるようにしておくことです。これは指針の定義からも明らかです。

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対面だけでなく、電話やSNSも対象になる

カスハラというと、店頭や窓口での対面対応を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、厚労省指針では、電話やSNSなどインターネット上で行われる言動も対象に含まれています。

今は、面と向かって怒鳴る場面だけでなく、電話で執拗に要求が続いたり、SNS上で従業員や会社が攻撃されたりすることもあります。
そのため、カスハラ対策は、店舗や受付の問題に限らず、幅広い対応が必要になります。

「お客様対応」だけの問題ではありません

厚労省指針の「顧客等」はかなり広い

この問題を狭く考えないことも重要です。

厚労省指針でいう「顧客等」には、実際のお客様だけでなく、今後商品やサービスを利用する可能性のある人、取引先の担当者、契約交渉中の相手方、施設利用者、その家族、近隣住民なども含まれます。

つまり、問題になるのは、いわゆる接客業だけではありません。
BtoB取引、電話での問い合わせ、訪問先での応対、施設運営など、さまざまな場面で起こり得ます。

「職場」も会社の中だけではない

同じく見落としやすいのが、「職場」の考え方です。

厚労省指針では、労働者が業務を遂行する場所であれば、通常の勤務先だけでなく、取引先の事務所、打合せ先の飲食店、顧客の自宅なども「職場」に含まれるとしています。

この点から見ても、カスハラ対策は「うちは店舗がないから関係ない」というものではありません。
外部との接点がある以上、多くの会社に関係するテーマです。

どのような言動がカスハラになるのか

要求内容そのものが問題になる場合

厚労省指針では、まず、言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるものとして、次のような例を挙げています。

  • そもそも要求に理由がない、または商品・サービスとまったく関係のない要求
  • 契約等で想定しているサービスを著しく超える要求
  • 対応が著しく困難、または対応が不可能な要求
  • 不当な損害賠償要求

つまり、言い方が穏やかであっても、要求内容そのものが大きく逸脱していれば、問題となり得ます。

言い方や態様が問題になる場合

また、手段や態様が許容範囲を超える場合もあります。

厚労省指針が挙げる典型例には、次のようなものがあります。

  • 暴行、傷害などの身体的な攻撃
  • 脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要などの精神的な攻撃
  • 大声で威圧するなどの威圧的な言動
  • 同じ質問や要求を執拗に繰り返すこと
  • 長時間の居座りや電話拘束
  • SNS等での誹謗中傷や、プライバシーに関する投稿

つまり、要求内容だけでなく、その伝え方や続け方も重要です。

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実際の判断は総合的に行う

もっとも、現場では「この言葉が出たら即カスハラ」というほど単純ではありません。

厚労省指針でも、判断にあたっては、言動の目的、経緯や状況、頻度、継続性、業種・業態、業務の内容・性質、労働者側の事情などを総合的に考慮する必要があるとしています。
また、「言動の内容」と「手段や態様」のどちらか一方だけが許容範囲を超える場合でも、カスハラに該当し得るとされています。

この点からも、企業としては、例を暗記するだけでなく、どういう観点で判断するのかを整理しておく必要があります。

企業に求められるのは「担当者の我慢」ではなく「会社の仕組み」

厚労省指針が求めていること

カスハラの問題が難しいのは、放っておくと現場の担当者に負担が集中してしまうからです。

しかし、厚労省指針が求めているのは、担当者が個人で何とか乗り切ることではありません。
事業主に求められているのは、会社としての方針と体制を整えることです。

指針では、事業主が講ずべき措置として、次のような内容が示されています。

  • カスハラには毅然と対応し、労働者を保護する方針を明確にすること
  • カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処内容を労働者に周知すること
  • 相談窓口を定め、適切に対応できる体制を整えること
  • 事案発生時に、事実関係を迅速かつ正確に確認すること
  • 被害者に対する配慮措置を行うこと
  • 再発防止に向けた措置を講じること
  • 特に悪質なケースへの対処方針をあらかじめ定めておくこと
  • 相談者等のプライバシー保護と、不利益取扱いの禁止を明確にすること

