カスハラ対応で要求を断るときの伝え方|会社として線を引く実務対応

2026.06.23

カスハラ対応では、相手の話を聞き、会社側に不備があれば、必要な説明や謝罪、改善対応を行うことが重要です。

しかし、すべての要求に応じなければならないわけではありません。

  • 返金を求められる
  • 高額な補償を求められる
  • 担当者の処分を求められる
  • 土下座を求められる
  • 社長や役員を出すよう求められる
  • 同じ説明を何度も求められる
  • 営業時間外や休日の対応を求められる

このような場面で、会社としてどこまで対応し、どこから断るのかを曖昧にすると、現場担当者が追い込まれます。

カスハラ対応で大切なのは、相手を怒らせないために、すべての要求を受け入れることではありません。

  • 正当な苦情には誠実に対応する
  • 一方で、相当な範囲を超えた要求には、会社として明確に線を引く

この両方が必要です。

この記事では、断ってよい要求の判断基準と、現場で使える具体的な伝え方を整理します。

目次

カスハラ対応で断ってよい要求

会社側に一定の不備がある場合でも、次のような要求まで当然に受け入れる必要はありません。

要求の内容 断る判断のポイント 対応の方向性
高額な返金・補償 実際の損害や社内基準を大きく超えている 根拠を確認し、会社として回答する
土下座・過度な謝罪 問題解決ではなく、屈服や制裁を求めている 応じないことを明確に伝える
担当者の解雇・処分 人事上の判断に顧客が介入している 社内で判断する事項と説明する
社長・役員の対応 必要性がなく、特定の役職者を要求している 会社が指定する窓口で対応する
長時間の電話・面談 通常業務や従業員の就業環境に支障が出ている 対応時間を区切る
同じ要求の繰り返し すでに説明・回答を行っている 追加回答を行わないと伝える
営業時間外・休日対応 緊急性がなく、通常の対応範囲を超えている 対応可能な日時を案内する
SNS投稿を材料にした要求 投稿や拡散を示して特別対応を迫っている 投稿の有無にかかわらず基準どおり判断する
従業員個人への要求 本人からの謝罪、直接連絡、個人情報開示を求めている 会社窓口へ一本化する

要求を断る前に必要な確認を行い、会社としての対応範囲を整理することが重要です。

要求を断ることは不誠実な対応ではない

現場では、要求を断ることに抵抗を感じることがあります。

「断ると、さらに怒られるのではないか」
「SNSに書かれるのではないか」
「会社の対応が悪いと言われるのではないか」
「上司から穏便に済ませるよう言われるのではないか」

このような不安から、

「検討します」
「何とかします」
「上に伝えておきます」
「できるだけ対応します」

と答えてしまうことがあります。

しかし、曖昧な返答は、相手に「まだ交渉できる」「強く言えば要求が通る」と受け取られる可能性があります。

要求を断ること自体が不誠実なのではありません。

むしろ、次のような対応の方が問題です。

  • できないことを、できるように見せる
  • 事実確認前に約束する
  • その場を収めるためだけに特別対応する
  • 会社として判断すべきことを現場担当者に背負わせる
  • 担当者ごとに異なる回答をする

会社として対応できない要求には、丁寧に、明確に断る必要があります。

要求を断る前に確認すること

会社側に不備があるか

まず、商品、サービス、説明、従業員対応などに会社側の不備がなかったかを確認します。

会社側に不備がある場合は、その点について説明や謝罪、改善対応を行います。

ただし、会社側に不備があることと、顧客の要求をすべて受け入れることは別です。

たとえば、説明不足があった場合、その点について謝罪し、説明を補うことは必要です。

一方で、そのことを理由に高額な慰謝料、担当者の解雇、土下座まで求められても、当然に応じる必要はありません。

会社側に不備がある場合の謝罪範囲や、責任を必要以上に認めないための伝え方については、
カスハラ対応で謝罪すべき場面・謝罪してはいけない場面|会社の責任を広げないための実務対応
で詳しく整理しています。

相手が何を求めているのか

相手が怒っていることだけに目を向けず、具体的な要求を確認します。

使いやすい表現は、次のとおりです。

「ご要望の内容を確認させてください」

「会社として判断するため、具体的にどのような対応を求めておられるのか教えてください」

「返金、謝罪、書面回答のうち、どの対応を求めておられるのでしょうか」

「ご要望を整理したうえで、会社として回答いたします」

要求を確認することは、その要求を受け入れることではありません。

何を判断すべきかを明確にするための確認です。

要求に根拠があるか

要求の内容が分かったら、契約、社内基準、実際に生じた損害などに照らして、根拠を確認します。

たとえば、次の点です。

  • 契約や返品条件に基づく要求か
  • 実際に損害が発生しているか
  • 請求額に根拠があるか
  • 会社の不備との間に関係があるか
  • 感情的な制裁要求になっていないか
  • 社会通念上相当な範囲か

