カスハラ対応で警察に相談するのはどんな場合か|通報判断の基準を整理する

カスハラ対応で警察に相談すべきかどうかは、現場で判断に迷いやすい問題です。
すべての苦情を警察対応にする必要はありません。
一方で、暴力、脅し、退路妨害、居座りなどが発生しているにもかかわらず、「お客様への対応だから」と現場だけで抱え込むことも適切ではありません。
警察への相談や通報を判断するときに重要なのは、相手をカスハラだと決めつけることでも、現場担当者が犯罪名を判断することでもありません。
カスハラの基本的な定義や、正当なクレームとの違いについては、
カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント
で整理しています。
確認すべきなのは、
- 現在進行形の危険があるか
- 従業員や他の顧客の安全を確保できるか
- 暴力、脅し、退去拒否などの具体的な行為があるか
- 通常業務を続けられない状態になっているか
- 会社だけで対応できる範囲を超えていないか
という点です。
この記事では、カスハラ対応で警察への相談や110番通報を検討する場面と、現場・管理職・会社本部の役割を整理します。
警察相談を検討する主な場面
| 相手の行為 | 主な危険・影響 | 基本的な対応 |
|---|---|---|
| 殴る、蹴る、つかむ、押す | 身体への危険 | 安全を確保し、危険が続く場合は110番 |
| 物を投げる、設備を壊す | けがや物損のおそれ | 周囲を退避させ、必要に応じて110番 |
| 「殺す」「ただでは済まさない」などの発言 | 生命・身体への脅し | 発言と状況を記録し、緊急性に応じて通報・相談 |
| 出入口をふさぐ、取り囲む | 退避困難、身体拘束 | その場から離れられなければ110番を検討 |
| 退去を求めても居座る | 店舗・事務所の占有、業務妨害 | 警告後も継続する場合は通報・相談 |
| 長時間にわたり対応を強要する | 従業員の拘束、通常業務の停止 | 対応終了を告げ、継続する場合は警察相談を検討 |
| 繰り返し来店・連絡する | 従業員の不安、業務への継続的影響 | 記録を整理し、警察署や#9110へ相談 |
| 個人情報や顔写真を公開して脅す | 従業員への危険、名誉・信用への影響 | 投稿を保存し、会社で警察・弁護士相談を検討 |
この表は、すべてのケースで機械的に警察へ通報することを示すものではありません。
同じ発言や行為でも、その場の状況、相手の態様、繰り返しの有無、従業員が退避できるかなどによって危険性は変わります。
ただし、身体への危険がある場合は、通常の接客対応よりも安全確保を優先します。
警察への「通報」と「相談」を分けて考える
カスハラ対応では、110番通報と、警察署などへの事後的な相談を分けて考える必要があります。
現在進行形の危険がある場合は110番通報
110番は、事件や事故など緊急性がある場合の通報手段です。
たとえば、次のような場面です。
- 暴力を振るわれている
- 物を投げている
- 相手が凶器になり得る物を持っている
- 出入口をふさがれ、従業員が逃げられない
- 退去を求めても居座り、安全確保が難しい
- 他の顧客にも危険が及んでいる
- 設備や商品を壊し続けている
このような場面では、上司や本部の判断を待つより、まず従業員や周囲の安全を確保する必要があります。
緊急時に現場担当者が自ら110番できることを、会社のルールとして明確にしておくことが重要です。
緊急性が低い場合は警察署や#9110へ相談する
その場の危険は収まっているものの、今後の対応に不安がある場合や、被害届などについて助言を求めたい場合は、最寄りの警察署や警察相談専用電話「#9110」への相談を検討します。
たとえば、次のような場面です。
- 脅しと受け取れる発言が繰り返されている
- 同じ人物による来店や電話が続いている
- 従業員の個人情報がSNSに投稿された
- 店舗への再訪が予告されている
- 退去要求後の居座りが繰り返されている
- すでに暴力や物損が発生した
- 被害届を出すべきか迷っている
- 次回来店時の対応について助言を受けたい
警察相談では、相談内容だけでなく、相手の発言や行為を裏付ける記録や証拠を整理しておくことが大切です。
