ハラスメント認定できないとき|グレー事案の判断と会社対応

ハラスメント調査を行っても、会社としてハラスメントを認定できない場合があります。
しかし、認定できないからといって、会社が何もしなくてよいわけではありません。
会社が行うべきことは、認定できる事実と認定できない事実を分けたうえで、相談者の就業環境への配慮、管理職の指導方法の見直し、配置や連絡方法の調整、再発防止などを検討することです。
一方で、認定できていない事実を前提として、相手方へ懲戒処分や事実上の不利益を与えることにも注意が必要です。
ハラスメントを認定できない事案では、
- 認定できないから何もしない
- 認定できないのに処分する
という両極端を避けなければなりません。
この記事では、証拠や供述が十分でないグレー事案について、会社がどのように判断し、その後の職場対応につなげるべきかを整理します。
ハラスメントに該当するかどうかを判断する際の、業務上の必要性、言動の相当性、就業環境への影響という基本的な判断軸については、
ハラスメント認定の基本|会社が確認すべき3つの判断軸
で詳しく解説しています。
ハラスメントを認定できない場合の会社対応
認定できない場合に検討する主な対応は、次のとおりです。
| 対応項目 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 調査結果の整理 | 認定できた事実、認定できない事実、判断理由を記録する | 全部かゼロかで整理しない |
| 相談者への説明 | 調査を行ったこと、認定に至らなかった理由、今後の配慮を伝える | 申告内容を否定する表現を避ける |
| 相手方への説明 | 認定には至らなかったこと、必要に応じて言動改善を伝える | 「何も問題なかった」と誤解させない |
| 就業環境への配慮 | 接触方法、報告ルート、席や業務分担などを調整する | 相談者だけに負担を負わせない |
| 管理職への指導 | 指導方法、言葉遣い、記録方法を見直す | 懲戒処分とは分けて行う |
| 配置上の対応 | 業務上必要な範囲で配置や担当を調整する | 実質的な制裁にならないようにする |
| 再発防止 | 研修、相談窓口、報告体制、社内ルールを見直す | 個人の問題だけで終わらせない |
| 経過確認 | 定期面談や職場状況の確認を行う | 一度対応して終わりにしない |
重要なのは、ハラスメントの認定と、職場環境を整えるための対応を分けて考えることです。
「認定できない」と「事実がなかった」は違う
最も重要なのは、ハラスメントを認定できないことと、申告された事実がなかったことは同じではないという点です。
認定できないとは、会社として事実と判断するだけの証拠や供述が十分ではなかったという意味です。
一方、事実がなかったとは、申告された行為が存在しなかったことを確認できた場合です。
たとえば、申告者と相手方の供述が食い違い、録音や目撃者などの客観的な資料がない場合、会社としてどちらか一方の供述を事実と認定できないことがあります。
この場合、
今回の調査では、申告された言動を会社として認定するには至らなかった
という整理になります。
これは、
申告された言動はなかった
という意味ではありません。
この二つを混同すると、相談者には「自分の話を否定された」と伝わり、相手方には「自分には何の問題もなかった」と伝わる可能性があります。
認定できない場合ほど、言葉を慎重に選ぶことが重要です。
認定できないことは会社の逃げなのか
「認定できない」という結論は、会社の逃げになる場合と、責任ある判断になる場合があります。
会社の逃げと見られやすい場合
次のような場合は、十分に調査しないまま判断を避けたと見られる可能性があります。
- 必要なヒアリングを行っていない
- 相手方から事情を聞いていない
- 目撃者や周辺関係者を確認していない
- メールやチャットなどの資料を確認していない
- 供述の一致点と相違点を整理していない
- 判断理由を記録していない
- 相談者へ十分な説明をしていない
確認すべきことを確認しないまま「証拠がないので認定できない」と結論づけるのは、適切な調査とはいえません。
責任ある判断になる場合
一方で、次のような手順を踏んだうえで認定できないのであれば、会社として責任ある判断といえます。
- 調査目的と範囲を整理した
- 申告者、相手方、必要な関係者から話を聞いた
- 客観資料を確認した
- 供述の一致点と食い違いを整理した
- 認定できる部分と認定できない部分を分けた
- 認定できない理由を記録した
- 職場環境上の対応を別に検討した
重要なのは、結論だけではありません。
どのような調査を行い、どのような理由で結論に至ったのかを説明できることです。