要求に根拠が確認できない場合は、その旨を会社として説明します。

現場担当者が判断できる内容か

次のような要求は、現場担当者がその場で回答すべきではありません。

  • 高額な返金や補償
  • 契約解除
  • 従業員の処分
  • 社長や役員の謝罪
  • 書面での正式回答
  • 法的責任を認める回答

このような場合は、次のように伝えます。

「私の立場で判断できる内容ではないため、会社として確認いたします」

「その場でお約束できる内容ではありません」

「上席に報告し、会社として回答いたします」

「正式な回答は、事実関係を確認した後にお伝えします」

現場担当者に判断を背負わせないことが重要です。

要求を断るときの基本的な伝え方

要求を断るときは、次の順番で伝えると整理しやすくなります。

  1. 相手の要望を確認する
  2. 会社として確認した内容を伝える
  3. 応じられないことを明確に伝える
  4. 対応できる範囲があれば示す
  5. それ以上の対応が難しい場合は区切る

基本形は、次のようになります。

「ご要望は確認いたしました。会社として事実関係を確認した結果、そのご要望には応じかねます。当社として対応できる範囲は、〇〇までとなります」

会社としての判断であることを伝える

担当者個人が断っているように見せないことが重要です。

使いやすい表現は、次のとおりです。

「会社として確認した結果、そのご要望には応じかねます」

「本件については、会社として追加対応を行わない判断です」

「当社の対応範囲としては、ここまでとなります」

「担当者個人の判断ではなく、会社としての回答です」

「本件に関する当社の回答は以上となります」

「無理です」「できません」だけで終わらせず、会社判断であることを明確にします。

できることとできないことを分ける

要求全体を否定するのではなく、対応できる範囲があれば示します。

「返金には応じかねますが、商品の状態確認は行います」

「金銭補償には応じかねますが、事実関係を確認したうえで書面回答を行います」

「担当者の処分をお約束することはできませんが、社内で事実確認は行います」

「長時間の電話対応はできませんが、今後はメールで回答いたします」

「訪問謝罪には応じかねますが、会社として文書で回答いたします」

会社として必要な対応は行う。
しかし、過大な要求には応じない。

この区別が重要です。

理由は簡潔に伝える

理由を長く説明しすぎると、言葉の一部を取り上げて、さらに議論が続くことがあります。

理由は簡潔に伝えます。

「当社の返金基準には該当しません」

「確認した事実関係から、追加の補償は行いません」

「従業員の処分は社内で判断する事項です」

「個人情報に関わるため、お答えできません」

「すでに必要な説明と対応を行っております」

一度説明した後は、同じ説明を何度も繰り返す必要はありません。

要求別|断るときの文言例

返金を求められた場合

事実確認前や返金条件に該当しない場合は、その場で返金を約束しません。

確認前の伝え方

「返金の可否については、商品の状態と事実関係を確認したうえで判断いたします」

「現時点では、返金をお約束することはできません」

「返金条件に該当するか、社内で確認いたします」

返金しない場合

「確認した結果、当社の返金基準には該当しないため、返金には応じかねます」

「すでにサービスの提供が完了しているため、返金は行いません」

「ご申告の内容と確認結果を踏まえましたが、返金対応は行わない判断です」

別の対応を示す場合

「返金には応じかねますが、商品の交換は可能です」

「返金ではなく、修理対応として承ります」

「返金はできませんが、改めてサービス内容をご説明いたします」

高額な金銭補償を求められた場合

「迷惑料を払え」
「慰謝料を払え」
「仕事を休んだ分を補償しろ」

と求められた場合、現場では判断しません。

確認段階

「金銭補償については、その場でお約束できません」

「損害の内容と根拠を確認したうえで、会社として判断いたします」

「請求内容を確認するため、根拠となる資料をご提示ください」

「ご請求については、書面で内容をお知らせください」

補償を断る場合

「確認した結果、当社として追加の金銭補償は行いません」

「ご請求内容と当社の対応との間に、補償を行う根拠は確認できませんでした」

「実際に確認できた損害を超える補償には応じかねます」

「迷惑料や慰謝料のお支払いには応じられません」

土下座を求められた場合

土下座は、必要な謝罪の範囲を超えた屈辱的な行為です。

「土下座には応じられません」

「会社として必要な謝罪は行いますが、土下座の要求には応じかねます」

「従業員に土下座をさせることはできません」

「謝罪方法は、会社として必要な範囲で判断いたします」

「その要求が続く場合は、これ以上の対応を継続できません」

短く、明確に断ることが重要です。要求に加えて暴言、人格否定、脅し、取り囲みなどがある場合の対応については、
カスハラで暴言・侮辱・威圧を受けたときの会社対応|判断基準と記録のポイント
も参考にしてください。

