カスハラ対応で警察に相談するのはどんな場合か|通報判断の基準を整理する

2026.06.04

カスハラ対応で警察に相談すべきかどうかは、現場で意外と迷いやすい問題です。
実際には、すべてを警察対応にするわけにはいきませんし、かといって、本来は警察への相談や通報を検討すべき場面まで、現場だけで抱え込んでしまう会社も少なくありません。

私は元刑事として、さまざまなトラブル事案を見てきましたが、問題が大きくなる場面には一定の共通点があると感じています。
それは、最初の段階で「これは単なる苦情なのか、それとも危険を伴う言動に変わっているのか」という線引きが曖昧なまま、対応が長引いてしまうことです。

特にカスハラでは、暴言や威圧、居座り、長時間拘束、身体的な攻撃などが、接客上のトラブルにとどまらず、法令違反に発展する場合があります。
しかし、現場担当者にその場で罪名まで判断させる必要はありません。現場で本当に必要なのは、どのような危険要素が出ているのかを見極め、どの段階で警察相談や通報判断に入るべきかを整理しておくことです。

本記事では、カスハラ対応で警察に相談するのはどのような場合か、110番通報と警察署相談の違いも含めて、会社として持っておきたい通報判断の基準を整理します。

カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いを先に整理したい方は、
「カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント」
を先にご覧ください。

目次

はじめに

厚生労働省は、犯罪に該当し得る言動について警察通報を対処例として示している

厚生労働省は、カスタマーハラスメント対策の義務化に伴う資料の中で、事業主があらかじめ定める対処内容の例として、「犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する」ことを示しています。
もっとも、これはすべての苦情を警察対応にする趣旨ではありません。あくまで、一線を超えた場合の対処手段として示しているものです。したがって、まずは会社として判断基準を持つことが重要になります。

「警察に相談するか」は、感情ではなく危険要素で判断する

警察に相談するかどうかは、単に「怖かったかどうか」だけで決めるものではありません。
何が起きたのかを整理する必要があります。警察に相談するという時点で、刑事事件に発展する可能性も否定できません。暴行、脅迫、退路妨害、居座り、業務妨害などに該当し得るかどうかを考えるにあたっては、内面が問題となる犯罪もありますが、基本的には行為の把握が重要です。

行為を整理することで、その行為がどのような犯罪に該当し得るかを警察が判断することになります。
したがって、現場では罪名の確定よりも、危険の把握、つまり行為の把握が重要になります。

真摯なお客様対応 → カスハラ対応 → 警察相談・通報

最初からカスハラ対応や警察対応を前提にする必要はありません。
まずは通常のお客様対応を尽くすことです。そのうえで、お客様の行為がカスハラに該当するのか、場合によっては警察対応となる案件なのかを判断していくことになります。

したがって、身体的危険や犯罪に該当し得る言動があれば、通常対応の延長で抱え込まないことが重要です。
この順番を会社として共有しておく必要があります。厚生労働省も、対処内容の例として、本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐことを示しています。

通常対応からカスハラ対応へ切り替える考え方については、
「カスハラ【手段・態様編】正当な要望でもカスハラになるのはどんな場合か」
でも整理しています。

まず区別したいのは「110番通報」と「警察への相談」

その場で危険が続いているなら110番通報を検討する

  • 暴力
  • 物を投げる
  • 退路をふさぐ
  • 居座りが続き安全確保が難しい

このように、現に危険が迫っている場合、つまり現在進行形で危険がある場合は、その場の安全確保が優先となりますので、110番通報を検討すべき場面になります。
もっとも、常に画一的に判断する必要はありません。

例えば、筋肉質の男性客が大声を出しながら店員の腕をつかむ行為と、高齢女性が軽く店員の腕を叩く行為とでは、危険の程度や現場の受け止め方は当然異なります。
このように、指針を基礎にしつつも、各事業所でさらに具体的な判断基準を決めていく必要があります。

事後的な相談や助言を求める場面では警察相談もある

その場の危険は去っているが、明らかな法令違反が疑われるような場合や、被害届の提出や今後の対応を相談すべき案件である場合には、警察署への相談が問題になります。
このような場合には、警察へは記録や証拠を持って相談することが重要です。言い換えると、証拠化をしておく必要があるということです。

