なぜハラスメントは繰り返されるのか|組織構造と管理監督者責任

2026.02.12
コンプライアンス体制の整備や予防策を象徴するイメージ

ハラスメントは「個人の問題」では終わらない

「今回のセクハラの件。〇〇君だったのか。とんでもない奴だな。」

「仕事はできていると思っていたのに、意外だなあ。」

ハラスメントが発生し、社内に情報が広まると、
周囲の関心は行為者個人の問題その後の処分に集中しがちです。

しかし、本当に問うべきなのは、
「なぜ、その行為が起きたのか」
言い換えれば、
なぜ、そのような行為をするようになったのかという点です。

責任追及よりも、まず原因追及。
これは、ミスや不祥事を防ぐうえでの原点です。

同じ加害者・同じ部署で繰り返される理由

例えば、同じ職場でセクハラが何度も発生しているケースを考えてみましょう。
しかも、行為者が同一人物であった場合、
その原因は本当に「性格の問題」だけなのでしょうか。

人間ですから、異性に関心を持つこと自体は自然なことです。
しかし、異性への関心が強いからといって、
必ずしもセクハラ行為に及ぶわけではありません。

問題は、個人の性格や嗜好ではなく、
セクハラを許容してしまう職場環境や構造にあることが多いのです。

「何度注意しても変わらない」という場合、
それは是正の対象が個人にとどまり、
職場環境や権限構造にまで踏み込めていない状態だと言えます。

「一度解決したはずなのに再発する」組織の共通点

多くの組織では、
処分や注意を行えば解決したと考えてしまいがちです。

しかし、ハラスメントが再発する職場では、
再発防止策が文書化されていない、
あるいは社内で十分に共有されていないケースが目立ちます。

事実認定を行う段階では、情報共有は必要最小限でなければなりません。
一方で、再発防止策については、最大限の共有が必要です。

当事者を特定せずとも、
社内への啓発や注意喚起は十分に可能です。

再発防止策が形骸化するメカニズム

対応直後は、連絡文書や通達によって注意喚起が行われます。
しかし、半年も経過すると、
まるで何もなかったかのように日常業務に戻ってしまいます。

また、部署による温度差も生じます。
総務・人事部門では意識されていても、
現場では「もう終わった話」になっていることも少なくありません。

これらに共通するのは、
時間の経過とともに、継続と共有が行われなくなるという点です。

関連記事「ハラスメント発覚後の初動対応|判断と事実認定の原則」

組織構造に内在する3つの盲点

権限と責任の所在が曖昧な組織構造

ハラスメント案件が発生した際、
「誰が判断するのか」が不明確な組織は少なくありません。

現場のリーダーなのか、
それとも管理部門なのか。
判断主体が曖昧なままでは、
お互いに「相手が対応するだろう」と考え、何も進みません。

結果として様子見の状態が続き、
それが常態化します。

このような状況では、行為者から見れば、
組織が無法状態に見えてしまうのです。

管理職が「板挟み」になる制度設計

上司からは「穏便に済ませろ」と言われ、
一方で当事者からは
「あの件は、その後どうなったのですか」と問われます。

管理職は、典型的な板挟み状態に置かれます。

さらに、人事権を持たない管理職に
判断を委ねてしまっているケースもあります。

判断できない立場の人に、
判断を押し付けていないか、改めて確認する必要があります。

現場任せにされるハラスメント対応

たとえマニュアルが存在していても、
それをどう運用すればよいかが分からない。
管理部門からの支援もない。

この状態では、現場の管理職は孤立します。

適切な対応ができず、孤立したままでは、
事案が前に進むはずがありません。

管理職教育の致命的な欠落点

「判断基準」を教えられていない管理職

ハラスメント該当性の判断軸が曖昧なままでは、
管理職は感覚やフィーリングで判断してしまいがちです。

本来必要なのは、
事実認定を行うための訓練です。
自ら考え、整理し、判断する力が求められます。

ハラスメントを「感情問題」として処理してしまう教育

研修の最後に、
「気をつけましょう」
「相手の気持ちを考えましょう」
といった言葉で締めくくられることは少なくありません。

感情配慮は確かに必要です。
しかし、最終的に行うべきは事実認定です。

感情配慮は入口での対応、
事実認定は判断、すなわち出口です。

入口の感情だけで、
ハラスメント問題を処理することはできません。

