カスハラ【ケース判断編③】身体的な攻撃や有形力に近い行為はどこから危機対応になるのか

- 身体的な攻撃や有形力に近い行為はどこから危機対応になるのか
- ケース1 殴る・蹴る・叩くはどこから問題になるのか
- ケース2 物を投げる・机を叩くはどこから危険行為になるのか
- ケース3 わざとぶつかる・胸ぐらをつかむ・押す行為はどこから危機対応になるのか
- ケース4 退路をふさぐ・取り囲む行為はどこから監禁や危機対応の問題になるのか
- ケース5 つばを吐く、唾液を飛ばす行為はどこから問題になるのか
- ケース6 有形力に近い行為が繰り返されると、どこから危険度が一気に上がるのか
- 刑法上の問題になり得るかを現場で考える視点
- 現場対応のポイント
- まとめ|身体的な攻撃や有形力に近い行為は、安全の問題として線を引く
- カスハラ対策に不安がある場合
- 無料チェックシートについて
身体的な攻撃や有形力に近い行為はどこから危機対応になるのか
指針でも「身体的な攻撃」は典型例とされている
厚生労働省の指針は、身体的な攻撃の例として、殴る、蹴る、叩く、物を投げつける、わざとぶつかる、つばを吐きかける等を挙げています。
これらは、単なる不快な言動ではなく、安全そのものに関わる問題です。今までの記事であるケース①②で紹介した類型と比べても、危険性は格段に高くなります。
手段・態様全体の整理を先に確認したい方は、
「カスハラ【手段・態様編】正当な要望でもカスハラになるのはどんな場合か」
もあわせてご覧ください。
会社に非があっても、身体的な攻撃まで許されるわけではない
苦情に理由があることと、有形力の行使が許されることは別問題です。
この段階では、苦情対応よりも従業員保護と安全確保が優先されます。
会社側に落ち度があると、現場ではどうしても「こちらが悪いのだから、多少は仕方がない」と考えがちです。
しかし、身体的な攻撃や有形力に近い行為まで受け入れる必要はありません。ここははっきり切り分ける必要があります。
真摯なお客様対応 → カスハラ対応 → 危機対応
ケース①②では、多少の強い文言等があっても、まずはお客様対応をすべきであるとお話ししました。
しかし、有形力の行使が行われた場合は、いきなり危機対応となることがあります。
暴言や侮辱、威圧的な言動については、前回の記事で整理しています。
→ 「カスハラ【ケース判断編①】暴言・侮辱・威圧はどこから許されなくなるのか」
繰り返し要求、居座り、長時間拘束については、こちらの記事で整理しています。
→ 「カスハラ【ケース判断編②】繰り返し要求・居座り・長時間拘束をどう判断するか」
有形力の行使が許される場面というのは、基本的にはありません。
そして、会社には、有形力の行使から従業員を守る義務があります。
したがって、この類型では、通常の苦情対応の延長で考えないことが重要です。
カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いを先に整理したい方は、
→「カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント」
を先にご覧ください。
ケース1 殴る・蹴る・叩くはどこから問題になるのか
身体に直接向けられた攻撃は最も典型的な危険行為である
- 殴る
- 蹴る
- 平手で叩く
- 腕を払う
このような、身体に向けた直接的な接触は危険性が高く、従業員の安全確保の視点からも看過すべきではありません。
現場では、怒って手が出たというだけで軽く見ないことが必要です。
傷害結果がなくても暴行の問題になり得る
けがをしていないから問題が軽いわけではありません。
暴力を振るえば、内容や状況によっては暴行罪の問題になります。さらに、その暴行の結果としてけがを負わせれば、傷害罪の問題になります。
暴行とは、人の身体に対する有形力の行使をいいます。
たとえば、殴る、蹴る、叩く、押す、胸ぐらをつかむ、わざとぶつかる、つばを吐きかけるといった行為です。
これに対し、傷害とは、そのような行為の結果として、打撲、擦り傷、出血、痛み、精神的不調など、心身に支障が生じることをいいます。
つまり、けががなければ暴行の問題、けがや心身の不調が生じれば傷害の問題になり得る、という整理です。
ですので、殴るなどといった有形力の行使があれば、暴行罪に該当する可能性が高いと言えます。
現場では、まず身体接触の有無をしっかり押さえる必要があります。
現場で見るべきポイント
- 身体接触があったか
