カスハラ【言動の内容編】「要求内容」が社会通念上許容される範囲を超えるのはどんな場合か

2026.04.28
目次

カスハラは「要求の中身」が問題になる場合がある

カスハラは態度だけで決まるわけではない

カスハラというと、暴言や威圧的な態度を想像される方が多いと思います。たしかに、怒鳴る、脅す、居座るといった行為は目に見えやすく、現場でも「これはまずい」と気づきやすいものです。

しかし、カスハラはそうした表面上の態度だけで決まるものではありません。暴言や態度の問題は、いわば外に現れた部分です。その前の段階として、要求内容そのものが不当である場合があります。

つまり、言い方が丁寧であっても、求めている内容が社会通念上許容される範囲を超えていれば、カスハラに当たる可能性があるということです。
逆に、言い方だけに引っ張られてしまうと、「本当に問題なのは何か」を見誤ることがあります。

まずは、要求の内容、すなわち「お客様が何を求めているのか」を切り分けて考える必要があります。

カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いを先に整理したい方は、
カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント
を先にご覧ください。

「要求内容」が問題になるときは、最初から線を引きやすい

要求内容が問題になるケースでは、比較的早い段階で線を引きやすいことがあります。例えば、次のような場合です。

  • 内容自体に理由がない
  • 本来の取引やサービスと無関係である
  • 契約や制度の前提を超えている
  • 企業側が応じるべき義務のない要求である

このような場合は、態度や口調以前に、すでに要求の中身に問題があります。
そのため、現場では「言い方が穏やかだから対応すべきではないか」と迷うことがありますが、まずは内容を見て判断する必要があります。

以下では、厚生労働省が示す類型をもとに、要求内容が社会通念上許容される範囲を超えるとはどのような場合かを具体的に見ていきます。

厚生労働省が示す「要求内容が許容範囲を超える」4つの類型

厚生労働省が示す整理に沿って考えると、要求内容が問題になる場面は、概ね次の4つに分けて考えることができます。

そもそも要求に理由がない、又は商品・サービスと関係がない要求

  • クレームの対象となる出来事と無関係な要求
  • 対応の場面に乗じて別の利益を求める要求
  • 従業員個人への私的要求、性的要求、プライバシーに関わる要求

契約等により想定しているサービスを著しく超える要求

  • 本来の契約内容や約款に含まれない対応を求める
  • 無償で過大な追加対応を求める
  • 一度のミスを理由に、通常ではあり得ない特別対応を求める

対応が著しく困難な、又は対応が不可能な要求

  • 物理的に実現できない要求
  • 制度上、会社の権限では対応できない要求
  • 社内ルールや法令上、応じられない要求

不当な損害賠償要求

  • 実損と結びつかない過大請求
  • 慰謝料、迷惑料などを当然のように求める要求
  • 会社側の不備の程度に比べて、著しく過大な金銭要求

内容面を考える際には、まずこの4類型に当てはまるかどうかを見ると整理しやすくなります。

そもそも要求に理由がない、又は商品・サービスと関係がない要求とは

苦情に便乗して別の要求を持ち込むケース

苦情対応の場面では、本来のトラブルとは別の要求が持ち込まれることがあります。例えば、次のようなものです。

  • 本来の苦情対応とは無関係の便宜供与を求める
  • 従業員への私的接触や連絡先の開示を求める
  • 対応とは無関係な謝罪方法や特別扱いを求める

このような要求は、一見すると「お客様対応の延長」のようにも見えるかもしれません。しかし、苦情の解決とは別の目的が入り込んでいる時点で、すでに注意が必要です。

苦情に対応している最中は、現場も「まずは穏便に収めたい」と考えがちです。そのため、関係のない要求まで流れで飲み込みそうになることがあります。ですが、そこは切り分けて考えなければなりません。

要求の対象が「会社」ではなく「従業員個人」に向かうケース

また、要求の矛先が会社ではなく、従業員個人に向かう場合もあります。

  • 個人情報を求める
  • 私生活に踏み込む
  • 性的言動や私的関係を求める

こうした要求は、商品やサービスの改善要求ではありません。
苦情対応の場面を利用して、従業員個人に不当な要求を向けているにすぎず、これは別種の問題です。

現場では、「お客様が怒っているから、ある程度は仕方がない」と受け止めてしまうことがあります。しかし、要求の対象が会社の対応ではなく従業員個人に移っているのであれば、その時点で通常のクレーム対応の範囲から外れていると考えるべきです。

見極めるポイントは「その要求は何のためのものか」

この類型で見極める際には、次の3点が重要です。

  • 苦情の解決に必要な要求か
  • 商品・サービスとの関連性があるか
  • 会社として応じる理由が説明できるか

お客様からの要求を冷静に整理し、まずはこの3点に当てはまるかを検証してください。
適当な要求として対応するためには、その要求が少なくともこれらの点を満たしている必要があります。

