ハラスメント調査で供述が食い違うとき|ヒアリングと事実整理の進め方

ハラスメント調査では、申告者と相手方の話が食い違うことがあります。
申告者は「強い言葉で叱責された」と話している。
相手方は「業務上必要な注意だった」と説明している。
申告者は「周囲にも聞こえていた」と話している。
相手方は「二人だけの会話だった」と説明している。
このような場面で、会社は判断に迷います。
「どちらの話を信じればよいのか」
「証拠がない場合は認定できないのか」
「本人の態度や話し方で判断してよいのか」
「追加で何を確認すればよいのか」
しかし、供述が食い違ったからといって、すぐにどちらか一方が嘘をついていると決める必要はありません。
記憶違い、見聞きした範囲の違い、言葉の受け止め方、心理的な緊張、時間の経過によって、供述がずれることはあります。
大切なのは、供述の食い違いを感覚で処理せず、具体的な事実に分けて整理することです。
この記事では、ハラスメント調査で供述が食い違うときに、会社がどのようにヒアリングし、事実を整理すべきかを解説します。
ハラスメントに該当するかどうかは、感情的な印象だけで判断するのではなく、業務上の必要性、言動の相当性、職場環境への影響を整理して検討する必要があります。判断軸の全体像は、こちらの記事で整理しています。
→ ハラスメント認定の基本|会社が確認すべき3つの判断軸
この記事で扱う問題
この記事で扱うのは、次のような場面です。
申告者と相手方の説明が食い違っている。
「言った・言わない」の状態になっている。
目撃者がいない。
録音や明確な証拠がない。
相手方が全面的に否定している。
申告者の説明が一部あいまいである。
ヒアリングをしたが、どこまで認定できるか分からない。
このような事案で、会社が避けるべきなのは、印象や人物評価だけで判断することです。
「普段から真面目だから」
「感情的に話しているから」
「態度が悪いから」
「涙を流していたから」
このような要素だけで判断すると、事実認定を誤る可能性があります。
会社が行うべきなのは、供述を具体的な事実に分け、客観資料や周辺事情と照合し、認定できる範囲を整理することです。
供述が食い違うのは珍しいことではない
ハラスメント調査では、供述の食い違いは珍しくありません。
申告者側には、報復への不安、職場での立場悪化への不安、混乱による記憶の揺らぎ、周囲に知られたくない気持ちがあることがあります。
相手方にも、懲戒処分への不安、評価低下への不安、自己防衛、問題を小さく見せたい気持ちが働くことがあります。
そのため、双方の説明が最初から完全に一致することは、むしろ少ないと考えた方がよいです。
供述が食い違っているからといって、直ちに「どちらかが嘘をついている」と見る必要はありません。
まずは、どの部分が一致していて、どの部分が食い違っているのかを整理します。
供述が食い違うときの基本姿勢
どちらかをすぐに信じる必要はない
会社は、申告者の話を軽く扱ってはいけません。
一方で、相手方を最初から加害者と決めつけることも避ける必要があります。
初期段階で必要なのは、どちらか一方を信じることではなく、確認できる事実を整理することです。
「申告者がこう話している」
「相手方はこう説明している」
「この点は一致している」
「この点は食い違っている」
「この点は資料で確認できる」
「この点はまだ確認できていない」
このように分けて整理することで、感情的な判断を避けやすくなります。
嘘を見抜くことを目的にしない
ヒアリングの目的は、相手の嘘を見抜くことではありません。
会社に必要なのは、誰かを追い詰めることではなく、事実関係を確認し、適切な対応判断につなげることです。
「嘘を見抜く」という意識が強くなると、聞き方が詰問調になりやすくなります。
その結果、相手方が防御的になり、必要な情報が出にくくなることがあります。
ヒアリングでは、結論を急がず、具体的な事実を確認します。
いつ、どこで、誰が、何を言ったのか。
その場に誰がいたのか。
前後にどのようなやり取りがあったのか。
その後、メールやチャットで何かやり取りがあったのか。
このような確認を積み重ねることが重要です。
一致点と相違点を分ける
供述が食い違う場合でも、すべてが食い違っているとは限りません。
たとえば、
同じ日に会議があったことは一致している。
会議後に二人で話したことは一致している。
発言の正確な文言は食い違っている。
声の大きさや雰囲気については認識が違っている。
