ハラスメント調査で「供述が食い違う」時の判断基準|元刑事が教える、信憑性を見極める事実認定の技術

2026.03.03
管理職が判断と責任を担う場面を象徴するイメージ

「言っていることが違います。」

ハラスメント調査の現場で、最も多く耳にする言葉の一つです。

被害を訴える側と、行為を否定する側。
双方の供述が真っ向から対立したとき、管理職は強い緊張にさらされます。

どちらを信じるべきか。
早く結論を出さなければならないのではないか。
組織として、何らかの判断を示さなければならない。

そう考えるのは自然です。

しかし、ここで最も避けなければならないのは、「供述の強さ」や「印象」で結論を出してしまうことです。

感情の強い訴えが、必ずしも事実の強さを意味するわけではありません。
落ち着いた否認が、必ずしも真実を示すわけでもありません。

供述が食い違うという事実は、異常事態ではありません。
むしろ、調査では前提となる状況です。

問題は、食い違った供述を前にして、管理職がどの視点で整理し、どの順序で検証し、どこまで踏み込むかにあります。

本記事では、供述が対立した場面で管理職が確認すべき視点を、事実認定の構造に沿って整理します。

「どちらが正しいか」を直感で決めるのではなく、「何をもって認定するのか」を構造で考える。

それが、判断を誤らないための出発点です。

なぜ供述は食い違うのか

記憶の限界と心理的バイアス

時間経過による記憶の変容

人は時間経過に伴い、いろんなことを考えます。

すると、記憶していたことも少しずつ変化していくことは起こり得ます。

自己防衛・正当化

悪意はありませんが、人はどうしても自分の都合のいいように解釈をします。

感情の強度による記憶の歪み

時間が経過すれば段々と自分の都合の良いように解釈が変わることは考えられます。

自分の都合が入ってくるわけですので、感情の強弱が影響しているということになります。

虚偽とは限らないという前提

  • ズレ=嘘とは限らない
  • 故意と記憶違いの区別

供述がズレているからといって虚偽であるとは限りません。

故意でなくとも今お話ししたようなことが原因で記憶が変化し、供述が変わることは起こりえます。

「ハラスメントで「証拠がない」時の事実認定|元刑事が教える、供述の信憑性を見極める4指標」

管理職がやってはいけない初動判断

先に「加害者・被害者」を決めてしまう

特にハラスメント事案は被害の状況も刻一刻と変化するものですし、被害状況が変われば事案の状況も変化する可能性があります。

それなのに先に加害者・被害者と特定してはいけません。

調査次第では加害者の数も違ってくるかもしれません。

そうなると行為への加担率も変わってきますので、悪質性も変わってきます。

事案の全容を解明した後で、加害者・被害者が特定するという流れになります。

印象や態度で信用性を決める

動揺=虚偽ではない
冷静=真実でもない
被害を申告する。

これはとても勇気のいることです。

申告時には特に動揺もあるはずですので、聴取する際には申告者の心境も理解する必要があります。

また、冷静だからといって真実とも限りません。

用意周到に発言を準備している可能性もあります。

供述の強さで判断する

強い口調で言ったからといって真実であるとは限りません。

申告者の中には感情を出しにくい性格の方もいるはずです。

ヒアリングの際には注意してください。

供述対立を整理するための3つの視点

一貫性 ― 時系列と整合性を見る

前後関係の確認

供述の前後の内容、繋がりに矛盾がないかなどを確認する必要があります。

「直前まで楽しい気分であった」のが、理由もなく「嫌な気分になった」場合。

第三者供述との照合

目撃者との供述との整合性などはチェックする必要があります。

具体性 ― 再現可能か

抽象的主張と具体的行為の区別の必要性

抽象的主張とは以下のような供述を言います。

「いつも威圧的だった」

「パワハラだと思う」

「精神的に追い込まれた」

「無視された」

「嫌がらせを受けた」

これでは具体性がありませんので、事実を確認することができません。

具体的行為とは以下のようなことを言います。

「2026年2月3日15時頃、会議室Aで『使えないな』と言われた」

「1月から週3回、業務連絡を意図的に共有されなかった」

「LINEで深夜0時以降に3回連続で業務と無関係のメッセージが来た」

これらについては、本当にこのようなことが起こったかどうかという事実確認が可能になります。

詳細であるほど整合性の確認ができます。

事実認定の基本的な考え方については、
「ハラスメントで「証拠がない」時の事実認定|元刑事が教える、供述の信憑性を見極める4指標」で整理しています。

合理性 ― 因果関係が通るか

行為と結果の整合

ヒアリングの基本の部分になります。

なぜ、その行為をしたのか?

「好意はなかった」のに「執拗に食事に誘った」。

これでは因果関係が説明できません。

動機と行動の自然さ

因果関係があると動機と行動に整合性が認められます。

供述の具体性・一貫性・合理性をどのように評価するかについては、
「ハラスメント調査で「供述が食い違う」時の解決策|元刑事が教える、嘘を見抜き真実を導くヒアリング技術」で詳しく解説しています。

証拠と供述の関係をどう整理するか

物的証拠がある場合の優先順位

LINE、録音、メールなどがあれば、その証拠価値は高くなります。

無論、証拠を改ざんする、証拠を強要するなどの場合は除きますが。

ですので、可能な限り証拠を収集することが望ましいです。

証拠がない場合の判断方法

関係者との供述相互の整合性を確認する必要があります。

関係者が4人いると仮定して、4人の供述は一致し、行為者のみが違う場合。

この場合は関係者の供述を採用することになります。

ただし、関係者同士が供述をすり合わせる可能性もありますので、ヒアリングするタイミングは同時に近い方がいいでしょう。

あとは間接証拠の収集です。

行為前後の供述を拾い上げる。

例えば、「私はその日、その時間、営業に出ていたので、そのような行為はしていない。」と言った場合。

車両使用、社用スマホの記録の確認など、営業に出ていたかの有無を調査する必要があります。

それでも判断できない場合

「認定不能」という選択肢

白黒を無理に付けない

調査をした結果、事実認定ができない場合があるのか?

その答えは「あります。」

かなり昔の事案や当事者の人間関係が掌握できない場合がこれに該当します。

説明可能性を優先する

その際にも調査を尽くしたことと、立証困難であることの説明責任が生じます。

証拠もないままに処分をすることはリスクが大きいです。

判断不能と調査不足の違い

やるべきことをやったか

最後はこの一言に尽きます。

判断不能と調査不足は違います。

調査を十分に尽くした結果での判断不能なのです。

まとめ|参謀に求められる視点

私からお伝えしたいのは以下の3点となります。

  • 供述の強さではなく構造を見る
  • 感情と事実を分ける
  • 説明できる判断をする

この3点を意識してみてください。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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