- 接触の態様はどうか
- けがや痛みはあるか
- 周囲の目撃者、録画、録音はあるか
- その場で安全確保が必要か
この5点は、最低限確認しておきたいところです。
ケース2 物を投げる・机を叩くはどこから危険行為になるのか
直接当たっていなくても危険性は高い
- 物を投げる
- 商品を投げ返す
- 机やカウンターを強く叩く
- 壁を蹴る
直接殴っていなくても、これらの行為は威圧と危険を伴います。
「当たっていないから大丈夫」と考えるのは危険です。
現場では「当たったかどうか」だけで軽く見ない
- たまたま当たらなかっただけのこともある
- 周囲の客や従業員に危険が及ぶ
- こうした行為は、接客トラブルの範囲を超えている場合がある
また、つばをかける、物を投げるといった行為も、内容や状況によっては暴行罪の問題になり得ます。
重要なのは、結果だけではなく、何をしたのかです。
現場で見るべきポイント
- 投げた物の種類
- 誰に向けたか
- 実際に接触したか
- 周囲への危険があったか
- 反復していないか
ここでは、人的危険だけでなく、周囲の安全への影響も見ておく必要があります。
ケース3 わざとぶつかる・胸ぐらをつかむ・押す行為はどこから危機対応になるのか
「強くはない接触」でも、意図的なら問題になる
- わざと肩をぶつける
- 胸ぐらをつかむ
- 体を押す
- 通路で押し戻す
ここで挙げた行為は、内容や状況によっては暴行罪に該当する可能性が高いです。
たとえ強い打撃でなくても、意図的な身体接触であれば軽く見ないことが大切です。
この段階では、接客ではなく身体的安全の問題として見る
ここまでくると、苦情対応の一環ではなく、従業員保護が最優先になります。
多くのケースで法令違反に該当する可能性がありますので、記録と共有が必要になります。
現場では、「まだ話し合いの延長だ」と考えてしまうことがあります。
しかし、身体への接触が出た段階で、通常の接客対応から危機対応へ切り替える意識が必要です。
現場で見るべきポイント
- 偶然か、意図的か
- 一回か、繰り返しか
- 相手が萎縮し、離脱困難になっていないか
- 監視カメラや目撃者はあるか
このあたりを押さえないと、後で「たまたま触れただけ」と言われたときに整理が難しくなります。
ケース4 退路をふさぐ・取り囲む行為はどこから監禁や危機対応の問題になるのか
物理的に帰れない、離れられない状態は要注意である
- 出入口の前に立つ
- 取り囲む
- 車両や部屋から出さない
- 帰ろうとする相手を留め置く
このような行為は、自由な移動を妨げる点で危険です。
単なる苦情対応ではなく、身体活動の自由を奪う方向に向かっていないかを見る必要があります。
内容や状況によっては、監禁罪の問題になり得る
- 相手の行動の自由を奪っていないか
- その場から離れられない状態にしていないか
- 単なる説明要求では済まない場面がある
ここでいう「相手」とは、お客様ではなく、自社の従業員や担当者です。
つまり、従業員側がその場から離れられない状態にされていないかを見る必要があります。
現場で見るべきポイント
- 相手は帰ろうとしていたか
- 退路妨害があったか
- 複数人で囲んでいないか
- 威圧が伴っていないか
- 安全確保のために応援や通報が必要か
ここは、通常の苦情対応と危機対応の分岐点になりやすい場面です。
ケース5 つばを吐く、唾液を飛ばす行為はどこから問題になるのか
直接的な暴行に近い行為として見る必要がある
- つばを吐きかける
- 故意に唾液を飛ばす
- 顔に向けて行う
身体に接触がなくても、相手の身体や尊厳を害する行為です。
これらは、有形力の行使に近い行為として対処する必要があります。
私の経験では、内容や状況によっては暴行罪の問題になるケースがあると考えています。
感染不安や強い嫌悪感を伴い、就業環境への影響も大きい
- 単なる不快行為では済まない
- 従業員が強く萎縮する
- 周囲の現場にも大きな影響が出る
この行為は、身体的な危険だけでなく、衛生面や精神的負担の面でも問題が大きいです。
現場では、軽く見ないことが必要です。
現場で見るべきポイント
- 故意性があるか
- 誰に向けたか
- 実際にかかったか
- 現場の安全・衛生面でどう対応するか
- その場の記録と共有ができているか
ここは後の対応にも直結しますので、記録が特に重要です。
ケース6 有形力に近い行為が繰り返されると、どこから危険度が一気に上がるのか
一回でも危険だが、反復すると現場のリスクは急激に高まる