通常対応・カスハラ対応・警察対応を分ける
最初からすべての苦情をカスハラや警察対応として扱う必要はありません。
対応は、次の順番で考えます。
| 段階 | 主な対応 |
|---|---|
| 通常のお客様対応 | 事実を確認し、必要な説明や謝罪を行う |
| カスハラ対応 | 暴言や不当要求に警告し、複数名対応や窓口変更を行う |
| 警察相談・通報 | 身体的危険、脅し、退去拒否などがある場合に検討する |
商品やサービスに問題がある場合は、まず必要な説明や対応を行います。
しかし、正当な苦情から始まった場合でも、暴言、威圧、長時間拘束、身体的攻撃などに発展すれば、通常対応のまま抱え込むべきではありません。
会社として、どの言動が出た段階でカスハラ対応に切り替え、どの段階で警察との連携を検討するのかを決めておくことが重要です。
カスハラの基本的な定義や、正当なクレームとの違いについては、
カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント
で整理しています。
現場判断と会社判断を分ける
警察対応について、すべてを現場担当者だけに判断させるべきではありません。
一方で、緊急時まで上司の承認を待たせることも危険です。
現場が判断すること
現場では、主に安全と緊急性を確認します。
- 暴力や危険な行為があるか
- 従業員がその場から離れられるか
- 他の顧客にも危険があるか
- 応援を呼べるか
- 110番を待つ間、安全な場所へ退避できるか
現に危険が迫っている場合は、現場で110番通報を判断できるようにします。
カスハラ発生直後の声掛け、責任者への報告、記録、安全確保の基本については、
カスハラ発生時の初動対応|最初の一言・記録・報告で会社の対応は変わる
も参考にしてください。
管理職が判断すること
管理職は、通常対応からカスハラ対応へ切り替える判断を行います。
- 責任者対応へ変更する
- 複数名で対応する
- 暴言等をやめるよう警告する
- 要求に応じられないことを説明する
- 対応終了や退去を求める
- 本部や警備担当者へ連絡する
管理職には、現場担当者を相手の前に残したままにせず、自ら対応を引き取る役割があります。
会社本部が判断すること
会社本部や管理部門は、事後対応や継続的な対応方針を決めます。
- 警察署へ相談するか
- 被害届等を検討するか
- 今後の窓口を限定するか
- 対応記録をどこまで共有するか
- 弁護士など外部専門家へ相談するか
- 再来店時の対応方針をどうするか
- 従業員へのフォローをどうするか
このように役割を分けることで、現場が危険を抱え込みにくくなります。
ケース1 身体的な攻撃や危険行為がある場合
殴る、蹴る、押す、胸ぐらをつかむなどの身体的な攻撃がある場合は、安全確保を優先します。
けががない場合でも、身体へ直接力を加える行為は軽視できません。
また、次のような行為も危険性があります。
- 商品や備品を投げる
- カウンターを激しく叩く
- つばを吐く
- わざと身体をぶつける
- 物を壊そうとする
- 凶器になり得る物を取り出す
現場では、その行為がどの犯罪に当たるかを判断する必要はありません。
確認するのは、
- 危険が続いているか
- 従業員や他の顧客を退避させられるか
- けが人がいるか
- 防犯カメラや目撃者がいるか
- 110番通報が必要な状況か
という点です。
身体的な攻撃や危険行為への具体的な対応については、
「カスハラで身体的攻撃・危険行為を受けた場合の会社対応|現場判断と警察相談のポイント」
で詳しく整理します。
ケース2 暴言や脅しで危険が高まっている場合
大声や強い口調だけで、直ちに警察対応になるとは限りません。
しかし、発言内容や周囲の状況によっては、警察相談を検討すべき場合があります。
たとえば、
「殺すぞ」
「家を調べる」
「ただで済むと思うな」
「店を潰してやる」
「家族にも何が起こるか分からない」
といった発言です。
判断するときは、言葉だけを切り取るのではなく、次の点を確認します。
- どのような口調や態度で発言したか
- 同じ発言を何回繰り返したか
- 相手が従業員へ近づいたか
- 従業員の氏名や住所を知っているか
- 暴力や物損を伴っているか
- 再来店や待ち伏せを示唆しているか
