ハラスメント相談を受けた直後にやるべき初動対応24時間チェックリスト

なぜ「最初の24時間」が決定的に重要なのか
初動対応の遅れが招く3つのリスク
被害の拡大と二次被害
ハラスメントの相談等を受けた場合、多くの経営者や担当者は「困ったなあ」と言いながら、実際にはどう対応すればよいのかわからず、時間だけが過ぎていく傾向があります。
面倒だという気持ちや、どう対応してよいのかわからない不安が重なり、次の行動に移せずにいるケースは少なくありません。
しかし、現在はネット・SNSの時代です。
対応が少しでも遅れれば、社内に噂が広まる可能性は十分にあります。
噂が広まるのは一瞬です。
しかもそれは、若手社員のLINEグループや社内チャットなど、経営者や担当者の目が届かないところで起こります。
証拠の散逸・記憶の劣化
噂が広まるのは一瞬ですが、証拠が失われるのも一瞬です。
LINEの履歴、スマートフォンの写真、メッセージのスクリーンショットなどは、意図的でなくとも簡単に消えてしまいます。
記憶についても同様です。
「被害者の記憶は簡単には消えない」と考えられがちですが、目撃者や第三者の記憶はどうでしょうか。
昨日、通勤の最寄駅で見かけた駅員さんの顔を正確に覚えていますか。
多くの方は覚えていないはずです。
また、人は責任が伴う場面では、確証がなければ証言を避ける傾向があります。
時間の経過とともに、証言は曖昧になり、集めにくくなります。
会社側の対応不備と法的リスク
対応が遅れ、相談者のその後の社内生活に影響が出た場合、会社は訴訟や損害賠償請求といった法的リスクを負う可能性があります。
「何もしなかった」「判断を先延ばしにした」
その姿勢自体が、会社の責任を問われることもあります。
ハラスメント対応は「調査」以前に勝負が決まる
初動は事実認定ではなく、環境整備とリスク遮断
事実認定は重要です。
しかし、初動で最も大切なのは、対応できる体制を整えることです。
体制が整っていなければ、そもそも適切な対応はできません。
対応できる体制があるからこそ、被害の拡大や二次被害といったリスクを遮断できます。
体制を整えることが先、対応はその後です。
この順番を間違えないことが重要です。
感情対応と事実認定を分離する必要性
「普段から勤務態度が悪いから、今回もきっと〇〇さんが悪い」
「〇〇さんとは正直、口も聞きたくない」
仕事の現場では、どうしても感情が入り込みます。
それ自体を否定することはできません。
しかし、従業員に不利益処分を科す可能性のある調査に感情が入れば、判断は歪みます。
人の好き嫌いで、減給や処分が決まるようなことがあってはなりません。
調査と処分には、公的責任に近い重みがあります。
だからこそ、あらゆる角度から事実を捉え、冷静に判断する必要があります。
初動設計の全体像については、
親記事「ハラスメント発覚後の初動対応|判断と事実認定の原則」で整理しています。
最初の24時間で絶対にやってはいけないこと
「とりあえず話を聞く」が一番危険な理由
誘導質問・評価的発言の危険
状況を整理しないままヒアリングを行うと、思い込みによる質問や、本来ヒアリングすべき対象者に聞かないといった事態が起こります。
一方の意見だけを聞いた後、別の情報が入り、再度ヒアリングを行う。
このような対応を繰り返すと、調査担当者としての信用を失いかねません。
その場で結論・評価・処分を示してはいけない
「それはハラスメントです/違います」と言ってはいけない理由
事実認定は、収集可能なすべての情報を集めたうえで行います。
初期段階で結論を出すことはできません。
後から新たな情報が入り、事実関係が大きく変わることは珍しくありません。
初動で立場を固定すると後戻りできなくなる
初動で立場を固定した後に変更すると、対象者への説明、再ヒアリング、関係者調整など、大きな労力が発生します。
関係者が増える、立場が変わるといったことは、ハラスメント対応ではよくあることです。
だからこそ、初動で安易に立場を固定してはいけません。
最初の24時間で必ずやるべき5つの対応
① 相談の事実を正確に「記録」する
5W1Hではなく「時系列」と「当事者の言葉」を残す
5W1Hも重要ですが、時系列の整理と、当事者の言葉をそのまま残す記録が重要です。
各対象者の時系列整理は、事実把握に大きく役立ちます。
整理すべきなのは時間だけではありません。
場所や位置関係も同様です。
例として、行為のあった場所について
Aは「部屋の中央」と供述し、
別の対象者は「部屋の端」と供述する。
この場合、事実をどのように確認するのか。
そのためにも、時間だけでなく場所や位置の整理が必要になります。
メモ・相談受付票の考え方
