ハラスメントの認定基準とは?判断に必要な3つの要素と実務の見極め方

「それは本当にハラスメントに当たるのか。」
現場ではこの問いが最も難しく、かつ最も重要です。
被害を訴える声がある以上、軽視は許されません。
一方で、事実関係や法的構造を整理せずに結論を出せば、
組織の統制や公正性を損なう危険もあります。
ハラスメントの認定は、感覚や印象で行うものではありません。
法律が定める要件に沿って、構造的に判断する必要があります。
本記事ではまず、現行法が定めるハラスメントの基本構造を整理します。
判断の出発点は、常に条文にあります。
なぜ「認定基準」を誤ると組織は崩れるのか
感情論で判断すると何が起きるか
ハラスメント事案では、当事者双方の感情が強く表出します。
しかし、感情に引きずられて判断すると、次のような問題が生じます。
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事実認定の歪み
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判断基準の不統一
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処分の不均衡
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後日の紛争リスクの増大
組織として求められるのは、あくまで客観的事実に基づく判断です。
「被害申告=即ハラスメント」ではない理由
被害申告があった場合、真摯に受け止める姿勢は不可欠です。
しかし、申告があったという事実のみで、直ちにハラスメントと認定することはできません。
各ハラスメントは、法令上の要件に該当するかどうかによって判断されます。
したがって、実務では必ず
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事実関係の整理
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法的要件への当てはめ
というプロセスを踏む必要があります。
逆に、軽視することで生じる法的リスク
一方で、被害申告を軽視することにも重大なリスクがあります。
事業主にはハラスメント防止措置義務が課されています。
対応が不十分な場合、企業は次のような責任を問われる可能性があります。
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安全配慮義務違反
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使用者責任
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職場環境配慮義務違反
企業に求められるのは、過剰反応でも放置でもない、構造的で説明可能な判断です。
法的に見るハラスメントの基本構造
現在、日本における代表的なハラスメントは、以下の法律により規律されています。
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パワーハラスメント:労働施策総合推進法 第30条の2
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セクシュアルハラスメント:男女雇用機会均等法 第11条
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マタニティハラスメント:男女雇用機会均等法 第9条第3項 ほか
いずれも、単に「不快だった」という主観だけで成立するものではありません。
一定の要件を満たす場合に、事業主に防止措置義務が課される構造になっています。
以下、それぞれの法的定義を確認します。
パワーハラスメントの法的定義
(労働施策総合推進法第30条の2)
労働施策総合推進法 第30条の2第1項は、
職場におけるパワーハラスメントを次の3要素で定義しています。
1.優越的な関係を背景とした言動
「優越的な関係」とは、必ずしも上司部下の関係に限られません。
職務上の地位、人事評価権限、専門性、人数差などにより、実質的に抵抗や拒否が困難な関係も含まれます。
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
指導や注意であっても、業務上の必要性を欠く場合、または方法・態様が社会通念上相当と認められない場合は、この要件に該当する可能性があります。
判断は、
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業務目的との関連性
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発言内容・態様
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継続性・反復性
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周囲の状況
などを総合考慮して行われます。
3.労働者の就業環境が害されること
「就業環境が害される」とは、労働者が身体的・精神的に苦痛を受け、就業する上で看過できない支障が生じることをいいます。
厚生労働省の指針では、平均的な労働者の感じ方を基準として判断する旨が示されています(令和2年厚生労働省告示第5号)。
セクシュアルハラスメントの位置付け
(男女雇用機会均等法第11条)
男女雇用機会均等法 第11条は、職場における性的な言動に起因する問題について、事業主に防止措置義務を課しています。
セクシュアルハラスメントは、大きく以下の2類型に整理されます。
1.対価型セクシュアルハラスメント
性的な言動への対応により、労働条件に不利益を受けるもの。
例:拒否したことを理由に降格・解雇等が行われる場合。
2.環境型セクシュアルハラスメント
性的な言動により就業環境が不快なものとなり、能力の発揮に重大な悪影響が生じるもの。
ここでも、単なる主観ではなく、就業環境への客観的影響が重要な判断要素となります。
マタニティハラスメントの位置付け
(男女雇用機会均等法第9条3項 等)
男女雇用機会均等法 第9条第3項は、妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いを禁止しています。
また、同法第11条の3では、
妊娠・出産・育児休業等に関する言動により就業環境が害されることについても、防止措置義務が定められています。
典型例としては、
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妊娠を理由とする降格・契約更新拒否
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育児休業取得への嫌がらせ
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制度利用を抑制する発言
などが挙げられます。
最高裁判例(平成26年10月23日判決・いわゆる広島中央保健生協事件)においても、妊娠を契機とする不利益取扱いの違法性が明確に示されています。
以上が、法的に見たハラスメントの基本構造です。
共通するのは、
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一定の関係性
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相当性を欠く言動
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就業環境への影響
という三層構造で成り立っている点です。
次章では、この構造を実務でどのように判断していくかを整理します。
初動対応の全体像については、
👉 ハラスメント発覚後の初動対応|判断と事実認定の原則
で体系的に解説しています。
判断に必要な3つの要素
① 行為の客観性 ― 「何があったのか」
発言内容
行為者からどのような言動があったのか。
また、普段からどのような言動がなされているのか。
行為前後の言動の違い。
実際に発した言葉以外にもメール、SNSなどでのやり取りについても必ず確認対象に含めます。
行為の具体性
どこまで具体的に説明ができるかがポイントです。
「殴られたような気がした。」
「左手で胸ぐらを掴まれて、右手拳で殴られた。」
信ぴょう性が高いのはどちらだと思いますか?