その場にいた第三者について説明が異なっている。
このように、一致点と相違点を分けて整理します。
一致している部分は、事実認定の土台になり得ます。
相違している部分は、追加資料や再ヒアリングで確認すべきポイントになります。
よくある失敗例
申告者の話だけで結論を出す
申告内容が深刻であっても、申告者の話だけで直ちに処分や配置転換を決めることは慎重に考える必要があります。
申告者の保護や安全配慮は必要です。
ただし、事実確認が不十分なまま処分判断に進むと、後から会社として説明しにくくなる可能性があります。
初動段階では、申告者への配慮と、事実確認を分けて考えることが重要です。
相手方の否定だけで終わらせる
相手方が否定したからといって、それだけで調査を終えるのも適切とは限りません。
「本人が否定している」
「証拠がない」
「周囲も見ていない」
という理由だけで終了すると、申告者は「会社は何も確認してくれなかった」と感じることがあります。
相手方が否定している場合でも、前後のメール、チャット、勤怠記録、会議参加者、周囲の状況など、確認できる資料がないかを検討します。
態度や印象で判断する
ヒアリングでは、相手の態度が気になることがあります。
視線が合わない。
怒っている。
泣いている。
話が細かすぎる。
説明が淡々としている。
しかし、こうした態度だけで信用性を判断することは危険です。
緊張、不安、怒り、体調、性格、立場によって、話し方や表情は変わります。
態度は補助的な要素にとどめ、供述内容、客観資料との整合性、前後の経緯を中心に確認することが重要です。
ヒアリング記録を要約しすぎる
ヒアリング記録を要約しすぎると、後から判断しにくくなります。
たとえば、
「強く叱責された」
「威圧的だった」
「不快な発言があった」
という記録だけでは、具体的に何があったのか分かりません。
できるだけ、
「どのような言葉があったのか」
「どの程度の時間だったのか」
「誰が近くにいたのか」
「その後どのような行動を取ったのか」
を残します。
ヒアリング記録は、後の事実認定と対応判断の土台になります。
会社が確認すべき事項
いつ・どこで・誰が・何をしたのか
まず、申告内容を具体的な事実に分けます。
いつ起きたのか。
どこで起きたのか。
誰が関係しているのか。
具体的にどのような発言や行為があったのか。
その場に誰がいたのか。
その後、どのようなやり取りがあったのか。
抽象的な表現のままでは、供述同士を比較できません。
「ひどい言い方だった」ではなく、「どのような言葉だったのか」を確認します。
「みんなの前で言われた」ではなく、「誰がその場にいたのか」を確認します。
双方の供述で一致している点
次に、双方の説明で一致している点を整理します。
日時。
場所。
会議や面談があった事実。
同席者。
前後の業務上の経緯。
メールやチャットのやり取り。
その後の行動。
一致している点は、事実認定の土台になり得ます。
供述が対立している事案でも、一致点を整理することで、事案の全体像が見えやすくなります。
食い違っている点
次に、食い違っている点を明確にします。
発言の有無。
発言の正確な文言。
声の大きさ。
場所や距離。
同席者の有無。
相手方の反応。
前後の経緯。
「供述が食い違っている」と大きくまとめるのではなく、どの部分が食い違っているのかを細かく分けます。
食い違いの内容によって、追加で確認すべき資料や関係者が変わります。
客観資料と照合できる点
供述だけで判断せず、客観資料と照合します。
確認対象になり得るものには、次のようなものがあります。
メール。
チャット。
勤怠記録。
入退室記録。
会議予定。
業務日報。
録音。
防犯カメラ映像。
通話履歴。
過去の面談記録。
たとえば、「その時間に会議室で二人だけだった」という説明がある場合、入退室記録や会議予定で確認できることがあります。
「その後すぐに上司へ相談した」という説明がある場合、メールやチャットの送信時刻が参考になることがあります。
関連記事
→ハラスメント調査の進め方|申告内容の奥にある周辺事実を確認する方法
再ヒアリングが必要な点
一度のヒアリングですべてが整理できるとは限りません。
供述と資料を照合した結果、追加で確認すべき点が出てくることがあります。
発言の正確な文言。
その場にいた人。
発言前後のやり取り。
メールやチャットとの矛盾。
日時や場所のズレ。
本人の説明が変わった理由。
