カスハラ【手段・態様編】正当な要望でもカスハラになるのはどんな場合か

カスハラは「要求のしかた」が問題になる場合がある
要求内容がもっともでも、やり方次第で問題になる
会社側にミスがある場面では、苦情や返金要求そのものは当然あり得ます。
しかし、暴言、威圧、長時間拘束、執拗な反復など、求め方が相当性を欠けば、それは別問題になります。
よって、「正当な苦情」と「許されない言動」は分けて考える必要があります。
カスハラシリーズでは、記事を要点整理的に記載していますので、ぜひ対応の参考にしていただければと思います。
まず知っておいていただきたいのは、お客様のクレームがすべてカスハラになるわけではないということです。少しきついクレームを受けたからといって、すぐにカスハラだと判断して顧客対応をしてしまうと、会社側が本来受け止めるべき苦情まで排除してしまい、結果として口コミ等で顧客が減少するおそれもあります。
ですから、そこの線引きはしっかりとしておく必要があります。
しかし、そうは言っても、会社のミス等による苦情で、お客様が怒るのももっともだという状況であったとしても、お客様の要求方法が相当性を欠く場合は、カスハラに該当する可能性があります。
ここでいう相当性とは、妥当であるということです。つまり、内容に一定の理由があったとしても、やり方まで何でも許されるわけではないということです。
現場では「何を求めているか」だけでなく「どう求めているか」を見る
前回の記事では、お客様の要求の内容を見ていきました。今回は、お客様の要求の行為・態様についてのお話です。
現場では、お客様が何を要求しているのかを確認するとともに、どのような方法を使って要求しているのか、この2点について冷静に確認する必要があります。
実務では、内容だけを見ていると、「たしかに返金要求には理由がある」「たしかに説明を求めること自体は不自然ではない」と判断してしまいがちです。
しかし、そこで終わってしまうと、現場の従業員が受けている圧力や恐怖、業務妨害の問題を見落とします。
ですから、内容と態様は分けて見る。これが非常に重要です。
カスハラ全体の定義や、正当なクレームとの違いを先に整理したい方は、
カスハラとは何か|正当なクレームとの違いと判断のポイント
を先にご覧ください。
厚生労働省が示す「手段・態様」で問題となる典型例
暴言、侮辱、人格否定
- 大声で怒鳴る
- 「こら!」「どうしてくれんねん!」「ボケ!」「弁償せんかい!」
関西弁で失礼しました。
ただ、このような大声は、店や会社側に要求するのに本当に必要でしょうか。必要ありませんよね。商売とはサービスですから、お客様の不平不満には耳を傾けるべきです。しかし、このような大声は度が過ぎることになる可能性があります。
侮辱的表現を使う
- 「アホちゃうか」
- 「頭がおかしいんじゃないか」
- 「そんなことも分からんのか」
- 「お前みたいなのは辞めてしまえ」
このような言葉も、要求を伝えるうえで不要です。
要求の中身を伝えるのではなく、相手を傷つけたり、萎縮させたりすることに向かっているからです。
従業員の人格を否定する
- 「お前なんか売上少ないやろ?」
- 「生きている価値がない」
- 「社会人として失格だ」
- 「そんな人間だから駄目なんだ」
このような言葉は人格否定に当たります。
要求内容とは関係がなく、従業員個人の人間性や存在そのものを攻撃していますので、要求の方法として適切ではありません。
威圧的な言動、脅しに近い言動
- にらみつける
- 高圧的に詰め寄る
- 「どうなっても知らないぞ」など、不安をあおる言い方
これらは、相手を畏怖させることで要求を受け入れさせようとするときの典型例です。
相手の目的は、話し合いや説明ではなく、恐怖や圧迫によって要求を通すことにあります。
現場では、目の前の言動に怯えてしまうこともあると思います。ですが、その本質を理解しておくことで、多少は冷静に対応しやすくなります。
つまり、相手は説明を求めているのではなく、威圧によって従わせようとしているのだ、という見方です。
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→カスハラ【言動の内容編】「要求内容」が社会通念上許容される範囲を超えるのはどんな場合か
長時間拘束、居座り、繰り返し電話
- 同じ要求を長時間続ける
- その場から離れない
