ハラスメント調査で判断を誤らないための事実認定|供述評価の実務ポイント

2026.01.25
職場でのハラスメント調査やヒアリングを象徴するイメージ

「ハラスメントの訴えがあった。すぐに被害者の話を信じて、加害者を処分しなければ」 もしあなたが今、経営者としてそう考えているのなら、一度立ち止まってください。

延べ20年の刑事経験、そして数々の企業不祥事現場を見てきた私からお伝えしたい、残酷な真実があります。それは、「被害者であっても、最初からすべてを正確に、ありのままに話すわけではない」ということです。

なぜ、自ら助けを求めたはずの被害者が真実を伏せるのか。そこには「報復への恐怖」や「自己防衛」、あるいは「混乱による記憶の変容」といった、深い心理的な壁が存在します。

この壁を突破し、感情の奥底に埋もれた「客観的事実」を掘り起こすには、単なる聞き取りではない、極めて冷静で戦略的なヒアリング技術が必要です。

今回は、なぜ被害者が本当のことを言わないのか、そして「判断を誤らない経営者」になるために必要な事実認定の極意についてお話しします。

「本当のことを言わない」具体的な心理

人は誰もが「自己防衛」する生き物

皆さんは「本当のことを言わない人がいる」と聞くと、どう思いますか?

おそらく「とんでもないやつだ」「けしからん」と思うのではないでしょうか?

そして、本当のことを言わないのは「行為者」つまり「悪い方」の当事者だと思っているのではないでしょうか?

しかし、実際には本当のことを「言えない」場合もありますし、「良い方」の当事者、つまり被害者側が該当することもあるのです。

私も今まで数えきれない取り調べと事情聴取を行ってきました。

そして、民間企業でもヒアリング、調査を行ってきました。

人は誰もが自己防衛をします。

自分にとって都合のいいことしか言わない。

これは聖者でもない限り当たり前の話なのです。

同じ「言わない」でも、その理由は真逆になる

犯人が共犯者のことを言わない場合は、共犯者のことを庇っているわけです。

その反対に積極的に共犯者の存在を話すときは、自分だけが罪を背負いたくないという気持ちが働くわけです。

上記の例で言うと、同じ言わないという「行為」でも、その「理由(原因)」は真逆となるわけです。

拙速な判断が招くリスク

不当処分として訴えられる可能性

本当のことを言わないから、悪いやつだと決めつけ、証拠もないまま処分をしてしまうと「不当な処分」として訴えられる場合があります。

周囲の従業員からの信用失墜

また、その当事者の周囲からも「会社はろくに事情聴取もせずに判断をした」と思われ、当事者以外の従業員からも信頼を失います。

SNSが当たり前のこのご時世ですから、信用を失うのは一瞬です。

初動設計の全体像については、
親記事「ハラスメント発覚後の初動対応|判断と事実認定の原則」で整理しています。

「刑事の眼」で真実を捉える、事実認定の進め方

人的証拠・物的証拠の整合性を突き合わせる

ではどのようにして事実認定を行うかですが、これは人的、物的証拠を集めるしかありません。

人的証拠は目撃者等が該当しますが、加害行為者側の供述も参考にしなければいけません。

加害行為者が反省し本当のことを話し、被害者側がそうでないとうケースは頻繁にあります。

私の経験上、善悪について100対0というのはあまりありませんでした。

なんの罪のない交通事故や通り魔的なもの、災害に関するものくらいでしょうか?

ですから、それぞれの供述の矛盾点、客観的証拠の有無、などを収集する必要があります。

  • 供述内容がコロコロ変わる。
  • 目線が落ち着かない。
  • やけにイラついている。

このような場合は要注意です。

これらの態度が直ちに虚偽を意味するものではありませんが、
他の証拠や供述との整合性を慎重に確認する必要があります。

本当のことがバレてしまう前に、早く本件を片付けてしまいたいという心理が働いている可能性があります。

矛盾を見逃さない「疑いの目」と「冷静なヒアリング」

このような態度、文言を見破るにはどうすればいいのでしょうか?

これは冷静にかつ客観的に事案に向き合うしかありません。

これを言うのは多少抵抗がありますが、良くも悪くも「人は嘘をつく」のです。

もちろん、人を傷つけないために言う嘘もありますので、嘘の全てが悪いわけではありません。

しかし、事情聴取を行う場合、誰に対しても常に疑いの目は持っておく必要があります。

でないと、供述や証拠の矛盾点は見つけられません。

矛盾点を見つけようとするならば、疑いの目を持つ必要がありますよね?

虚偽を疑う事例

  • 共犯が3人いたが、そのうち1人は親友なので共犯は2人と言った
  • 会社のお金を横領したが、額が違っていた
  • セクハラ行為をしたが、当初は被害者も同意していた可能性がある

調査をすればいろんなことが判明する場合があります。

そこを拾い上げて判断をする必要があります。

判断そのものも大切ですが、その過程を当事者は見ています。

真相解明に取り組む姿勢も会社への信用、つまり、働くモチベーションにつながるのではないでしょうか?

本稿で述べているのは、被害者を疑うということではありません。
むしろ、被害者を守るためにも、感情ではなく事実に基づく判断が必要だという意味です。

実務レベルでの初動設計が必要な場合は、
「危機対応・初動対応アドバイザリー」をご覧ください。

この記事は役に立ちましたか?
もし参考になりましたら、下記のボタンで教えてください。

刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

関連記事

目次