カスハラ対策は危機管理の一部

このように見ると、カスハラ対策は単なる接客マナーの問題ではありません。
会社としての危機管理の問題です。

何が問題で、誰がどう判断し、どこへ引き継ぎ、どのように会社として守るのか。
そこまで決めておかなければ、実際の現場では対応がぶれます。

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現場任せにすると、対応がばらつきます

担当者ごとに判断が変わる危険

ルールがない状態では、どうしても担当者ごとに対応が変わってしまいます。

ある人は、断れずに長く対応してしまう。
ある人は、相手を刺激しないように必要以上に謝罪してしまう。
ある人は、早めに上司へ報告する。
ある人は、一人で抱え込んでしまう。

こうした差は、担当者の性格や能力だけの問題ではありません。
会社としての基準がないことが原因です。

厚労省指針が示す対処の例

厚労省指針では、対処内容の例として、次のようなものを挙げています。

  • 労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応方針について指示を仰ぐこと
  • 可能な限り一人で対応させないこと
  • 必要に応じて管理監督者等が対応を代わること
  • 顧客等とのやり取りを録音・録画すること
  • 一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすること
  • 暴行、傷害、脅迫などの犯罪に該当し得る場合には警察へ通報すること
  • 本社・本部へ情報共有し、必要に応じて弁護士へ相談すること

つまり現場に必要なのは、「頑張ること」よりも、迷わず動ける仕組みです。
誰が、どの場面で、何をしてよいのか。
どの時点で上司や本部に上げるのか。
そこを事前に整理しておくことが、現場を守るうえで欠かせません。

相談窓口は「あるだけ」で終わらせない

相談窓口の設置は出発点にすぎない

厚労省指針では、相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知することが求められています。

ただ、実務では、窓口があるだけでは機能しないことも少なくありません。

相談を受けた担当者が判断できない。
関係部門との連携が取れない。
相談者が「この程度で相談してよいのか」とためらってしまう。
そうなると、制度はあっても使われません。

微妙な段階でも相談できることが大切

厚労省指針は、相談窓口の担当者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることや、カスハラに該当するか微妙な場合、発生のおそれがある場合も含めて広く相談に対応することを求めています。

これは非常に重要です。

相談窓口は、深刻な案件だけを受ける場所ではありません。
むしろ、まだ判断が固まらない段階で相談できることに意味があります。

現場では、「これは正当なクレームなのか、それとも行き過ぎなのか」「まだ対応を続けるべきか、それとも報告すべきか」で迷うことが少なくありません。
そうした段階で相談できることで、問題の長期化や深刻化を防ぎやすくなります。これは指針の趣旨にも沿っています。

事案が起きた後も、会社の対応が問われます

まず必要なのは事実確認

実際に事案が発生した場合、企業はまず事実関係を迅速かつ正確に確認しなければなりません。

厚労省指針では、相談者本人からの聴取に加え、必要に応じて周囲の労働者からの聴取や、録音・録画等の客観的証拠の確認を行うことが想定されています。
場合によっては、行為者から事情を聞くことも考えられます。

被害者への配慮も必要になる

事実が確認できた場合には、被害を受けた従業員への配慮措置を速やかに行う必要があります。

厚労省指針では、次のような措置が例示されています。

  • 管理職等が被害者に代わって対応すること
  • 被害者と行為者を引き離すこと
  • 複数人で対応すること
  • 配置の見直し
  • メンタルヘルス不調への相談対応
  • 必要に応じて警察通報や弁護士相談を行うこと

対応して終わりではなく、再発防止まで必要

さらに、事案が終わった後も、会社には再発防止が求められます。

厚労省指針は、改めて方針を周知・啓発し、必要に応じて、商品・サービス・接客等の問題や、顧客等とのコミュニケーション不足など、発生の背景となった事情そのものを改善することを求めています。
事案の内容や対応経緯を記録し、関係部門に共有して再発防止に活かすことも考えられるとされています。

つまり、会社として本当に問われるのは、
「誰が悪かったか」だけではなく、
何を見直し、どう立て直すかです。

悪質なケースほど、事前の備えが大切です

特に悪質なケースへの対処方針は事前に決める

すべての事案が同じ重さではありません。
中には、過度な要求を繰り返す、脅迫的な言動に及ぶ、長時間拘束するなど、特に悪質なケースもあります。

厚労省指針は、このようなケースについて、あらかじめ対処方針を定め、管理監督者を含む労働者に周知するとともに、その方針に基づく対処を行える体制を整えることを求めています。