- 繰り返し連絡し、通常業務を妨げる
その場から離れないというだけでは判断が難しい場合もあります。しかし、多くの場合は同じ要求を続けているため、その結果として離れないことになります。
また、その結果として通常業務を妨げることになりますので、これらは関連付けて理解する必要があります。
一つ一つの行為だけを見ると軽く見えることもありますが、反復、継続、拘束という観点から見ると、現場に与える影響はかなり大きいものになります。
SNS・口コミサイト等での攻撃や晒し
- 従業員個人を名指しする
- 執拗に低評価投稿を繰り返す
- 対応を迫るためにネット上で圧力をかける
ネット等で個人名を出し、口コミサイトにて評価を下げるコメントを記載するなどの行為も、カスハラに分類される場合があります。
特に、投稿が単なる体験共有ではなく、会社や従業員に圧力をかけて特別対応を引き出そうとするものである場合は、問題性が高くなります。
身体的威迫や有形力の行使に近い行為
- 机を叩く
- 物を投げる
- 胸ぐらをつかむ、進路をふさぐ
厚労省の資料や各種説明資料では、カスハラは態様や手段が社会通念に照らして許容範囲を超える言動を含み、頻度・継続性なども判断要素になるとされています。
上記の行為も、たまたま1回机を叩いたのか、継続して机を叩いたのかで判断が分かれることがあります。ただし、行為の危険性が高い場合には、1回でも十分問題になることがあります。
暴言や侮辱は、なぜ手段・態様として問題になるのか
苦情の伝達を超えて、人格攻撃になっている場合
- 事実への抗議ではなく、相手を傷つけること自体が目的化している
- 「無能」「辞めろ」など、業務改善要求とは別の攻撃になる
つまり、上記2点はお客様の要求ではないのです。
これは、ただの従業員や店舗、企業への攻撃です。弁償してほしいという要求と、従業員への攻撃は、意義も目的も違います。攻撃と要求は違うのです。
ここを混同すると、現場では「怒っているから仕方がない」と受け止めてしまいがちです。しかし、苦情と人格攻撃は別物です。
強い口調と人格否定は同じではない
- 苦情の場面では感情的になること自体はあり得る
- しかし、人格を傷つける言動は別問題
- 「怒っていること」と「何を言ってもよいこと」は違う
人ですから、ついカッとなり大声を出すこともあるでしょう。
それと人格を否定することとは違います。詳しくは現場判断の記事でお話ししますが、ここの線引きも大切です。
つまり、感情的になっていること自体を直ちに問題視するのではなく、その感情の表し方が、相手の人格や尊厳を傷つけていないかを見ていく必要があります。
現場で見るべきなのは、言葉の強さではなく言動の性質
- 何に対する苦情なのか
- 苦情の範囲を超えて個人攻撃になっていないか
- 就業環境への影響はどうか
最終的には、お客様の言動が就業環境にどう影響するかが問題となります。
単に「口調が強いか」だけではなく、その言動が現場の従業員を萎縮させ、通常業務や職場環境に悪影響を及ぼしているかどうかを見ることが必要です。
なお、要求内容そのものが不当な場合については、別記事で整理しています。
→ 【言動の内容編】「要求内容」が社会通念上許容される範囲を超えるのはどんな場合か
威圧的な態度や脅しに近い言動はどこから問題になるのか
声量や口調だけでなく、相手を支配しようとする態度に注目する
- 机に身を乗り出す
- 退路をふさぐ
- 複数人で取り囲む
要求の内容が常識的なものであっても、不安や恐怖を与える態度そのものが問題になります。
レアなケースかもしれませんが、「返品してほしい」という要望であっても、複数人で囲むなど威圧的な態度が継続すれば、カスハラに該当する可能性があるということです。
つまり、問題は「返品要求かどうか」ではなく、どういう態度で、どういう圧力をかけながら求めているかにあります。
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→カスハラ【ケース判断編①】暴言・侮辱・威圧はどこから許されなくなるのか
「説明を求めること」と「威圧して従わせること」は違う
お客様が店側の説明に納得できず、さらに説明を求めること自体はあり得ます。
しかし、恐怖を与えて回答を引き出そうとするなら、その行為が問題になります。
納得できないから説明を求めることと、相手を威圧して自分の要求を通そうとすることは同じではありません。