現場では、相手の勢いや口調に引っ張られてしまいがちですが、問題はそこではありません。
その要求が、何のために、何を解決するために出されているのか。
ここを丁寧に見るだけでも、かなり整理しやすくなります。

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契約や通常のサービス水準を著しく超える要求とは

正当な補償請求と「過大な特別対応要求」は別である

ここで勘違いしないでいただきたいのは、会社側にミスがあれば、一定の説明や補償が必要になることは当然あるということです。
お客様からの要求をすべてカスハラとして扱うべきではありません。お客様対応は真摯に行うべきです。

しかし、お客様がそこを超えて、契約や通常対応の範囲外にまで要求を広げていくと、問題は別になります。
つまり、正当な補償請求と、過大な特別対応要求とは分けて考えなければならないということです。

この切り分けができないと、「会社に落ち度があるのだから、どこまででも応じなければならない」という誤った対応につながります。

「本来そこまで提供していないもの」を求めるケース

例えば、次のようなケースです。

  • 無償の追加サービスを当然視する
  • 通常の運用を大きく超える個別対応を求める
  • 一度のトラブルを理由に継続的な便宜を求める

このような要求は、一見すると「お客様の不満への配慮」のようにも見えます。
しかし、本来提供していないものを当然のように求めているのであれば、それは通常の補償や説明の範囲を超えています。

現場では、「今回は特別に」と応じたくなることがあります。ですが、その特別対応が常態化すると、後で大きな負担になります。

現場で見るべきなのは「契約・約款・通常運用とのズレ」

この場面では、感覚ではなく、根拠を見て判断する必要があります。

  • 契約書、利用規約、約款
  • 通常であればどのように対応するのか
  • 他の顧客との公平性
  • 例外対応をした場合の社内外への影響

契約書や約款は、通常であればどこまで対応するのかを示す基準になります。
また、当該顧客だけを特別扱いしていないかという視点も重要です。なぜなら、そのような対応は、後に他のお客様からの不信感にもつながるからです。

つまり、現場で見るべきなのは、単に「お客様が強く求めているか」ではなく、契約・約款・通常運用とのズレがどこにあるかという点です。

対応が著しく困難な、又は対応が不可能な要求とは

「やりたくない」ではなく「できない」要求がある

現場では、「断ると余計に怒らせるのではないか」と考え、無理にでも対応しようとしてしまうことがあります。
しかし、会社としてやりたくないのではなく、そもそもできない要求があります。

例えば、次のようなものです。

  • 物理的に不可能
  • 制度上できない
  • 権限外である
  • 安全上、実施できない

これらは、会社として「できない」行為です。
ですので、できないものを曖昧にしておくのではなく、そのことをお客様にきちんと伝える必要があります。

現場が無理をすると、かえって問題が大きくなる

現場が無理をすると、かえって問題が大きくなることがあります。

  • その場を収めるための安易な約束をする
  • 実現できない説明をしてしまう

こうした対応をすると、お客様に期待だけを持たせることになります。
その結果、後で「言ったではないか」という形で、さらに揉めることになります。

しかも、約束をしてしまったのであれば、録音等によって保全され、不利な状況になる場合もあります。
その場をしのいだつもりでも、実際には後の火種を大きくしているだけ、ということは少なくありません。

判断のポイントは「会社として実行可能か」

この場面で確認すべきポイントは、次のとおりです。

  • 現場判断で対応できる範囲か
  • 上席判断が必要か
  • そもそも会社として実現できる要求か
  • 一度応じることで継続対応が必要になるか

この順番で考えることがとても重要です。
現場で何が判断できるかは、会社ごと、店舗ごとに異なります。そのため、あらかじめ対応フローを構築しておく必要があります。

また、一度応じれば、その後も継続的に、しかも他の顧客にも同様の対応を求められる可能性があります。
だからこそ、「今回だけ」と軽く考えないことが重要です。

不当な損害賠償要求とは

不当になりやすい典型例

損害賠償を求めること自体が直ちに不当というわけではありません。
会社側に落ち度があるのであれば、返金や一定の補償の問題が出ることはあり得ます。

ただし、次のような場合には注意が必要です。

  • 実害に比べて著しく高額
  • 根拠が曖昧な慰謝料請求
  • 迷惑料、謝罪料など名目だけが先行する請求
  • 本来の損害と無関係な金銭要求

こうした請求は、感情の高まりに乗じて膨らんでいることが少なくありません。
要求の見た目が「お金の話」だからといって、それだけで合理的とは限らないのです。

見るべきポイントは「根拠」「相当性」「因果関係」

不当な損害賠償要求かどうかを見る際には、次の点を確認する必要があります。

  • 何の損害なのか
  • その金額に根拠があるのか
  • 会社の行為と本当に結びつくのか
  • 感情的な要求が過大化していないか

つまり、見るべきポイントは、事実関係の確認と、その根拠は何かを考えることです。
感情で反応するのではなく、冷静に言動を確認し、分析することが必要です。

特に現場では、お客様が強い口調で金額を示してくると、その数字に引っ張られやすくなります。ですが、まず確認すべきなのは、その金額の大きさではなく、その請求に根拠があるのかという点です。