例として示されている措置

指針が挙げる例には、次のようなものがあります。

  • 警察への通報
  • 行為者への警告文の発出
  • 法令の範囲内での商品販売・サービス提供の停止
  • 店舗や施設への出入り禁止
  • 仮処分命令の申立て

ただし、業種や業態によっては、すぐにサービス提供を止めることが難しい場合もあります。
厚労省指針も、業種・業態等に応じて必要な対応が異なることに留意し、それぞれの状況に応じた方針を定めることが効果的だとしています。

だからこそ、一般論を並べるだけでなく、自社の実情に即して、どの場面でどう動くのかを詰めておくことが重要になります。

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併せて忘れてはいけないこと

相談者等のプライバシー保護

カスハラ対策では、相談対応の仕組みばかりが注目されがちですが、厚労省指針は、相談者等の情報がプライバシーに属するものであることを踏まえ、プライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知することを求めています。
性的指向やジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれるとされています。

不利益取扱いの禁止

また、労働者がカスハラについて相談したことや、事実関係の確認等に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならず、その旨を定めて周知・啓発することも必要です。

この2点は、相談窓口を機能させるうえで欠かせません。
「相談したら不利になるのではないか」と思われれば、制度はあっても使われないからです。

今のうちに企業が準備しておきたいこと

1.方針を作る

まず必要なのは、カスハラには毅然と対応し、従業員を守るという会社の考え方を明確にすることです。
厚労省指針も、この方針を労働者に周知・啓発すること、さらに顧客等に周知することも被害防止に効果的としています。

2.規程やマニュアルを整える

方針だけでは現場は動けません。
どのような言動を問題と考えるのか、誰に相談するのか、初動で何をするのか、どう記録するのか、悪質事案にはどう対応するのかといった実務ルールを整理しておく必要があります。
これも、指針が対処内容をあらかじめ定めて周知するよう求めていることに沿うものです。

3.相談窓口を決める

誰が相談を受け、どこまで現場で対応し、どの段階で上司や本部に引き継ぐのかを整理しておくことが必要です。
必要に応じて、外部機関への相談対応委託も選択肢になります。これは指針の相談体制整備の例示にもあります。

4.研修を行う

管理職を含めて、何がカスハラに当たり得るのか、どのように対応するのか、何をしてはいけないのかを共有することが必要です。
厚労省指針も、研修や講習の実施を周知・啓発の方法として挙げています。

5.記録と再発防止の仕組みを作る

事案が起きたときに、何が起き、どう対応し、何が課題だったかを記録し、再発防止に活かせるようにすることが重要です。
個別対応で終わらせず、会社全体の学びに変えることで、同じ問題の繰り返しを防ぎやすくなります。これは指針の再発防止の考え方にも沿っています。

まとめ

カスハラ対策は、単に「従業員に頑張ってもらうこと」ではありません。
必要なのは、会社として判断し、会社として守ることです。

  • 方針をつくること。
  • 相談できる体制を整えること。
  • 初動で迷わないようにすること。
  • 事実確認と事後対応の流れを決めておくこと。
  • そして、再発防止まで見据えること。

厚労省指針が求めているのも、まさにこの体制整備です。

今の段階で、すべてが完璧に整っていなくても問題はありません。
ただ、何も決まっていないまま事案が起きると、どうしても現場に負担が集中します。
逆に、事前に会社として考え方と流れを整えておけば、従業員を守りやすくなり、判断のぶれも減らしやすくなります。

これからの企業実務では、カスハラ対策は「余裕があればやるもの」ではなく、会社として向き合うべきテーマになっていきます。
まずは、自社でどこまで整っているかを確認し、方針、規程、相談体制、初動対応の流れを、実情に合わせて少しずつ形にしていくことが大切です。

カスハラ対策に不安がある場合

カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
シールド社会保険労務士事務所では、カスハラを含む不祥事・危機対応について、初動対応の整理や社内フロー整備を支援しています。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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