この違いを現場が理解していないと、「説明を求められているだけだ」と誤って受け止めてしまうことがあります。
現場では“相手が何を言ったか”だけでなく“どう迫ったか”も記録する
- 立ち位置
- 声量
- 表情
- 周囲の状況
- 他の従業員や客への影響
このようなお客様の行動を詳細に記録することは、のちに会社として判断を下す場合に重要なエビデンスとなります。
別の記事でも詳しくお話ししますが、この記録のためにも対応は複数が望ましいです。
単に「怖かった」で終わらせず、どういう態様だったのかを事実として残す、という視点が必要です。
この点は、あなたらしい視点として非常に大切です。
カスハラ対応では、後から振り返れるように事実を残すことが重要です。
長時間拘束、居座り、繰り返し連絡はなぜ問題か
一回一回の要求が妥当でも、反復・継続で許容範囲を超えることがある
- 同じ苦情を何度もぶり返す
- 回答済みでも納得せず連絡を続ける
- 対応終了後も終わらせない
いくら説明をしても納得せず、同じ苦情や要求を繰り返すことがあります。
反復・継続となると、必然的に長時間になる可能性があります。
しかも、回答に対して同じ要求を繰り返すのであれば、それは単なる苦情ではなく、時間稼ぎや業務妨害の問題を含むこともあります。
そうなると、要求の内容ではなく、従業員の業務を妨害すること自体が問題になってきます。
長時間拘束は、現場の通常業務と従業員保護の問題になる
- 一人の対応に人員が取られる
- 他の顧客対応が滞る
- 担当者の疲弊や恐怖につながる
長時間拘束による上記の影響は、従業員を保護する立場にある会社として、防止する必要があります。
カスハラはお客様対応でもあり、同時に従業員保護の問題でもあるということを忘れないでください。
一回なら正当でも、続けば別問題という視点が必要
- 頻度
- 継続時間
- 時間帯
- 対応済みかどうか
- 会社の説明後も続いているか
厚労省は、当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして許容範囲を超える言動を問題とする考え方を示しています。
要求内容が正当でも、上記項目を検討した結果、常識を逸脱するようであれば、カスハラとなる可能性があります。
ですので、「内容」又は「行為」という視点ではなく、内容と行為の両面から見るという視点が必要になります。
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→カスハラ【ケース判断編②】繰り返し要求・居座り・長時間拘束をどう判断するか
SNS投稿や口コミによる圧力はどのように考えるか
正当な口コミと、圧力手段としての投稿は分けて考える
- 体験を共有すること自体は当然あり得る
- しかし、謝罪や特別対応を迫る手段として投稿を使う場合は別問題
個々の対応をSNSで求めるというのは、どうなのかと思います。
「直接、店に言っても聞き入れてもらえなかったから」という理由でSNS等へ投稿されたのかもしれませんが、投稿内容が事実と異なるような場合には、法的問題に発展する可能性もあります。
もっとも、現実には立証が困難な場合もあります。ですからこそ、会社としては、感情的に反応するのではなく、記録を残しながら慎重に見ていく必要があります。
従業員個人を標的にする投稿は特に注意が必要
- 氏名を晒す
- 顔写真の掲載
- 個人攻撃の拡散
- 私刑化に近い圧力
従業員個人を晒し、誹謗中傷する行為については、従業員を守るという会社の責務の観点からも、厳正な対応を行う必要があります。
従業員の態度が悪いからといって、どこまでも誹謗中傷を受けてよいとはなりません。
オンライン上の言動も、就業環境を害するなら無視できない
現場だけの問題では終わらず、従業員の精神的負担が大きい場合には、企業として記録、相談、法的対応の検討が必要になることがあります。
オンライン上の言動であっても、場合によっては法令に抵触する可能性がありますし、サイト管理者に対して対応を依頼するなどの措置が必要になることもあります。
有形力の行使に近い行為は、やり方の問題を超えて危機対応になる
机を叩く、物を投げる、進路をふさぐ行為
これらの行為は、直接殴っていなくても危険性が高く、場合によってはその場の安全確保を優先すべき場面でもあります。
したがって、「実際に手を出されていないから何も対応できない」というわけではありません。