証拠がなければ警察が動きにくいのも事実です。
ですから、警察相談を想定するのであれば、事後の記録整理まで含めて考えておかなければなりません。

会社として「どの場面で110番、どの場面で警察署相談か」を決めておく

  • 現場判断で迷わないようにする
  • 役職ごとの報告先とあわせて決めておく
  • フローが曖昧だと現場が判断に悩む

フローが曖昧だと、現場が判断に悩むだけでなく、証拠収集も不完全になってしまう可能性があります。
したがって、会社として判断基準を決めておくことが重要です。

厚生労働省の資料でも、悪質事案への**警察との連携体制(通報体制など)**を整えることが、実務上の重要論点として挙げられています。

ケース1 身体的な攻撃や有形力の行使がある場合

殴る、蹴る、叩く、押す、胸ぐらをつかむ

身体接触がある場合は、けががなくても危険度が高いケースが多いです。
もちろん、先ほどお話ししたように、個々の場面の危険性には差があります。とはいえ、身体接触がある場合は、基本的には通常対応ではなく安全確保が優先になります。

物を投げる、つばを吐く、わざとぶつかる

直接当たっていなくても危険性があります。
内容や状況によっては、暴行に近い問題となり得ますので、ケースによっては暴行罪の問題になり得る場合があります。

この場面で見るべきポイント

  • その場で危険が続いているか
  • 従業員や他の客の安全が確保できないか
  • 監視カメラ、目撃者、受傷の有無を確認できるか
  • 危険が続いているなら110番通報を検討する

厚生労働省は、暴行・傷害・脅迫など、犯罪に該当し得る言動については警察へ通報することを対処例として示しています。

ケース2 脅しや威圧で危険が高まっている場合

「ただで済むと思うな」「どうなっても知らないぞ」などの発言

  • 相手に恐怖を与える
  • 単なる怒りの表現を超える場合がある
  • 内容と状況によっては警察相談を検討する余地がある

このような文言は、恐怖のあまり後の勤務に影響を与えることもあり得ます。
したがって、文言の内容や回数を踏まえて、警察相談を検討する余地があります。

取り囲む、退路をふさぐ、大声で威圧する

  • 身体的接触がなくても危険度が高い
  • 離脱困難や安全上の不安がある
  • 苦情対応より従業員保護を優先する場面があり得る

身体接触がないからといって軽視すべきではありません。
現場で働く従業員がその場から離れられない、または著しく萎縮しているのであれば、通常対応の延長で考えるべきではありません。

この場面で見るべきポイント

  • 危険が現在進行形か
  • 退避や応援が必要か
  • その場で通常業務が止まっていないか
  • 上司、本部、警察へ同時連携が必要か

これらを総合的に判断する必要があります。

ケース3 居座り・長時間拘束が続く場合

退去要求に応じない、長時間その場を占有する

すぐ帰らないこと自体が、直ちに違法とは限りません。
しかし、明確な退去要求後も居座り続ける場合は、別問題になることがあります。

店として説明すべきことを説明し、対応すべきことをした場合、お客様からすると店に滞在する理由がなくなります。
そうなると、正当な理由がないのに退去しないと見なされる場合があります。
このような場合は、通報判断の基準になり得ます。

電話を切らせない、執拗な連絡で業務が回らない

  • 現場担当者が拘束される
  • 組織としての通常業務が止まる

このような場合は、単なる問い合わせではなく、業務妨害の色が強くなる場合があります。
その場合は、お客様の電話の内容と、対応した従業員が本来すべき業務内容を整理しておきましょう。通常のお客様対応の範疇を超える威圧等により、どの業務が妨害されたかを整理する必要があります。

この場面で見るべきポイント

  • 退去要求や終話の有無
  • どの程度業務が止まっているか
  • 他の顧客対応に支障が出ているか
  • 緊急性が低くても警察署相談を検討すべき段階か

厚生労働省の企業マニュアルでも、複数名で対応し安全確保を優先し、状況に応じて弁護士や警察への通報等を検討することが対応例として示されています。

暴言・威圧、長時間拘束、身体的危険そのものの線引きについては、次の記事でも詳しく整理しています。
「カスハラ【ケース判断編①】暴言・侮辱・威圧はどこから許されなくなるのか」
「カスハラ【ケース判断編②】繰り返し要求・居座り・長時間拘束をどう判断するか」
「カスハラ【ケース判断編③】身体的な攻撃や有形力に近い行為はどこから危機対応になるのか」