- 何度も机を叩く
- 何度も詰め寄る
- 押す、ぶつかる行為を繰り返す
一度よりも反復の方が現場を強く萎縮させるのは事実です。
しかし、殴る、蹴る、胸ぐらをつかむ、つばを吐くなどの行為は、繰り返しを待つ必要はありません。
1回で迅速な危機対応に切り替える必要があります。
ただし、机や壁を叩く行為については、状況によってはまず丁寧な注意を行う必要がある場合もあります。
このあたりは、行為の危険性と現場の状況を見て判断する必要があります。
この段階では、苦情対応ではなく危機対応に完全に切り替えるべきである
- 単独対応は避ける
- 管理者へ即時報告
- 記録・証拠保全
- 必要時の警察通報
この切替基準を会社が持っておくことが重要です。
行為の種別ごとの対応フローがあれば、現場での混乱は避けられます。
現場で見るべきポイント
- 一回限りか、反復継続か
- 人的・物的危険が増していないか
- 従業員が通常業務を継続できるか
- その場で離隔・退避が必要か
この段階では、接客対応というよりも、安全管理の視点が前に出ます。
刑法上の問題になり得るかを現場で考える視点
身体的な攻撃や有形力に近い行為では、現場で罪名を確定させる必要まではありません。
ただし、どのような要素が出ていれば、通常の苦情対応を超え、危機対応に切り替えるべきかは見ておく必要があります。
その際には、次の3つの視点が重要になります。
① 身体接触や物理的危険があるか
- 殴る、蹴る、叩くなどの直接的な接触があったか
- 胸ぐらをつかむ、押す、わざとぶつかるといった行為があったか
- 物を投げつける、机を叩く、つばを吐きかけるなどの危険行為があったか
- 実際にけがをしたかどうかにかかわらず、身体に向けた有形力の行使があったか
② 自社の従業員や担当者の自由な行動を妨げていないか
- 従業員がその場から離れられない状態になっていないか
- 退路をふさがれていないか
- 複数人で取り囲まれていないか
- 帰ろう、移動しようとしてもできない状況になっていないか
③ 現場の安全と通常業務にどの程度影響が出ているか
- 従業員が萎縮し、通常どおり対応できなくなっていないか
- 他のお客様に危険や不安が及んでいないか
- レジ、窓口、受付などの通常業務が止まっていないか
- その場で上司、責任者、警察への連絡を検討すべき程度の支障が出ていないか
この3点を見れば、かなり整理しやすくなります。
現場対応のポイント
① まずは従業員保護と安全確保を優先する
- この類型では、お客様対応より安全優先になる場面がある
- 無理に一人で対応させない
- 距離をとる、複数対応にする、応援を呼ぶ
ここは非常に重要です。
①②の記事と違い、この類型では「まず安全」が前に出ます。
② 記録・録画・目撃者確保を急ぐ
- いつ
- どこで
- 誰が
- 何をしたか
- 監視カメラや録音の有無
- 目撃者の確保
後の組織判断や警察相談に重要になります。
その場では混乱していても、できる限り事実を残す必要があります。
記録や証拠の見方については、
→ハラスメントで「証拠がない」と諦める前に。元刑事が教える、事実を積み上げ立証するための調査設計
も参考になります。
③ 現場判断だけで抱え込まない
- 上司・責任者へ即時共有
- 本部・管理部門との連携
- 必要時の警察通報
指針でも、暴行・傷害・脅迫等については警察通報が対処例として挙げられています。
ですので、この類型では現場判断だけで抱え込まないことが重要です。
まとめ|身体的な攻撃や有形力に近い行為は、安全の問題として線を引く
この記事のまとめ
- 身体的な攻撃や有形力に近い行為は、指針でも典型例とされている
- 苦情に理由があっても、身体接触や危険行為まで許されるわけではない
- 内容や状況によっては、暴行、傷害、監禁などの問題になり得る
- 現場では、接客対応よりも従業員保護と安全確保を優先すべき場面がある
次回は、カスハラ対策の社内フロー・役割分担・記録の残し方など、体制整備の視点を整理します。
カスハラ対策に不安がある場合
カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
シールド社会保険労務士事務所では、カスハラを含む不祥事・危機対応について、初動対応の整理や社内フロー整備を支援しています。
無料チェックシートについて
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