現場では、暴行に至っていないことだけを理由に軽く見てしまうことがあります。しかし、安全を脅かす行為である以上、すでに通常の接客対応の範囲を超えていると考えるべきです。
胸ぐらをつかむ、押す、接触する行為
これは単なる苦情対応ではなく、身体的安全の問題になります。
法令に抵触する可能性がありますので、現場判断だけで抱えないことが大切です。
もっとも、行為が明確な法令違反に近いものである場合は、現場でも一定の切り替えができるようにしておいた方がよいでしょう。
つまり、「これは接客の延長ではない」という認識を、現場にも持たせておく必要があります。
この段階では「接客対応」から「危機対応」へ切り替える
- 上司・責任者への即時報告
- 複数対応
- 必要時の警察通報
- 記録と証拠保全
もし、行為が明確な法令違反などに当たる場合は、上記対応を確実に行うことです。
ここまで来ると、もはや接客ではありません。危機対応です。
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→カスハラ【ケース判断編③】身体的な攻撃や有形力に近い行為はどこから危機対応になるのか
手段・態様が行き過ぎているかを現場で見極めるポイント
相手は解決を求めているのか、それとも支配・制裁に向かっているのか
- 話の目的が問題解決からずれていないか
- 相手を従わせること自体が目的になっていないか
何を言っても話にならない、そのような場合は、お客様に解決の意思があるとは思えません。
その言動の先に危機対応をすべき行為が発生するのであれば、もはや苦情対応とは言えないでしょう。
言動は反復・継続しているか
- 単発か
- 執拗か
- 対応後も終わらないか
従業員や現場にどの程度の影響が出ているか
- 恐怖
- 萎縮
- 業務停止
- 他の客への影響
- 継続対応困難性
その場で対応継続すべきか、上席判断に切り替えるべきか
- 現場担当者だけで抱えない
- 危険兆候があれば役割を切り替える
- 判断基準をあらかじめ決めておく
このあたりは、現場での初動判断と直結します。
現場担当者が一人で何でも処理しようとすると、判断も対応もぶれやすくなります。だからこそ、あらかじめどこで切り替えるかを決めておく必要があります。
現場でありがちな誤りと注意点
会社に非があるから、態様の問題まで見落としてしまう
申し訳なさから、暴言や長時間拘束まで受け入れてしまうことがあるかもしれません。
しかし、「謝るべきこと」と「許してよい言動」は別です。
その判断基準として大切なのは、やはり冷静さだと思っています。
怒っている顧客だから仕方ないと考えてしまう
苦情の強さを理由に、態様の問題を見逃してはいけません。
内容という視点と、行為の態様という視点。この2点から見ることを忘れないでください。正当な苦情でも、やり方が不相当なら別問題となります。
記録を残さず、後で検証できなくなる
- いつ
- どこで
- 誰が
- どのように
- どれくらい続いたか
これらを記録しておく必要があります。
記録をしておかないと、お客様の行為が法令違反等に該当し、危機対応として措置を行う際に致命的になります。後の対応も視野に入れると、記録は必須です。
まとめ|正当な要望でも、やり方が行き過ぎればカスハラになり得る
この記事のまとめ
- カスハラは、要求内容だけでなく手段・態様でも判断する
- 内容に一定の理由があっても、やり方が不相当なら別問題になる
- 暴言、威圧、長時間拘束、反復、SNS攻撃、有形力に近い行為は要注意
- 現場では「どう求められたか」を具体的に記録することが重要である
カスハラというと、どうしても要求内容ばかりに目が向きがちです。
しかし実際には、内容に一定の理由がある場面であっても、手段や態様が行き過ぎることで、現場に大きな負担や危険を生じさせることがあります。
ですから、現場では「何を求められたか」だけでなく、「どう求められたか」を具体的に見ていくことが大切です。
次回は、無形の行使編または有形力の行使編として、ケースごとの現場判断に進みます。
カスハラ対策に不安がある場合
カスハラ対応では、現場で何を断り、どこまで説明し、どの段階で上席判断に切り替えるかを、あらかじめ決めておくことが重要です。
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