事実認定の「仕組み」を元刑事が徹底解説|感情を排し、証拠に基づいた妥当な結論を導く基準

職場でのハラスメント調査やヒアリングを象徴するイメージ

社内調査を進め、証拠を集め、関係者からの供述を整理した後、
企業は必ず一つの判断に向き合うことになります。

「この事案は、どこまで事実として認定できるのか。」

証拠が十分に揃っているとは限らない。
供述も食い違っている。
状況は見えてきたが、決定打がない。

このような場面で、判断が止まってしまうケースは少なくありません。

そして実務では、次のような思考に陥りがちです。

「確実に証明できない以上、認定はできないのではないか」
「グレーなら結論は出さない方が安全ではないか」

しかし、この考え方には大きな落とし穴があります。

企業に求められているのは、裁判のように「完全に証明された事実」を確定することではありません。

限られた証拠と供述の中で、どこまでを事実として認定できるのかを整理し、合理的な根拠に基づいて判断を構築することです。

言い換えれば、事実認定とは「白黒をつける作業」ではなく、「認定できる範囲を確定する作業」です。

この視点を持たないまま判断を進めると、

・過剰に慎重になり、何も決められなくなる
・逆に、根拠の薄い認定で誤った処分をしてしまう

という両極端のリスクに陥ります。

本記事では、企業における事実認定の基本構造を整理し、証拠や供述をどのように評価し、どこまでを事実として認定するのか、
その判断の組み立て方を実務の視点から解説します。

判断を止めないための「事実認定の考え方」を、具体的に見ていきます。

事実認定とは何か

事実認定は「処分」ではない

誤解されやすいポイント

事実認定をすることが処分ではありません。

さまざまな供述や証拠を収集した結果、会社としてはどこまでが事実なのかを特定していく作業を行う必要があります。

認定と処分の分離

事実認定と処分判断は、別のプロセスとして整理する必要があります。

事実認定とは、「何が起きたのか」を確定する作業です。
一方、処分は、その認定された事実に対して「どのような対応を取るか」を決める判断です。

この二つを混同すると、

・処分を前提に無理な認定をしてしまう
・認定が不十分なために何も対応できなくなる

といった問題が生じます。

特に実務では、「処分できるかどうか」という視点から認定を考えてしまいがちですが、まずは事実としてどこまで認定できるのかを冷静に整理することが重要です。

その上で、認定された範囲に応じて、処分・指導・環境調整など、適切な措置を検討します。

事実認定は「判断の前提」

認定 → 評価 → 措置

この順番を間違えてはいけません。

例えば、被害者が10の事実を申告したとします。

調査の結果、そのうち7を事実があったとして認定します。

そうなると処分は10ではなく、7の事実があったとして処分をする必要があります。

この順番を間違えると、7の事実しか認定できないのに、10の事実を行ったとして処分を行うことになります。

そうなると、不当な処分とみなされたり、事実なしとしてみなさなれる可能性もあります。

不祥事発覚から処分決定までの全体像(フロー)を確認したい方は、こちらの記事を参考にしてください。

『不祥事対応の「正解」を元刑事が解説|初動から事実認定、再発防止までの完全ガイド』

企業の事実認定は裁判とは異なる

企業内判断と刑事責任の違い

裁判は、法律に基づいて国家が責任を確定させる手続であり、刑罰や賠償といった重大な結果を伴うため、厳格な証拠と高い立証水準が求められます。

一方、企業判断は、職場環境の維持や組織運営を目的として行われるものであり、供述や状況証拠を含めた合理的な根拠に基づく総合判断で対応が検討されます。

ですので、裁判とは求められる基準が異なります。

ただし、社員や周囲に対する説明責任を果たせる程度の資料等は必要であると言えます。

また、証拠がないといって放置していると、二次被害や訴訟のリスクにもつながります。

『証拠がない』という壁をどう乗り越え、調査を設計すべきかについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