再ヒアリングでは、責めるような聞き方を避け、確認したい点を具体的に示します。
「前回のお話と、このメールの時刻に違いがあるように見えます。この点について、改めて確認させてください」
このように、確認事項を絞って聞くことが大切です。
実務対応の流れ
1. 供述を時系列で整理する
まず、双方の供述を時系列で整理します。
発生前の経緯。
問題となる発言や行為。
その場の状況。
その直後の行動。
その後の相談や連絡。
会社への申告までの流れ。
時系列で並べると、説明の抜けや矛盾が見えやすくなります。
また、どの資料を確認すべきかも整理しやすくなります。
2. 供述対照表を作る
供述が食い違う場合は、供述対照表を作ると有効です。
同じ出来事について、申告者、相手方、目撃者、客観資料を横並びで整理します。
たとえば、
日時。
場所。
発言内容。
同席者。
前後の経緯。
その後の行動。
このように整理すると、一致している点、食い違っている点、未確認の点が分かりやすくなります。
3. 客観資料と突き合わせる
次に、供述と客観資料を突き合わせます。
供述だけで判断するのではなく、メール、チャット、勤怠記録、入退室記録、会議予定などと照合します。
客観資料が供述を直接裏付けることもあります。
反対に、供述の一部と合わないこともあります。
その場合は、直ちに虚偽と決めつけるのではなく、なぜズレが生じているのかを確認します。
4. 矛盾点を再確認する
供述と資料にズレがある場合は、必要に応じて再ヒアリングを行います。
再ヒアリングでは、抽象的に聞くのではなく、確認したい点を具体的に示します。
「その発言は、正確にはどのような言葉でしたか」
「その場には誰がいましたか」
「その後、誰かに相談しましたか」
「このチャットの前に、どのようなやり取りがありましたか」
質問を具体化することで、供述の精度が上がります。
5. 判断理由を記録する
最後に、判断理由を記録します。
どの事実を認定したのか。
どの事実は認定できなかったのか。
どの供述を重視したのか。
どの客観資料と整合していたのか。
どの点については確認できなかったのか。
なぜそのように判断したのか。
結論だけを残すのではなく、判断過程を残すことが重要です。
判断理由が記録されていないと、後から説明が難しくなります。
関連記事
供述評価で大切なのは中立性
ハラスメント調査では、申告者を守る視点が必要です。
一方で、相手方を最初から加害者と決めつけない視点も必要です。
この二つは対立するものではありません。
申告者への配慮を行いながら、事実確認は中立的に進める。
相手方の言い分も確認しながら、必要な再発防止策を検討する。
認定できる事実と、認定できない事実を分けて整理する。
このような姿勢が、会社の対応への信頼につながります。
供述評価で大切なのは、「誰を信じるか」を感覚で決めることではありません。
確認できる事実を積み上げ、会社として説明できる判断にすることです。
まとめ
ハラスメント調査で供述が食い違うことは珍しくありません。
供述が食い違ったときに大切なのは、すぐにどちらか一方を信じたり、態度や印象で判断したりしないことです。
まず、申告者と相手方の供述を具体的な事実に分けます。
そのうえで、一致点、相違点、客観資料で確認できる点、再確認が必要な点を整理します。
供述対照表を作り、メール、チャット、勤怠記録、入退室記録などと照合することで、事案の全体像が見えやすくなります。
最終的には、認定できた事実、認定できなかった事実、判断理由を記録します。
ハラスメント調査で重要なのは、嘘を見抜くことではありません。
会社として、確認できる事実を整理し、説明できる判断につなげることです。
ハラスメント調査の進め方に不安がある場合
ハラスメント調査では、供述が食い違う場面が少なくありません。
特に、次のような場合は、早めに調査方針を整理しておくことが重要です。
申告者と相手方の話が大きく食い違っている場合。
録音や明確な証拠がない場合。
目撃者がいない場合。
管理職や役員が関係している場合。
懲戒処分や配置転換を検討している場合。
調査結果をどのように整理すべきか迷っている場合。
当事務所では、ハラスメント事案を含む社内トラブルについて、初動対応、事実確認、ヒアリング、事実認定、処分判断の整理を支援しています。
関連サービス:事実認定調査・内部トラブル対応
社内だけで判断しにくい場合や、ハラスメント調査の進め方に不安がある場合は、早い段階でご相談ください。