担当者本人からの謝罪を求められた場合

「担当者個人ではなく、会社として対応いたします」

「本人からの直接謝罪には応じかねます」

「今後の対応は管理者が行います」

「担当者個人への連絡や要求はお控えください」

「必要な説明と謝罪については、会社の責任者から行います」

担当者本人を再び相手の前に出すことが、適切とは限りません。

担当者の解雇・異動・処分を求められた場合

「従業員への指導や処分は、社内で判断する事項です」

「事実確認は行いますが、処分内容をお約束することはできません」

「従業員の人事上の取扱いについては、お答えできません」

「相手方のご要望に基づいて、従業員を処分することはありません」

「必要な社内対応は行いますが、詳細は開示いたしません」

「担当者を辞めさせろ」という要求に、会社が従う必要はありません。

社長・役員を出すよう求められた場合

「本件については、担当部署が会社を代表して対応いたします」

「責任者には報告しておりますが、社長が直接対応する予定はありません」

「社長や役員が対応するかどうかは、会社として判断します」

「窓口は当部署に一本化しております」

「役員への直接の連絡には対応いたしかねます」

相手が求める役職者を出すのではなく、会社が適切な窓口を決めます。

自宅や勤務先への訪問謝罪を求められた場合

「訪問による謝罪には応じかねます」

「会社としての回答は、電話または書面で行います」

「ご自宅への訪問は行いません」

「必要な説明は、当社が指定する方法で行います」

「営業時間外の訪問対応は行っておりません」

訪問謝罪は、相手の自宅で従業員が長時間拘束されるなどのリスクもあります。安易に約束すべきではありません。

営業時間外・休日対応を求められた場合

「対応は当社の営業時間内に限らせていただきます」

「休日の対応は行っておりません」

「次回の対応は、〇月〇日の営業時間内となります」

「緊急性が確認できないため、営業時間外の対応はできません」

「営業時間外の連絡には、翌営業日以降に回答いたします」

対応可能な時間を明確に示します。

長時間の電話・面談を求められた場合

時間を区切るとき

「本日の対応は、あと10分程度とさせていただきます」

「本日の面談は〇時までとなります」

「業務に支障が出ているため、これ以上の対応はできません」

「必要なご説明は行いましたので、本日の対応は終了いたします」

今後の方法を変えるとき

「今後は電話ではなく、メールでの対応とさせていただきます」

「ご質問は書面でお送りください」

「今後の連絡は、当社の指定窓口へお願いいたします」

「店舗への来訪ではなく、担当部署へご連絡ください」

同じ要求を繰り返された場合

「本件については、会社としてすでに回答しております」

「同じ内容について、追加の回答はありません」

「当社の判断は、先ほどお伝えしたとおりです」

「これ以上同じ内容での対応は困難です」

「同じご要求が続く場合は、対応を終了いたします」

「今後は、新たな事実や資料がある場合に限り確認いたします」

同じ説明を繰り返し続けることが、誠実な対応とは限りません。

SNSへの投稿を示唆された場合

「ご意見を投稿されるかどうかにかかわらず、当社は事実に基づいて判断します」

「SNSへの投稿を理由とした特別対応には応じかねます」

「投稿を示して金銭や特別対応を求めることには応じられません」

「事実と異なる内容が投稿された場合は、必要な対応を検討します」

「この発言を含め、対応経過は記録いたします」

「SNSに書くぞ」と言われても、それだけを理由に会社の対応基準を変えるべきではありません。

従業員の氏名・住所・連絡先を求められた場合

「従業員の個人情報はお伝えできません」

「担当者個人への直接連絡はお控えください」

「本件は会社の窓口で対応いたします」

「個人の連絡先や勤務情報は開示しておりません」

「従業員への連絡は、すべて当社を通してください」

従業員の個人情報を守ることは、会社の責任です。

文書で責任を認めるよう求められた場合

「事実確認前に責任を認める文書は作成できません」

「書面の内容については、会社として確認したうえで回答します」

「ご指定の文言で文書を作成することには応じられません」

「当社が確認できた事実の範囲で回答いたします」

「法的責任を認める内容については、その場で回答できません」

相手が作成した文書への署名も、その場では行わないことが基本です。

断った後も要求が続く場合

要求を明確に断っても、相手が納得せず、同じ要求を繰り返すことがあります。

この場合は、次のように段階を進めます。

1回目の注意

「会社としての回答はお伝えしたとおりです。同じ内容について追加の回答はありません」

2回目の警告

「同じ要求が続いており、通常業務に支障が出ています。これ以上続く場合は、対応を終了します」

対応終了

「先ほどお伝えしたとおり、これ以上の対応はできません。本日の対応を終了します」