初動対応と事実認定の訓練不足

相談を受けた直後の初動対応は、極めて重要です。
しかし、その具体的な方法を教えられていない管理職は多くいます。

事例を用いながら、
「何を聞くのか」「どこまで確認するのか」を
具体的に学ぶ必要があります。

「ハラスメントはいけません」という
一辺倒の教育では不十分です。

なぜ研修をやっても効果が出ないのか

知識偏重で「行動設計」がない研修

法令研修は重要です。
法令はすべての基本となるからです。

労働基準法などを理解しているからこそ、
実務での応用が利くのも事実です。

しかし、法令知識だけでは現場では使えません。
その場で何をするのか、
具体的な行動まで落とし込む必要があります。

管理職自身のリスクとして教えられていない

管理職が、自身の役割と責任の範囲を
正しく理解していないケースも少なくありません。

自分の判断が、
組織にとってリスクになり得ることを
理解しておく必要があります。

研修と実務が分断されている現実

研修は年に一度。
一方、実務は日々行われています。

研修内容が実践的でなければ、
受講者は「研修は現場とは別物だ」と感じてしまいます。

ハラスメントが「放置される組織」の特徴

相談を受けても動かない管理職

「動かない」と表現しましたが、
実際には「動けない」が正確です。

判断ができないだけで、
管理職に悪意があるわけではありません。

しかし、当事者から見れば、
「何もしていない」と映ってしまいます。

管理職教育の全体像については、
親記事「「調査」が必要になる前にやるべきこと ― 管理監督者教育が危機を防ぐ理由」で整理しています。

問題を小さく見せようとする内部力学

風評や評価、対外的影響への恐れから、
組織は問題を小さく見せようとします。

組織防衛のつもりでも、
それは本当の意味での防衛にはなっていません。

不祥事を起こした企業が、
会見を遅らせ、言い訳を重ねる姿は、
結果的に火に油を注いでいます。

自浄機能を強化することこそが、
組織を守る道です。

「事実認定」を避ける組織文化

事実認定を行うと対立が生じる、
そう考えている組織もあります。

しかし、対立よりも重要なのは、
社会や従業員からの信頼です。

事実を明らかにし、
会社として毅然と対応することが、
信頼につながります。

繰り返さない組織に変えるために必要な視点

個人対応から「仕組み対応」への転換

相談フロー、判断フローを明確にし、
属人化を防ぐことが重要です。

「あの人は対応してくれたのに、この人は違う」
そうした不公平感を生まない仕組みが必要です。

管理職に求める役割を明文化する

現場担当者、現場管理職、管理部門、経営層。
それぞれの役割を明確にし、文書化し、周知する必要があります。

役割を明文化することは、
管理職を守ることにもつながります。

まとめ ― ハラスメント再発は組織の設計ミスである

問題は「誰が悪いか」ではなく、
「どう設計されているか」です。

個人に責任を押し付けるのではなく、
ルールやフローに問題がないかを見直す必要があります。

責任追及ではなく、原因追及。
役割分担や報告フローを、今一度確認してみてください。

管理職を守る仕組みが、結果的に組織を守る

管理職の役割を明確にすれば、
その上下の役割やフローも自然と整理されていきます。

現場と経営層の間に立つ管理職の位置づけを見直し、
適切に判断できる環境と構造を整えることが、
不祥事を防ぐことにつながると確信しています。

ハラスメントが発生し、
「調査をしなければならない」という段階に入った時点で、
実は組織はすでに後手に回っている状態にあります。

多くの職場では、
問題が表面化してから調査体制を整えようとしますが、
本来重要なのは、その前段階です。

なぜ管理職は初動で動けなかったのか。
なぜ判断を誤り、問題が拡大してしまったのか。

その根本原因を辿ると、
行き着く先は「管理監督者教育」にあります。

管理職向けの実践型研修をご検討の場合は、
【実戦型】危機管理・不祥事防止研修」をご覧ください。

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刑事15年・人事労務10年の経験を融合。「刑事の眼」と「実務目線」を併せ持つ社労士として、ハラスメント等の組織トラブル解決を専門としています。

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