私の経験上、調査をし尽くしたことを説明することこそが申告者、関係者への誠意だと考えています。
証拠が十分でないハラスメント事案について、事実確認、供述評価、認定結果、処分判断までを一連の流れで確認したい場合は、
ハラスメントで証拠がない場合の会社対応|事実確認・供述評価・処分判断の進め方
で整理しています。
グレー事案が生じる主な理由
ハラスメント調査では、次のような理由から明確な事実認定が難しくなることがあります。
直接証拠がない
録音、映像、メールなどの直接的な資料が残っていない場合です。
ただし、直接証拠がないからといって、直ちに調査を終了するべきではありません。
前後のメール、勤怠記録、相談記録、行動の変化、周辺関係者の供述など、他の資料を組み合わせて確認します。
録音や映像がない場合に、会社がどの資料を確認し、供述や周辺事実をどのように評価するかについては、
「証拠がない」で止めないハラスメント調査|会社が確認すべき資料と進め方
も参考にしてください。
申告者と相手方の供述が食い違う
ハラスメント事案では、同じ出来事について説明が食い違うことがあります。
その場合は、どちらが正しいかを感覚で決めるのではなく、
- 供述の一貫性
- 内容の具体性
- 前後の経緯との整合性
- 客観資料との一致
- 他の関係者の供述
- 本人に不利な内容も説明しているか
などを確認します。
申告者と相手方の供述が食い違う場合に、一貫性、具体性、合理性、客観資料との整合性を確認する方法については、
供述が食い違うハラスメント調査|信用性と事実認定の判断方法
で詳しく解説しています。
一部の事実しか確認できない
申告された複数の出来事のうち、一部は認定できるものの、すべてを認定できない場合があります。
たとえば、
- 面談が行われたことは確認できる
- 強い指導があったことも確認できる
- しかし、正確な発言内容や声の大きさは確認できない
というケースです。
この場合は、すべて認定するか、すべて否定するかではなく、認定できる範囲を明確にします。
事実は確認できるが評価が分かれる
言動自体は確認できても、それがハラスメントに当たるかの評価が難しい場合があります。
- 業務上の必要性があったのか
- 指導方法が相当な範囲だったのか
- 就業環境へどの程度影響したのか
こうした点を整理した結果、問題のある言動ではあるものの、ハラスメントと明確に認定するには至らない場合もあります。
認定できない場合に分けて考えるべきこと
事実認定と措置は別である
事実認定とは、何が起きたのかを会社として整理することです。
措置とは、認定した事実や職場環境上の課題を踏まえて、会社として何を行うかという判断です。
ハラスメントを認定できない場合、相手方への懲戒処分は慎重に考える必要があります。
一方で、職場環境を整えるため、次のような対応を検討できます。
- 管理職への指導
- 指導方法の見直し
- ハラスメント研修
- 業務上の連絡方法の変更
- 報告ルートの整理
- 相談窓口の再周知
- 定期的な面談
これらは、認定できない事実を前提として相手方を処分するものではありません。
職場環境上の課題を改善するための措置です。
証拠、供述、認定できる事実、認定できない事実、処分判断を分けて整理する基本については、
事実認定の基本|証拠・供述・処分判断の整理方法
で詳しく解説しています。
違法性と職場環境上の課題は別である
ハラスメントと認定できない場合でも、職場環境上の問題が残ることがあります。
たとえば、
- 管理職の言葉遣いが強い
- 指導内容が十分に説明されていない
- 指導記録が残っていない
- 部下が相談しにくい状態になっている
- 当事者間の関係が悪化している
- 周囲に噂が広がっている
という問題です。
会社は、ハラスメントに該当するかどうかだけでなく、従業員が安心して働ける状態かという観点からも対応を検討する必要があります。
個人処分と組織的措置は別である
認定できない事実を理由に、相手方へ懲戒処分や降格などを行うことには注意が必要です。
一方で、組織全体を対象とした研修、相談体制の整備、管理職教育、指導記録の導入などは検討できます。
個人への責任追及と、組織の改善を混同しないことが重要です。
相談者への説明
相談者へ「ハラスメントとは認定できませんでした」とだけ伝えると、申告内容を否定されたと受け取られる可能性があります。
説明するときは、次の点を整理します。
- 会社として調査を行ったこと
- どの範囲でヒアリングや資料確認を行ったか
- 確認できた事実
- 確認できなかった事実
- 認定に至らなかった理由
- 今後行う配慮や再発防止
説明例としては、次のような内容が考えられます。
