元刑事の社労士が教える:勤怠管理の「グレー運用」が詰む瞬間 〜事件は会議室ではなく、タイムカードの裏で起きている〜

勤怠管理や労務管理業務を象徴するイメージ

はじめに:「グレー」は「黒」への入口に過ぎない

白からグレーになった瞬間、そこにはすでに「黒」の要素が混じっています。

黒色とは、法令違反、あるいはそれに限りなく近い行為です。

犯罪も労務トラブルも共通して言えるのは、

すべては「小さな見逃し」から始まっているということです。

想像してみてください。

被告人が法廷で「自分だけが悪いことをしているわけじゃない」

と供述して、許されるでしょうか?

労務トラブルで経営者が「業界のみんながやっているから」

と是正勧告を拒むのは、それと同じことです。

つまり、通用しないのです。

【パターン1】「黙示の指示」という名の動かぬ証拠

刑事の眼で見れば一目瞭然「消せないログ」の恐怖

打刻とPC操作履歴の乖離は、言い逃れのできない物証となります。

たとえば、勤怠システム上は18:00退勤でも、

実際は20:00まで仕事をしていた場合。

PCのログ、退勤後のメール・チャット送信履歴、業務指示の痕跡があれば、

それは「残業を行っていた」という強力な状況証拠になります。

タイムカードの数字だけを法令に合わせても、真実は隠し通せません。

「サービス残業」は、賃金の「窃盗」か「詐欺」か?

労働をさせておいて賃金を支払わない「サービス残業」は、

明確な労働基準法違反です。

ここではあえてその悪性を強調してお話しします。

サービス残業を強いる行為は、

刑事の視点で見ればこう言い換えることができます。

  • 本来、労働者の財布に入るべき賃金を会社が奪う「窃盗」

  • 最初から賃金を支払うつもりがないのに労働させる「詐欺」

もちろん、即座に刑法が適用されるわけではありません。

しかし、今の労基署や裁判所は、サービス残業を単なる『過失』ではなく、

こうした犯罪行為と同等の悪質性を持って見なす時代になっています。

確信がなくても「もしかしたら法に触れるかも」と思いながら放置することを、

刑事の現場では『未必の故意』と呼びます。

確信犯と同等に扱われ、悪性は高まります。

経営において、この状態は最も脆弱なセキュリティホール(防犯上の弱点)なのです。

【パターン2】「現場の善意」という名の隠蔽工作

朝礼・掃除・着替え。その10分が「余罪」を増やす

「始業前のたった10分の朝礼」。

しかし、塵も積もれば山となります。

わずか10分の未払いでも、全従業員分を過去3年分(時効)まで遡れば、

企業を揺るがす額の損害賠償事件に発展します。

【試算例】 従業員50名(3年在籍)が、1日10分のサービス残業(単価1,500円・割増1.25倍)を続けた場合……。 賃金未払い額は、約1,200万円にものぼります。

取調べで剥がれる「自主的」という仮面

「部下が自主的にタイムカードを定時で押した」という弁明は、

実態が伴わなければ無効です。

周辺調査やヒアリングを行えば、隠蔽はすぐに露呈します。

【パターン3】休憩時間という名の「待機・監視命令」

電話番をさせながらのランチは「拘禁」に近い

休憩中の自由を制限することは、労働者の時間を占有することです。 「

新人が電話番をするのは当たり前」という感覚は、現代では通用しません。

特に教育・福祉の現場などでは、休憩が取れないことが常態化していますが、

これは残業問題よりも根が深い問題です。

「6時間を超えれば45分、8時間を超えれば1時間」の休憩付与は、

経営者の努力義務ではなく、絶対的な「義務」なのです。

【元刑事の視点】トラブルを未然に防ぐ「労務の職務質問」

違和感のある勤怠データは「犯行予告」と同じ

人員も設備も変わっていないのに、

毎日定時打刻で、なぜか成果物だけが大量に上がってくる。

刑事の眼でこれを見れば、明らかに「おかしい」と直感します。

このモヤモヤとした違和感を放置しないでください。

それはトラブル発生の「犯行予告」かもしれません。

退職者という名の「重要参考人」が爆弾に変わる時

在職中は沈黙を守り、退職と同時に証拠を持って労基署へ駆け込む。

このパターンが最も恐ろしいものです。

また、最近は在職者による匿名通報も増えています。

労基署は通報者を明かしませんが、

本人が名乗り出れば調査の優先度は一気に上がります。

内部からの告発は、証拠が揃っているだけに防衛が困難です。

危機管理全体の考え方については、
親記事「不祥事は突然起きない ― 経営判断と組織構造が危機を生む理由」で整理しています。

まとめ:経営者に求められるのは「コンプライアンスという名の防犯」

刑事事件も労務問題も、被害が発生してからでは遅いのです。

サービス残業のような「一見、被害者が見えにくい違反」から、

ハラスメントのような「被害者が明確な事案」まで、

一度事件化すれば刑事・民事の両面で係争に巻き込まれるリスクがあります。

不祥事は突然起きるものではありません。

数ヶ月、数年前から蓄積された「勤怠管理の歪み」という前兆が必ずあります。

現場の小さな嘘、形骸化したタイムカード、そして「これくらいは……」という油断。

それらが限界を超えた瞬間、是正勧告や損害賠償という「事件」が顕在化します。

「うちの業界では、これくらい当たり前だから……」

刑事時代、多くの被疑者から聞いたこの言葉。

実は今の労務現場でも、この「甘い認識」が企業の命取りになっています。

かつて数々の現場で「嘘」と「証拠」を突き合わせてきた私には、

今の勤怠管理に潜む「グレーな運用」が、まるで「犯行予告」のように見えてなりません。

悪意はなくとも、放置すればそれは「賃金の窃盗」や「詐欺」と見なされ、

会社を根底から揺るがす大事件へと発展します。

なぜ10分の未払いが、1,200万円の損害賠償に化けるのか?

社労士という視点から、あなたの会社が「加害者」にならないための、

そして「被害」から身を守るためのチェックポイントをまとめました。

予防体制の構築や、
内部統制の再設計をご検討の場合は
「不祥事予防・危機管理参謀顧問」をご覧ください。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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