暴言や威圧を受けた場合の警告、記録、責任者対応については、
「カスハラで暴言・侮辱・威圧を受けた場合の会社対応|現場判断と記録のポイント」
で詳しく解説します。
ケース3 退路をふさぐ、取り囲む場合
身体的な接触がなくても、従業員がその場から離れられない状態は危険です。
- 出入口の前に立つ
- 複数人で従業員を囲む
- 個室から出さない
- 車両の前に立つ
- エレベーターや通路をふさぐ
- 従業員の後を追い続ける
こうした状況では、苦情内容の確認よりも、従業員をその場から離すことを優先します。
従業員が退避できず、現在進行形の危険がある場合は、110番通報を検討します。
ケース4 居座りや長時間拘束が続く場合
顧客がすぐに帰らないことだけで、直ちに警察対応になるわけではありません。
しかし、会社として必要な説明を行い、対応終了や退去を明確に伝えた後も居座り続ける場合は、通常の苦情対応とは異なる段階に入ります。
電話、面談、来店対応を終了する際の警告方法や判断基準については、
カスハラ対応を打ち切る判断基準|電話・面談・来店対応を終了する場面
で詳しく解説しています。
確認すべきなのは、
- 会社として必要な説明を行ったか
- 対応終了を明確に伝えたか
- 退去を求めたか
- 退去要求を何回行ったか
- どの程度の時間、居座っているか
- 他の顧客や業務に影響が出ているか
- 相手が興奮し、危険が高まっていないか
という点です。
電話の場合も、同じ要求を長時間繰り返し、終話を告げても電話を切らせない、繰り返し電話をかけ続けるといった行為は、業務への影響を記録しておく必要があります。
繰り返し要求、居座り、長時間拘束への対応については、
「カスハラで繰り返し要求・居座り・長時間拘束を受けた場合の会社対応|現場判断と対応打切りのポイント」
で詳しく解説します。
ケース5 SNS投稿や個人情報の公開がある場合
SNSや口コミサイトへの投稿は、内容だけを理由に直ちに警察対応とするものではありません。
しかし、次のような場合は、従業員保護の観点から会社として対応を検討する必要があります。
- 従業員の氏名や顔写真を無断で公開する
- 住所や家族に関する情報を書き込む
- 虚偽の情報を繰り返し投稿する
- 投稿を削除する条件として金銭や特別対応を要求する
- 従業員への危害を示唆する
- 多数の人に攻撃を呼びかける
投稿は、削除や編集をされる可能性があります。
URL、投稿日時、アカウント名、投稿画面、前後のやり取りを保存したうえで、警察、弁護士、サイト運営者への相談を検討します。
警察相談の判断で確認する3つの視点
1.現在進行形の危険があるか
- 暴力が続いている
- 退路をふさがれている
- 物を壊している
- 他の顧客にも危険がある
- 従業員が退避できない
このような場合は、安全確保と110番通報の優先度が高くなります。
2.具体的にどのような行為があったか
「怖かった」「危険な人だった」という評価だけではなく、
- 何と言ったか
- 何をしたか
- 何回繰り返したか
- どの程度続いたか
- 誰が見ていたか
- どの業務が止まったか
を整理します。
現場が罪名を確定する必要はありません。
具体的な行為を記録し、その行為を警察へ説明できる状態にすることが重要です。
3.会社だけで対応できる範囲を超えていないか
- 現場だけでは安全を確保できない
- 警告しても行為が止まらない
- 同じ人物による行為が繰り返されている
- 従業員の就業に影響が出ている
- 再来店や報復のおそれがある
- 他の顧客や取引先にも影響が出ている
このような場合は、社内だけで抱え込まず、警察相談を選択肢に入れます。
警察へ相談するときに準備するもの
警察へ相談するときは、会社として次の資料を整理します。
| 資料 | 主な内容 |
|---|---|
| 対応記録 | 日時、場所、相手の要求、具体的な言動 |
| 録音・映像 | 電話録音、防犯カメラ、スマートフォン映像 |
| メール・SNS | メッセージ、投稿、アカウント情報、URL |
| 目撃者情報 | 氏名、所属、見聞きした内容 |
| 被害資料 | 診断書、破損品、修理見積書、写真 |
| 警告・退去要求 | いつ、誰が、何を伝えたか |