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内容が不当かどうかは、会社側に落ち度があっても別に考える

会社に非があると、現場は線を引きにくくなる

会社に落ち度があると、現場は線を引きにくくなります。
申し訳なさから、不当要求まで受け入れやすくなるのは自然な心理です。

しかし、それは違います。
あくまで応じるべきなのは、会社に非のある部分までです。勢いに乗じて不当要求を行ってくる場合もありますので、会社に非がある場合でも、どのような非があり、どこまでの要求に応じる必要があるのかを冷静に考える必要があります。

ここを曖昧にすると、本来は切り分けるべきものまで一緒に飲み込んでしまいます。

会社に非がある場面ほど、感情ではなく事実関係を整理して判断する必要があります。
初動段階での考え方については、

ハラスメント発覚後の初動対応|元刑事が教える判断と事実認定の原則

でも整理しています。

まず分けるべきは「謝るべきこと」と「応じるべきでないこと」

このような場面では、まず次の点を分けて整理することが必要です。

  • 事実関係
  • 会社の責任の有無
  • 必要な謝罪や説明
  • それとは別の不当要求

まず、何が原因でお客様から要求されているのかを確認し、会社としての責任の有無や割合も確認します。
会社に原因がある場合は、その範囲で謝罪や説明、補償を行うことがあります。

不当な要求とは、これに該当しないもの、またはこれを超えるものをいいます。
この区別ができるかどうかで、対応の質は大きく変わります。

ここを分けないと現場が消耗する

この区別をしないまま対応すると、現場が消耗します。

  • 本来不要な特別対応が常態化する
  • 担当者が抱え込む
  • 他の顧客対応との公平性が崩れる

お客様に安易な回答をしたことが原因で、特別対応が常態化してしまうと、現場の担当者は常に要求との戦いを強いられることになります。
そうなると、従業員は疲弊しますし、企業としての公平性も疑われます。

現場で頑張ること自体は大切です。しかし、頑張る方向を間違えると、組織全体が消耗するということを忘れてはいけません。

現場で迷わないために確認したい3つの視点

その要求は、苦情の解決に本当に必要か

  • 解決に必要な要求なのか
  • 便乗要求ではないか
  • 本来の苦情と結びついているか

その要求は、受けても当然といえる必要なものなのか。
また、苦情との因果関係があるのか。ここをしっかり確認する必要があります。

「求められているから対応する」のではなく、「その要求は何を解決するためのものなのか」を見ることが大切です。

その要求は、契約・制度・通常対応の範囲内か

  • 契約や約款の範囲か
  • 通常運用で対応している内容か
  • 例外対応に合理的理由があるか

要求への対応を行うにあたっては、根拠が必要です。
何を根拠にその要求に応じるのか。この視点を持たずに対応すると、判断がぶれやすくなります。

現場で迷ったときほど、契約、規約、社内ルールといった客観的な基準に戻ることが重要です。

その要求は、会社として実行可能で相当か

  • 実行可能か
  • 権限内か
  • 他の顧客や従業員への影響を考えても妥当か

お客様の要求が会社として実行可能であるかを考える際、基準となるのは道徳だけではありません。法令や規定も基準になります。
単に資金があるから実行可能、という話ではないのです。ここを間違えないようにしなければなりません。

そして、最後は周囲との整合性の問題になります。法令では「社会通念上」という言葉が使われますが、これは社会一般的に考えてどうか、という意味です。
整合性という言葉は、この「社会一般的に見てどうか」という感覚に近いと私は思っています。

まとめ|「要求内容」が不当なら、内容面でカスハラを疑う

この記事のまとめ

ここまで見てきたように、次の点は特に重要です。

  • カスハラは、やり方だけでなく要求内容でも判断する
  • 内容面の典型例は4つに整理できる
  • 会社に落ち度があっても、不当要求まで受け入れる必要はない
  • まずは「何を求めているのか」を冷静に分けて見ることが大切である

カスハラというと、どうしても怒鳴る、脅すといったわかりやすい場面に目が向きがちです。
しかし実際には、内容面で線を越えている要求も少なくありません。

だからこそ、表面的な態度だけで判断するのではなく、まず要求内容そのものを見ていく必要があります。

次回予告

次回は、要求内容に一定の理由があっても、手段や態様が行き過ぎればカスハラになり得るという点、すなわち、「どう求めたか」という手段・態様編を整理します。

カスハラ対策に不安がある場合

カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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