「会社として必要な説明は終了しておりますので、電話を切らせていただきます」

「退去をお願いいたします。退去いただけない場合は、警察への連絡を検討します」

対応を打ち切る判断基準や場面別の伝え方については、
「カスハラ対応を打ち切る判断基準|電話・面談・来店対応を終了する場面」
で詳しく解説しています。

注意や警告を行っても同じ要求が続く場合の対応終了基準については、
カスハラ対応を打ち切る判断基準|電話・面談・来店対応を終了する場面
で詳しく解説しています。

断るときに避けるべき言葉

会社側に不備がある場合の謝罪範囲や、責任を必要以上に認めないための伝え方については、
カスハラ対応で謝罪すべき場面・謝罪してはいけない場面|会社の責任を広げないための実務対応
で詳しく整理しています。

「無理です」「知りません」

短く突き放すと、相手の反発を強めます。

代わりに、

「会社として、そのご要望には応じかねます」

「当社の対応範囲ではありません」

と伝えます。

「今回だけ特別に対応します」

強く要求すれば特別対応を受けられるという印象を与えます。

特別対応が必要な場合でも、現場担当者がその場で決めず、会社として理由と範囲を整理します。

「上に言っておきます」

「上司なら要求が通る」と期待を持たせる場合があります。

代わりに、

「上席へ報告し、会社として確認します」

「確認後、会社として回答します」

と伝えます。

「何とかします」

約束したと受け取られる可能性があります。

代わりに、

「対応の可否を確認します」

「その場ではお約束できません」

と伝えます。

「こちらも困っています」

担当者の感情を伝えるより、会社として対応を区切ります。

「これ以上の対応は困難です」

「本日の対応はここまでとさせていただきます」

「今後は書面で回答いたします」

という表現が適切です。

要求を断った後に会社が行うこと

対応内容を記録する

少なくとも、次の事項を記録します。

  • 日時、場所
  • 相手の氏名、連絡先
  • 相手の要求内容
  • 会社が確認した事実
  • 会社として伝えた回答
  • 暴言、脅迫、土下座要求などの有無
  • 対応時間
  • 同席者
  • 今後の対応方針

特に、金銭要求、処分要求、SNS投稿を示唆する発言、退去拒否などは、相手の言葉を可能な限り具体的に残します。

カスハラ対応で記録すべき項目や、録音・メール・対応履歴の残し方については、
カスハラ対応で残すべき記録とは|録音・対応記録・証拠保全のポイント
もご覧ください。

窓口を一本化する

要求を断った後、相手が別の店舗や部署へ連絡することがあります。

担当者ごとに回答が変わらないよう、窓口を一本化します。

「今後の窓口は、当社の担当部署とさせていただきます」

「本件については、管理者が対応いたします」

「各店舗や従業員への個別連絡はお控えください」

「今後は、メールによる連絡のみ受け付けます」

管理職・本部へ共有する

次のような場合は、現場だけで抱え込まず、管理職や本部へ共有します。

  • 高額な金銭要求がある
  • 従業員の処分を求められている
  • 暴言や脅迫がある
  • 長時間対応になっている
  • SNS投稿を示唆されている
  • 同じ連絡が繰り返されている
  • 担当者が強い不安や負担を感じている

会社として対応方針を決め、現場担当者を一人で対応させないことが重要です。

警察や専門家への相談を検討する

暴力、脅迫、退去拒否、業務妨害などがある場合は、警察への相談を検討します。

高額な金銭請求、法的主張、SNS投稿を材料にした要求などについては、弁護士への相談が必要になることもあります。

重要なのは、現場対応の範囲を超えていると判断した時点で、次の段階へ切り替えることです。暴力、脅迫、退去拒否、業務妨害などがある場合に、どの段階で警察へ相談するかについては、
カスハラ対応で警察に相談するのはどんな場合か|通報判断の基準を整理する
で解説しています。

まとめ

カスハラ対応では、会社側に不備があれば、必要な説明や謝罪、改善対応を行います。

しかし、高額な補償、土下座、従業員の処分、長時間対応、同じ要求の繰り返しなど、相当な範囲を超えた要求まで受け入れる必要はありません。

要求を断るときは、会社として確認した結果を伝え、できることとできないことを分け、理由を簡潔に説明します。

同じ要求が繰り返される場合は、いつまでも説明を続けず、対応を終了する判断も必要です。

正当な苦情には誠実に対応する。
一方で、断るべき要求には会社として明確に線を引く。

その判断を現場担当者一人に背負わせず、会社として伝えることが、従業員と会社を守るカスハラ対応につながります。

カスハラ対応に不安がある方へ

カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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