相談受付票は、調査の端緒となる重要な資料です。
調査の結果、将来的に何らかの処分を行う可能性もあります。
その場合、受付票は処分の疎明資料になり得ます。
相談受付票は、作成し、記録し、適切に保管しておく必要があります。
② 被害者の安全確保・就業環境の一次対応
配置・業務・接触の整理
被害者と断定していない段階であっても、配慮は必要です。
ただし、事実認定前に加害者と決めつけて遠ざけることはできません。
初期段階では、あくまで被害申告者の保護が中心となります。
これは二次被害防止の観点から、事実認定前であっても実施すべき対応です。
これは「処分」ではなく「暫定措置」である
暫定措置である以上、加害者側に対する不要な不利益措置は避ける必要があります。
③ 関係者への不用意な共有を止める
噂・善意の共有が最大のリスク
ネット・SNSの時代では、良かれと思った情報共有であっても、情報はすぐに独り歩きします。
特に「〇〇さん、パワハラをしているかもしれない」といった表現は、慎重でなければなりません。
知る必要がある人を最小限に絞る基準
基本的には、対象者が関わる一部の管理職で十分です。
同じ人事部内であっても、情報共有は慎重に行う必要があります。
④ 調査が必要かどうかを切り分ける
「相談=即調査」ではない
相談を受けたからといって、直ちに調査を開始するわけではありません。
まずは事実の概要を把握し、調査を行うための準備を進めることが必要です。
⑤ 社内での対応主体を明確にする
誰が窓口で、誰が判断し、誰が記録を管理するのか
役割を明確にすることで、情報共有を最小限に抑えることができます。
これは関係者保護にもつながります。
担当不在が一番危険
その場その場で担当者が変わると、情報が断片化し、事実認定に時間がかかります。
中途半端な情報を多くの関係者が持つことになり、情報漏洩のリスクも高まります。
初動対応で「判断を誤らない」ための視点
被害者の訴えと「事実認定」を切り離して考える
事実かどうかと、配慮が必要かどうかは別問題
事実認定前であっても、二次被害防止のために会社には従業員保護の義務があります。
「事実認定が終わるまで何もしない」という対応は許されません。
「感情」ではなく「事実」を扱う姿勢を崩さない
怒り、同情、正義感は判断を歪めることがあります。
特に「早く被害者を守りたい」「早く事実を確定させたい」という正義感が、ヒアリングや調査を歪めることもあります。
最初の24時間を乗り切るために企業が備えるべきこと
相談を受ける側の教育・マニュアルの有無
管理職の判断だけに頼っていては、初動対応はできません。
管理職が不在、体調不良、海外出張、異動、退職することもあります。
常に判断できる管理職がそばにいるとは限らないのです。
そのためにも、教育とマニュアル化が必要です。
教育により、同じ事象に対しても多角的な視点が生まれます。
マニュアルがあれば、手続きに無駄な時間をかけずに済みます。
外部窓口・第三者を使うという選択肢
初動を社外に出す最大のメリットは、客観性です。
従業員と日常的な利害関係がないからこそ、事象を俯瞰して捉えることができます。
ヒアリングにおいても、感情や社内力学に左右されません。
また、第三者である以上、情や利害関係による遠慮もありません。
必要な調査を、必要な範囲で行うことができます。
ただし、私としては、社内にも客観的に物事を俯瞰できる人材が育つことを望んでいます。
作成した調査書などを通じて、調査の進め方を学んでいただければと思っています。
まとめ 24時間でやるべきことは「判断」ではなく「整理」
初動で会社の姿勢はすべて伝わる
最初の一歩で、事案に対する会社の姿勢は明確に伝わります。
警察の世界では「初動は警察の命」と言われます。
それほど初動は重要です。
初動を誤ると、その後の事実解明に大きな影響を与えます。
冷静な初動が、その後のすべてを楽にする
最初の24時間で行うべきことは、冷静かつ客観的な事実整理です。
すべてを完璧に整理する必要はありません。
しかし、これから調査を行うための基礎資料は整えておく必要があります。
申告内容
関係者
発生場所
被害の状況
証拠の有無と種類
これらを整理したうえで、調査に臨みましょう。
「24時間と初動」
私はこの言葉をとても大切にしています。
弊所へのお問い合わせは、原則24時間以内に返信させていただくようにしています。
それも私にとって初動なのです。
本記事では、ハラスメントの相談を受けた「最初の24時間」に何をすべきかを解説しました。
しかし、初動対応は調査全体のほんの入り口にすぎません。
実務レベルでの初動設計が必要な場合は、
「危機対応・初動対応アドバイザリー」をご覧ください。