無論、後者だと思いますが、ここでチェックポイントをお伝えします。
詳細な供述ほど信憑性は高いですが、他の供述、証拠と矛盾する可能性があります。
ですので、想像で詳細に供述すべきではありません。
注意しましょう。
証拠の有無
証明には証拠が必要です。
防犯ビデオの映像、メール・チャット、目撃者も含まれます。
反復性
証拠があれば、1回の行為でも成立することはあります。
しかし、反復性は悪質性を強く裏付けます。
例えば、1回の行為と10回の反復行為とでは、悪質性の評価は当然異なります。
② 関係性の構造 ― 「力関係はどうだったか」
上下関係
行為者との関係性を確認するのは大事です。
しかし、必ずしも行為者が役職上位者とは限りません。
上下関係は抵抗できないなどのハラスメントの成立要件にもなりますが、「決めつけ」の原因にもなりますので気をつけましょう。
人事評価権限の有無
行為者の権限は調査では重要になります。
評価者のいうことは逆らえないことが多いです。
被害者の供述の裏付けとして、行為者の権限の確認は必須です
影響力の実態
行為者の職場における影響力がどの程度かを確認します。
これも被害者の供述の裏付けになります。
③ 就業環境への影響 ― 「働ける状態か」
心理的負荷
被害者の心理的負荷に対しても考慮する必要があります。
心理的負荷が大きい場合は病院等で診断を受けている可能性があります。
本人からのヒアリングもそうですが診断等のエビデンスが必要な場合もあります。
業務遂行への支障
心理的負荷が業務にどれほどの影響を与えているのかも把握する必要があります。
配置換えが必要なのか否か。
休職・異動・退職の有無
被害を被ったこと結果、どうなったのかも判断の一つになります。
結果が全てではありません。
しかし、虚偽の申告で退職までするのか、ということも考慮する必要があります。
よくある誤解と実務上の落とし穴
「本人が嫌だと言った=ハラスメント」ではない
各ハラスメントに共通して言えることですが、業務上必要でかつ適切な範囲内であれば、注意、指摘は問題はありません。
ここを勘違いされる方がおられますが、注意してはいけなということではありません。
「指導だから問題ない」は通用しない
指導であっても、業務に必要がないとか、相当の範囲を超えた場合には、ハラスメントと捉えられる可能性があります。
例えばですが、
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業務改善のための指導 → 原則OK
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感情的な叱責・人格否定 → 目的乏しい → NG方向
となります。
一回でも成立するケースとは何か
行為者の言動、方法、被害者の被害の程度により、1回の行為でハラスメントが認められるケースはあります。
実務での判断プロセス(管理職向けフレーム)
事実と評価を分ける
事実とは証拠や供述から確認できる出来事そのものです。
評価や感想は含みません。
事実の例)
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2026年2月3日15時頃、会議室Aにおいて
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上司Xが部下Yに対し
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「何度言えば分かるんだ」と発言した
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同席者は3名
→ これは事実
評価とは認定した事実を法的・組織的観点から意味付けする作業のことです。
評価の例)
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優越的関係の有無
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相当範囲逸脱の有無
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就業環境侵害の有無
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懲戒相当性
これは結論側の作業です。
まずは事実関係を客観的に収集、整理をし、事実が固まってから判断を行います。
ハラスメント対応において最も重要なのは、「何が起きたか」という事実認定と、「それがハラスメントに当たるか」という評価判断を明確に分離して検討することです。
供述評価の基本(具体性・一貫性・合理性)
供述をどのように評価するかについてですが、
本人しか知り得ないような具体的な内容であること。
誰がいつヒアリングをしても供述にズレがないこと。
人ですので記憶違いはあると思いますが、記憶違いを通り越した供述の変遷だと一貫性を疑わざるを得ません。
そして、供述の内容に合理性があること。
合理性とは因果関係つまり原因と結果などに矛盾がないことを言います。
判断できない場合の対応
判断ができない場合でも判断できるまでやる。
これしかありません。
そのためには専門家等を活用することも検討する必要があります。
ここで注意しておきたいのは「判断できない」と「認定できない」ことは別だということです。
調査をし尽くした結果、証拠がない場合は厳重処分にするのは難しいでしょう。
しかし、そのことを説明できるくらい調査をすれば、会社としてやり尽くしたと言えます。
判断できないことと、事実認定ができなかったことは同義ではありません。
事実認定ができなかったと判断する場合もあり得ます。
そこまで調査を尽くすため、専門家の活用も検討すべきです。
まとめ|認定とは“結論”ではなく“責任ある判断”
感情ではなく構造で見る
仕事でも言えることですが、同僚と話がしたくないから業務が進まないでは困るわけです。
業務を進めるために感情を抑えるべき時は必要なはずです。
ましてや、従業員の生活や立場に影響を与えるハラスメントの調査ですので感情で判断してはいけません。
判断を誤らないために管理職が持つべき視点
管理職が持つべき視点は客観性です。
徹底した客観性を持ち公正に対応する。
これに尽きると思います。
組織としての再発防止につなげる
再発防止については仕組みで防止するしかありません。
そのための原因追及です。
ハラスメントの認定判断は、初動対応の質によって大きく左右されます。
初動対応の全体像については、次の記事もあわせてご確認ください。