今回の申告について、関係者へのヒアリングと資料確認を行いました。
一部の出来事は確認できましたが、問題となった発言の具体的な内容については供述が食い違い、会社として認定するだけの資料を確認できませんでした。
そのため、今回はハラスメントとして認定するには至りませんでした。
ただし、申告内容を否定するものではなく、職場環境上の課題については必要な対応を行います。
相手方の個人情報や処分内容を、相談者へすべて伝える必要はありません。
ただし、会社が申告を軽視せず、必要な調査と対応を行ったことは説明する必要があります。
相手方への説明
相手方へは、認定できなかったことを伝えるだけでは不十分な場合があります。
「ハラスメントではなかった」
「何も問題はなかった」
という伝え方をすると、今後も同じ指導方法を続けてよいと誤解される可能性があります。
必要に応じて、次のように説明します。
今回の調査では、ハラスメントとして認定するには至りませんでした。
一方で、指導時の言葉遣いや説明方法については、相手に強い不安を与える可能性があります。
今後は、指導内容と業務上の必要性を明確にし、感情的な表現を避けてください。
これは、ハラスメントを認定したうえでの懲戒処分ではありません。
職場環境を整えるための注意や指導として行います。
管理職がハラスメントを過度に恐れず、業務上必要な指導を適切に行うための判断基準については、
ハラスメント判断で迷う管理職へ|会社が整えるべき判断基準
も参考にしてください。
認定できない場合の配置・就業上の配慮
当事者間の関係が悪化している場合は、就業上の配慮を検討することがあります。
検討できる対応
- 直接の連絡を減らす
- 連絡をメールやチャットで残す
- 上司や人事担当者を経由して連絡する
- 面談時に第三者を同席させる
- 席や勤務時間を一時的に調整する
- 業務分担を見直す
- 定期面談を行う
ただし、認定できない事案で配置転換などを行う場合は、その目的と必要性を明確にする必要があります。
特に、相談者だけを異動させると、
「相談したことで不利益を受けた」
と受け取られる可能性があります。
誰を動かすかを先に決めるのではなく、業務上の必要性、当事者への負担、職場全体への影響を踏まえて検討します。
また、相手方への配置変更も、事実上の懲戒処分にならないよう注意が必要です。
再発防止で確認すべきこと
ハラスメントを認定できない場合でも、次の問題が確認されることがあります。
- 管理職が指導方法を学んでいない
- 指導内容や面談記録が残っていない
- 相談窓口が周知されていない
- 相談を受けた管理職が初動に迷っている
- 部署内のコミュニケーションが不足している
- 感情的な指導が許容されている
- 問題発生時の報告ルートが曖昧である
これらは、ハラスメントの認定とは別に改善すべき組織上の課題です。
ハラスメント事案後に、管理職教育、相談体制、報告ルート、組織運用を見直す方法については、
ハラスメント再発防止の進め方|管理職教育と組織体制の見直し
で詳しく解説しています。
再発防止策の例
| 課題 | 主な対応 |
|---|---|
| 指導方法が属人的 | 管理職研修、指導事例の共有 |
| 面談記録がない | 面談・指導記録の様式を整備 |
| 相談が遅れる | 相談窓口と報告ルートを再周知 |
| 強い言葉が常態化 | 職場ルールや行動基準を明確化 |
| 当事者間の関係悪化 | 定期面談、連絡方法の調整 |
| 管理職が判断に迷う | 人事・総務への相談基準を整備 |
再発防止は、相手方を処罰するためのものではありません。
同じような申告や職場トラブルが起きにくい組織をつくるための対応です。
ハラスメントを認定できない場合の実務対応
1.調査経過を確認する
最初に、必要な調査を行ったかを確認します。
- 申告者から具体的な内容を聞いたか
- 相手方へ弁明の機会を与えたか
- 目撃者や周辺関係者を確認したか
- メールやチャットを確認したか
- 過去の相談記録を確認したか
- 必要な再ヒアリングを行ったか
確認が不足している場合は、結論を出す前に追加調査を検討します。
申告者と相手方の供述が食い違う場合に、一貫性、具体性、合理性、客観資料との整合性を確認する方法については、
供述が食い違うハラスメント調査|信用性と事実認定の判断方法
で詳しく解説しています。
2.認定できる事実を整理する
認定できない事案でも、すべての事実が不明とは限りません。
たとえば、
- 面談が行われた
- 指導があった
- 一定の発言があった
- 相談者が直後に第三者へ相談している
- 相手方が一部の行為を認めている
という事実は確認できる場合があります。
まず、認定できる部分を整理します。