『ハラスメントで「証拠がない」と諦める前に。元刑事が教える、事実を積み上げ立証する調査設計』

「合理的根拠に基づく判断」で足りる

今お話ししたとおり、企業内判断においては完全な証明は必要ありません。

ただし、完全な照明を目指して証拠収集等の調査を行う必要がありますし、判断するときには説明責任を果たす必要があります。

事実認定の基本構造

① 行為の事実は認定できるか

何が起きたか

申告を受けた事案はどのような事案なのかを認定しなければいけません。

5W1Hの確定

被害の強弱、関係者の数など、証拠を収集した結果、どこまで認定できるかという作業に入ります。

② 供述と証拠の整合性

各人の供述の一貫性・具体性・合理性を精査を行います。

その次に供述者同士の供述内容の整合性を検証します。

関係者の言い分が真っ向から対立している場合、プロはどこを見て『信憑性』を判断するのか。

具体的な評価技術はこちらの記事をご覧ください。

『ハラスメント調査で「供述が食い違う」時の判断基準|元刑事が教える、信憑性を見極める技術』

③ 状況証拠の積み上げ

直接証拠というのはある方が珍しいくらいくらいです。

ですので、直接証拠が集まらないことを前提に各証拠を収集する必要があります。

④ 認定できる範囲を区切る

認定は全部かゼロかではありません。

そんなことをしていたら事実認定はできません。

ほとんどが事実なしになってしまいます。

供述者が共通して語っている部分などは認定できる可能性が高いですが、認定を行うのは人数だけの問題でもありません。

供述の内容、時期などをしっかりと検証しましょう。

認定できる場合とできない場合

事実認定できるケース

整合性が高い

その他の証拠との整合性がか高い場合、自分に不利な供述をしている場合、本人しか知り得ないような内容の供述をしている場合などは信ぴょう性も高いと言えるでしょう。

補強証拠がある

供述内容について、いわゆる「裏が取れる」ものは信ぴょう性が高いと言えます。

裏が取れるというのは確認ができるという意味です。

認定できないケース

判断材料が不足している場合が該当します。

端的に言いますと、他者が否定したときにそれを覆すようなものがない場合も該当します。

グレー事案との関係

「認定できない=事実がない」ではない

「認定できない」とは、証拠や供述が不足しており、事実として確定できない状態を指します。

一方で、実際にその行為がなかったと断定できる状態ではありません。

ですので、事実があったと推定される場合でも、認定できる材料があるか無いかで認定に影響が出ることになります。

無罪と無実の違いに似ています。

無罪は 証明できない(有罪と認定できない)ことであり、

無実はそもそも事実がないことです。

これを企業実務に当てはめると

認定できないとは、証拠が足りず、事実として確定できないことであり、

事実がないとは行為そのものが存在しないということです。

認定できない場合の整理方法

事実があったと推定される場合でも認定できるほどの証拠がなかった場合。

会社は何もしないのかということ問題が出てきます。

この場合でも二次被害防止のため、通達や注意喚起の発出などを検討すべきです。

『ハラスメントとまでは断定できない』という結論に至った際、会社として取るべき適切な対応については、こちらの記事にまとめています。

『ハラスメントで「認定できない」と言い切る勇気。元刑事が教える、グレー事案の正しい判断基準』

事実認定と措置は分けて考える

認定と処分は別物

認定ができない場合は何も処分ができないわけではありません。

認定ができないのであれば、労働者に不利益となる懲戒処分等は困難です。

懲戒権の濫用にもなるからです。

しかし、可能な措置はあります。

それは口頭注意や指導です。

組織的措置という選択

そして、口頭注意や指導のほか

  • 配置見直し
  • 配置転換
  • 業務分離
  • 接触制限環境調整
  • ルールの明確化
  • 研修・注意喚起

などの組織的措置は可能です。

これは二次被害の防止という目的もあります。

実務でやってはいけない事実認定

結論ありきで認定する

普段の勤務態度などによるイメージ先行で先に結論を決めていませんか?

イメージと真逆の事実というのはいくらでもあります。

感情ではなく証拠を客観的に精査しましょう。

証拠の一部だけを見る

証拠は全て目を通して下さい。

これもイメージ先行に通じるところがあります。

全ての関係者の供述、証拠を精査して下さい。

思いがけない事実認定のヒントが隠されている、なんてことはよくあります。

感情で判断する

公正にかつ客観的に調査をして下さい。

関係者はその姿勢を見ています。

そこから新たな情報が提供されることもあります。

「この人に言っても無駄だ」と思われたら情報は入ってきません。

信頼は客観的姿勢から生まれます。

白黒思考に陥る

事案によっては被害者と行為者の悪性が0対100では無いケースもあります。

ですから、被害者が絶対正しいとは思わないでください。

まとめ|事実認定は「判断の核」である

  • 証拠だけでは足りない
  • 評価だけでも足りない
  • 最後は総合判断

■ 判断に迷ったときこそ、初動で差がつきます

事実認定は、証拠・供述・状況を総合的に整理し、「どこまで認定できるか」を見極める高度な判断です。

しかし実務では、

  • 証拠が不足している
  • 供述が食い違っている
  • 処分判断との関係で迷っている

といった場面で、判断が止まってしまうケースが少なくありません。

本来、事実認定は「止めるためのもの」ではなく、「判断を前に進めるためのもの」です。

■ シールド社会保険労務士事務所のサポート

当事務所では、

  • 社内調査の設計
  • 供述評価の整理
  • 事実認定の判断支援
  • グレー事案の対応方針の整理

といった、企業の不祥事対応を実務レベルでサポートしています。

特に、

「証拠が十分でない」
「判断に確信が持てない」

といったケースこそ、外部の視点が有効です。

■ ご相談について

初動対応から調査、判断、再発防止まで、一貫した支援が可能です。

まずはお気軽にご相談ください。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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