ケース4 SNS投稿や口コミでの晒し、脅しがある場合

従業員個人の氏名・顔写真・個人情報を出す

単なる口コミ共有を超える場合があり、従業員保護の観点から看過できるものではありません。
このような場合は、記録保存と上席報告が必須になります。

投稿を使って謝罪や特別対応を迫る

  • オンライン上の圧力もカスハラに含まれる
  • 虚偽情報や名誉・信用毀損の問題になり得る
  • 投稿により他のお客様からの問い合わせ対応が必要になる場合は、業務妨害も視野に入れる必要がある

この場合は、単なる投稿か、圧力手段として使われているのかを見分ける必要があります。

この場面で見るべきポイント

  • 投稿内容は事実か、虚偽か
  • 会社か、個人か、どちらを狙っているか
  • 今も危険が続いているのか、事後対応段階か
  • サイト管理者対応、弁護士、警察のどこに先に相談するか

警察相談の判断で現場が押さえるべき3つの視点

① 現在進行形の危険があるか

  • 身体的危険
  • 退路妨害
  • 物損のおそれ
  • 他の客への危険

これらの場合は、110番通報の優先度が上がります。

② 犯罪に該当し得る要素があるか

  • 暴行
  • 傷害
  • 脅迫
  • 強要
  • 不退去
  • 監禁
  • 威力業務妨害

現場で罪名を断定する必要はありませんが、お客様の言動がどのようなものか、どのような要素があるかは押さえる必要があります。

③ 会社だけで収められる段階を超えていないか

  • 現場だけでは安全確保が難しい
  • 繰り返し発生している
  • 従業員の就業環境が明らかに害されている

このような場合は、社内対応だけで抱え込まず、警察相談を行うことも検討する必要があります。

現場であらかじめ決めておきたい通報フロー

誰が110番通報を判断するのか

通報するのは現場担当者か、管理職か、本部かを決めておく必要はあります。
ただし、緊急時は現場で即通報できるようにする必要があります。

誰が警察署へ相談するのか

管理職か、本部・管理部門か。法務や外部専門家と連携するのか。
会社として事後相談の窓口を決めておく必要があります。そして、そこに情報を集約します。

何を持って相談するのか

  • 記録
  • 録音・録画
  • メール、SNS投稿
  • 目撃者情報
  • 受傷の有無

いくら会社で情報を整理したとしても、それを裏付けるものがなければ、警察に相談しても動いてもらいにくいのは事実です。
どのような情報があり、その情報に対してどのような証拠があるのかまで整理しておきましょう。

警察相談をためらわせる会社の問題

「大ごとにしたくない」が現場の抱え込みを招く

  • 現場が我慢する
  • 報告が遅れる
  • 危険がエスカレートする

「大ごとにしたくない」という考えは、上記のような行動に現れます。
ためらい、躊躇する。その積み重ねが対応を遅らせるのです。

「どこまでで通報するか」が決まっていない

  • 現場判断がぶれる
  • 責任の押しつけ合いになる
  • 従業員が守られない

基準が決まっていなければ、上記のような状態になります。
同じ会社でも支店や店舗ごとに客層等は異なるでしょうから、画一的に決め過ぎるのも問題です。
とはいえ、会社としての基準がなければ、各店舗ごとの基準も決められません。

警察相談は敗北ではなく、従業員保護の一手段である

通報=過剰対応と考えないことです。
警察への通報は、安全確保のための選択肢の一つです。会社独自でできることには限界があります。
ですから、やるべきことをやったうえで警察に委ねることも、大切な判断の一つです。
そのために、会社として正当性を持って判断できる体制が必要になります。

まとめ|警察相談は「感情」ではなく「危険要素」と「緊急性」で判断する

この記事のまとめ

  • すべての苦情を警察対応にするわけではない
  • ただし、犯罪に該当し得る言動は警察通報を検討すべき場面がある
  • 110番通報と警察署相談は分けて考える
  • 現場では危険要素、緊急性、業務への影響を見て判断する
  • 会社として通報基準とフローを決めておくことが重要である

警察相談の判断基準を実効的に機能させるには、会社として役割分担や対応フローを整えておくことが不可欠です。
体制整備の考え方については、
「カスハラ対策はなぜ必要か|社内の役割分担と現場対応の基本」
で整理しています。

カスハラ対応に不安がある方へ

カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
シールド社会保険労務士事務所では、カスハラを含む不祥事・危機対応について、初動対応の整理や社内フロー整備を支援しています。

無料チェックシートについて

弊所では自社のカスハラ対策の整備状況を簡単に確認できる
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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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