「ハラスメントが怖くて指導できない」を卒業する|元刑事が教える、感情に流されない判断基準と伝え方

2026.02.10
経営判断と外部専門家の助言を象徴するイメージ

「それは課長が対応したほうがいいですよ。」

「それは課長でやっておいてくれ。報告だけは頼んだよ。」

ハラスメント案件を取り扱うとき、最も孤立しやすいのは管理職(特に中間管理職)ではないでしょうか。

これは管理職の判断力や誠実な対応の問題だけでなく、「立場の構造」に原因があるといえます。

本記事では、

・管理職が板挟みになる理由
・孤立から抜け出すための考え方、立ち位置の整理

について扱っていきます。

管理職がハラスメント対応で板挟みになる「本当の理由」

被害者・加害者の「どちらの上司でもある」という立場

管理職は、相談者の所属部署による違いはあるものの、業務上の評価者であることが多い立場です。

そのため、通常業務において、相談者・行為者双方の仕事ぶりを把握している立場でもあります。

仮に部署が異なっていたとしても、他部署の上長から、フィルターのかかった評価情報が上がってくることも少なくありません。

また、ハラスメント案件でジャッジを下す場面では、よほどのことがない限り、双方にとってプラスとなる結論はまずあり得ません。

「会社の顔」と「現場の人間」の二重役割

管理職は、組織の方針を伝える立場、つまり「会社の顔」としての一面を持つ一方で、現場を代表する立場でもあります。

言い換えれば、「会社と現場、双方の立場や気持ちが分かる位置にいる」、ということです。

権限は限定的なのに、責任だけが重い

最終的な判断や処分権限は、懲罰委員会等に委ねられることが一般的であり、管理職個人に処分権限はありません。

しかしその一方で、調査の陣頭指揮や報告義務など、実務上の責任は重くのしかかります。

この問題は単発の事象ではなく、組織構造や経営判断と密接に関係しています。

危機管理全体の考え方については、
関連記事「経営者の「甘い判断」が不祥事の火種に|元刑事が教える、組織崩壊を招く「小さな例外」の正体」で整理しています。

管理職が無意識に背負わされている3つの期待

相談者からの「守ってくれるはず」という期待

被害者(相談者)は、相談をした以上、当然のように共感され、すぐに救済してもらえると期待します。

しかし実際には、調査には一定の時間がかかることが多く、被害者が想定しているスピード感で処理が進まないケースが一般的です。

その結果、被害者から「期待を裏切られた」と受け取られてしまうことが少なくありません。

行為者側からの「分かってくれるはず」という期待

「〇〇課長は、僕がそんなことをする人間じゃないって分かっていますよね?」

自部署の部下が調査対象となった場合、このような言葉を聞くことは珍しくありません。

これは、日常的な人間関係があるからこその訴えであり、感情が極限まで表出した言葉だといえます。

この言葉を真正面から受け止めてしまうと、管理職は感情の渦に巻き込まれ、冷静さや客観的視点を失ってしまうおそれがあります。

会社からの「波風を立てずにまとめてほしい」という期待

会社としては、そもそもハラスメント事案が発生してほしくないと考えているケースが多いでしょう。

できることなら、水際で止めてほしい、そう願っているはずです。

ただし、それは予防策の話です。

予防については、研修の実施や相談窓口の設置、社内への周知によって抑止することが可能です。

しかし、すでに発生した相談を受理したにもかかわらず、それを「なかったこと」にするのは、事案や相談を潰しているに過ぎません。

受理した以上、迅速に対応すべきです。

つまり、
「波風を立てずにまとめる」ことはできません。
できるのは、
波風を最小限に抑えることだけです。

管理職が「やってはいけない立ち位置」

調整役になろうとする

管理職は調整役ではなく、
調査役になる立場です。

一文字違うだけですが、その意味は大きく異なります。

特に初期段階において、
双方の言い分をすり合わせるような調整は不要です。

初期対応で求められるのは、
事実認定に向けた情報収集に徹することです。

「いい上司」であろうとする

「その気持ち、分かるよ」
「君は間違っていない」

ヒアリングの際に傾聴する姿勢は重要です。

しかし、感情が入りすぎると、結果次第では、「裏切られた」「話が違う」といった不信感につながることがあります。

問題を自分の中で抱え込む

組織が抱える問題を、管理職個人の問題として抱え込んではいけません。

孤立すると、
「自分が何とかしなければならない」
と考えてしまいがちです。

こうした思い込みが、判断ミスを招く原因にもなります。

管理職へのフォローが必要だとされる理由は、まさにここにあります。

板挟みから抜け出すための考え方の整理

管理職は「判断者」ではなく「位置づけを明確にする人」

管理職は一次的な対応者ではありますが、最終判断者ではありません。

あくまで、相談を受け付ける窓口的存在であることを忘れてはいけません。

通常業務の役割と、相談を受理した際の役割を明確に区別する意識が重要です。

感情の受け皿と、事実の扱いを分けて考える

共感は必要ですが、過度な感情移入は避けるべきです。

共感できたとしても、証拠がなければ事実認定は困難です。

感情と事実認定は、まったく別のものだという点を常に意識する必要があります。

個人対応から組織対応へ切り替える意識

ハラスメント対応は、すべて組織対応が原則です。

最終的に責任を負うのは、個人ではなく組織だからです。

自分一人で完結させないことが重要です。

管理職が自分を守るために最低限意識すべきこと

「その場で結論を出さない」

判断を留保することには、正当性があります。

なぜなら、事実認定前に結論を出すことはできないからです。

① 情報収集
② 情報をもとにした調査
③ 調査結果に基づく事実認定

この順番を、しっかり覚えておきましょう。

「自分の役割」を言語化する

管理職の役割は、相談を受ける立場であり、判断を下す立場ではありません。

この点を明確に理解しておく必要があります。

早い段階で次のレイヤーに渡す

相談や申告を受けた場合は、速やかに人事、専門部署、外部窓口へつなぎましょう。

手元で抱え込んではいけません。

管理職の仕事は「つなぐこと」である。
この点を、肝に銘じておきましょう。

ハラスメント対応で管理職が板挟みになり、
孤立しやすくなるのは、対応方法や判断力の問題ではありません。

管理職という立場そのものが、「判断を任されやすく、責任が集中しやすい構造」になっていることが根本的な原因です。

本記事では、その構造がハラスメント対応の場面でどのように顕在化するのかを整理してきました。

一方で、
「なぜ管理職が、ハラスメントに限らず、さまざまな場面で“判断役”に据えられてしまうのか」という問題は、さらに一段上の視点で考える必要があります。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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