3.認定できない事実と理由を整理する
次に、認定できなかった事実を整理します。
- 発言の正確な文言
- 声の大きさ
- 繰り返しの回数
- 当時の周囲の状況
- 就業環境への影響
- 相手方の意図
そして、なぜ認定できないのかを記録します。
単に「証拠不足」とするのではなく、
- 供述が食い違っている
- 客観資料が残っていない
- 目撃者が発言内容までは聞いていない
- 発生から時間が経過している
といった理由を具体的に残します。
4.相談者と相手方への説明を決める
同じ結論でも、相談者と相手方では説明する内容が異なります。
相談者には、申告を軽視していないことと、今後の配慮を伝えます。
相手方には、認定には至らなかったことと、必要に応じて言動改善を求めます。
説明する人、伝える範囲、記録方法も事前に決めておきます。
5.配置配慮と再発防止を検討する
当事者間の接触、連絡方法、業務分担、指導体制などを確認します。
調整が必要な場合は、認定できない事実ではなく、
- 現在の職場関係
- 業務運営上の必要性
- 従業員の就業環境
- 再発防止の必要性
を根拠として行います。
6.判断理由を記録する
最後に、会社の判断を記録します。
- 調査した範囲
- 確認した資料
- 認定できた事実
- 認定できなかった事実
- 認定できなかった理由
- 相談者と相手方への説明
- 配置や就業上の配慮
- 再発防止策
- 今後の経過確認
認定できない事案ほど、判断過程の記録が重要です。
ハラスメントを認定できない場合のよくある失敗
認定できないから何もしない
「ハラスメントとは認定できなかったので対応終了」とすると、職場環境上の問題が残る可能性があります。
認定とは別に、配置配慮、管理職指導、再発防止を検討します。
認定できないのに処分する
相談者への配慮や社内への姿勢を示すために、相手方へ重い不利益を与えることは適切ではありません。
個人処分は、認定できた事実に基づいて判断します。
相談者に結論だけ伝える
認定に至らなかった理由や、今後の対応を説明しないと、相談者の不信感が残ります。
調査の範囲と会社として行う配慮を、可能な範囲で説明します。
相手方へ「問題なし」と伝える
認定できないことと、指導方法に改善点がないことは同じではありません。
必要に応じて、今後の言動や指導方法について注意を促します。
配置転換だけで解決する
当事者を離せば一時的に問題が収まる場合があります。
しかし、管理職の指導方法や相談体制に問題があれば、別の部署でも同じ問題が起こります。
配置調整と再発防止をセットで考えることが必要です。
グレー事案ほど会社の判断力が問われる
明確な録音や映像がある事案よりも、証拠や供述が十分でないグレー事案の方が、会社の判断は難しくなります。
しかし、グレーであること自体が問題なのではありません。
問題なのは、グレーであることを理由に調査や判断を止めてしまうことです。
会社に求められるのは、無理に白黒をつけることではありません。
- どこまで確認できたか
- どこから先は確認できないか
- 認定できない理由は何か
- 職場環境上の課題は何か
- どの対応なら合理的か
を整理することです。
グレー事案ほど、会社の調査力、記録力、説明力が問われます。
まとめ
ハラスメント調査を行っても、会社として認定できない場合があります。
しかし、認定できないからといって、何もしなくてよいわけではありません。
会社は、
- 必要な調査を行ったか確認する
- 認定できる事実と認定できない事実を分ける
- 認定できない理由を記録する
- 相談者と相手方への説明を整理する
- 配置や連絡方法などの就業上の配慮を検討する
- 管理職教育や相談体制などの再発防止を行う
という順番で対応します。
認定できないことと、事実がなかったことは同じではありません。
また、事実認定と職場環境上の措置も別です。
認定できない事案で重要なのは、無理に白黒をつけることではなく、確認できた範囲と判断理由を明確にし、必要な配慮と再発防止につなげることです。
ハラスメントのグレー事案で判断に迷う場合
ハラスメントのグレー事案では、社内だけで判断しにくい場面があります。
特に、次のような場合は、早めに判断過程を整理しておくことが重要です。
調査をしてもハラスメントと認定できるか迷う場合。
申告者と相手方の供述が食い違っている場合。
証拠が少なく、認定不能とすべきか迷う場合。
相談者や相手方への説明に迷う場合。
認定できない場合の組織的措置に迷う場合。
懲戒処分ではなく職場環境上の対応を検討したい場合。
調査記録や判断理由の残し方に不安がある場合。
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