| 業務への影響 | 対応時間、停止した業務、他の顧客への影響 |
| 過去の記録 | 同一人物による過去の来店、電話、要求 |
警察へ相談したからといって、必ず事件として取り扱われるとは限りません。
それでも、会社として何が起きたのかを具体的に説明し、今後の対応について助言を受けるために、記録を整えておくことは重要です。
電話、面談、来店対応を終了する際の警告方法や判断基準については、
カスハラ対応を打ち切る判断基準|電話・面談・来店対応を終了する場面
で詳しく解説しています。
会社で通報・相談フローを決めておく
現場で迷わないためには、警察対応のフローを事前に決めておきます。
緊急時
- 従業員と他の顧客を退避させる
- 応援者や管理職を呼ぶ
- 必要に応じて現場から110番する
- 本部や責任者へ報告する
- 録画、目撃者、被害状況を確認する
緊急性が低い場合
- 対応記録と証拠を整理する
- 管理職・本部へ報告する
- 今後の接触や来店のおそれを確認する
- 警察署または#9110へ相談する
- 窓口の限定、複数名対応などを決める
会社のルールには、「警察へ連絡してよい」と書くだけでは足りません。
誰が、どの場面で、どこへ連絡するのかまで決めておく必要があります。
現場、管理職、本部の役割分担や、報告・エスカレーション体制の整え方については、
カスハラ対策はなぜ必要か|社内の役割分担と現場対応の基本
で整理しています。
警察相談をためらわせる会社の問題
「大ごとにしたくない」と現場へ我慢させる
会社が警察対応を過度に避けると、現場は危険な行為があっても報告しにくくなります。
その結果、
- 報告が遅れる
- 危険な対応が長引く
- 証拠が失われる
- 従業員が心身の不調を抱える
- 同じ顧客の行為が繰り返される
可能性があります。
警察へ相談するかどうかは会社が冷静に判断すべきですが、危険を感じた従業員の報告を軽く扱うべきではありません。
通報基準が決まっていない
基準がなければ、現場ごとに判断が変わります。
ある店舗では通報する一方、別の店舗では従業員に対応を続けさせるといった差が生じます。
会社として共通の基準を示したうえで、店舗の立地、業態、夜間勤務の有無などに応じて具体化することが重要です。
警察通報を含む現場判断の基準を、会社の対応フローやマニュアルに落とし込む方法については、
カスハラ対策マニュアルの作り方|現場で迷わない対応ルールを整える方法
もご覧ください。
警察への相談は従業員を守るための選択肢
警察へ相談することは、会社の対応が失敗したことを意味するものではありません。
会社が通常のお客様対応を行い、必要な説明や警告をしたとしても、暴力、脅し、退去拒否などは会社だけで安全に対応できない場合があります。
会社にできることには限界があります。
その限界を超えたときに、従業員や他の顧客を守るため、警察へ通報・相談することは正当な対応の一つです。
重要なのは、感情的に警察を呼ぶことでも、最後まで現場だけで耐えることでもありません。
危険性と緊急性を確認し、会社として説明できる基準に沿って判断することです。
まとめ
カスハラ対応で警察へ相談するかどうかは、相手への怒りや従業員の主観だけで決めるものではありません。
次の点を確認して判断します。
- 現在進行形の危険があるか
- 暴力、脅し、退路妨害、退去拒否などがあるか
- 従業員や他の顧客の安全を確保できるか
- 通常業務に重大な支障が出ているか
- 会社だけで対応できる範囲を超えていないか
現に危険がある場合は、110番通報を検討します。
緊急性は低いものの、今後の対応や被害届などについて助言が必要な場合は、警察署や#9110への相談を検討します。
また、現場、管理職、会社本部の役割を分け、緊急時には現場で安全確保と通報ができる体制を整えておくことが重要です。
警察への相談は、すべての苦情に対して行うものではありません。
しかし、身体的危険や犯罪に該当し得る行為がある場合に、従業員を守るための重要な選択肢となります。
カスハラ対応に不安がある方へ
カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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